「サイボーグになる前のような、台湾での日々」「人間以外の存在を感じている日々」サイボーグの二人の時間|CORONA-XVoices

コロナウイルスの感染拡大の状況下で、さまざま場所、一人ひとりのリアルな日々を記録していきます。
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2020年早春から、世界の社会、経済、文化、そして一人ひとりの日常生活や行動を一変する出来事が起こっている。現在160ヶ国以上に蔓延する、新型コロナウイルスの世界的大流行だ。いまも刻々と、今日そのものを、そしてこれからの日々を揺るがしている。
先の見えない不安や混乱、コロナに関連するさまざまな数字、そして悲しい出来事。耳にし、目にするニュースに敏感になる毎日。

この状況下において、いまHEAPSが伝えられること。それは、これまで取材してきた世界中のさまざまな分野で活動する人々が、いま何を考え、どのように行動し、また日々を生活し、これから先になにを見据えていくのか、だ。

今年始動した「ある状況の、一人ひとりのリアルな最近の日々を記録」する連載【XVoices—今日それぞれのリアル】の一環として、〈コロナとリアリティ〉を緊急スタート。過去の取材を通してHEAPSがいまも繋がっている、世界のあちこちに生きて活動する個人たちに、現状下でのリアリティを取材していく。

※※※

「いま、台湾にいるんだよ」。近況を尋ねようと久々に連絡を取ってみると、思わぬ返事があった。政府公認の世界で初めてのサイボーグであるニール・ハービソン(Neil Harbisson)。自ら頭部に生やしたアンテナによって、新しいセンス(感覚)を備え、人間が感知できない色を周波数から識別する(もともとニールは色盲。詳しくは、4年前のニールとの初めての取材記事を)。

ニールの幼馴染であり仕事のパートナーでもあるムーン・リーバス(Moon Ribas)も、久しぶりの連絡に応えてくれた(彼女は近年拠点のバルセロナにいるとのこと)。世界中の地震を感知するセンサー、月の動きに同調し振動するセンサーを腕とつま先に埋め込んでいる彼女もまた、サイボーグの一人4年前のムーンとの取材記事)。彼女がサイボーグとして手に入れた第六感は「地球の振動を、もう一つの心臓のように、自分の身に感じること」。だが、近況を聞いてみれば、これを「一度外した」という。あらららら、聞きたいことだらけだ。

ここ1年の近況と、ロックダウン中の二人の生活のこと、そして、コロナが変えた社会状況ではさらなるテクノロジーの使用(ヴァーチャルコミュニケーションなど)がより不可欠となるが、テクノロジーの使用ではなく、“融合”を選んだ二人は、どんなことを考えているんだろう。15時半のバルセロナ(ムーン)、21時半の台湾(ニール)、そして朝9時半のニューヨーク(筆者)と、3つの時差を合わせてスカイプを繋いで話す。


4年前に訪れた二入のスタジオにあった、二入のかたちをした置物。

***

HEAPS(以下、H):久しぶりです!日本で一緒にイベントをしてから、もう2年半です…。信じられないね。

(一同:ほんと、信じられない!日本酒飲んで、天ぷら食べたね!)

ニールはいま(取材は5月上旬)、台湾なんだって!?

Neil(以下、N):1月からいるから、もう5ヶ月だよ。

H:プロジェクトか何かで?

N:それがね、思わぬ長期滞在になっているんだ。昨年の12月にまずは日本に行ったんだ、日本の年末年始を過ごしてみたくて。それで、1月後半にフィリピンとマレーシアでそれぞれイベントがあったから、どうせなら一度も行ったことのない台湾を、移動の間に挟んで滞在しちゃえ!って。そしたら、なんと台湾滞在中に「コロナでイベントは中止です」って…。それからずっと、台湾にいる。ヨーロッパへのフライトがないから、出られないんだ。

H:なんと…!でも、とどまる場所が台湾だったことは、よかったかもしれませんね。台湾政府の対応が迅速かつ革新的で、感染拡大が留められていた。

Moon(以下、M):そうだよね!それに、私たちの拠点バルセロナにいたら、他の多くの都市と同じように外出禁止の日々を過ごすことになっていたし。

N:国全体で死者が一桁にとどまっているとは、台湾はすごい対応をしていると思う。そうだ、予期せず滞在が長くなったから、僕、名前に漢字をあてたんだ。內爾·哈維森。インスタグラムはいまこれを使ってる。

H:かっこいい。森やファイバーなど、自然を感じられるのがニールにぴったりです。ムーンは、いつもの拠点のバルセロナとのこと。どんな日々ですか?

M:実は昨日、新しいアパートメントに引っ越しほやほや。荷物をまとめて荷造りして、運んで荷ほどき。いままで何度も引っ越しをしたことあるのに、マスクとグローブをしながらってことで、なんだか一大イベントみたいだった。大変だった!

H:お疲れさま。二人のパフォーマンスやイベントなどは、全部中止?

M:全部中止か延期。ちょうどさっきも、ニールと私が参加予定だった10月のイベントの打ち合わせをスカイプでしていたんだけど、「オンラインでできることを考えてください」って要望があってね。トークと、考えるべきはパフォーマンス部分。なんかもう、数時代をスキップしちゃったみたいな感じ。

H:本当に。パフォーマンスにおいて、オンラインでできることについて何か新しいことを考えはじめてる? 何かぼんやりとでも、新しい着想は何かある…?

N:僕らのアートを、パフォーマンスを、どうやって新しい生活様式に適応させていくのか。すべてにおいて「re-think(考えなおす)」のとき。新しいアイデアかあ…

M:あ、新しいものといえば!ニールは台湾で自転車をゲットしたよね!

H:(おお!?)

N:そう!自転車に乗って、台湾をサイクリングしているよ。これ、僕がサイボーグになるまえの生活スタイルだったんだ。18、19歳の頃には、27日間かけてバルセロナを一周したんだよ!自転車に乗って、自然豊かな場所に行って…一人で自由に移動する生活をしていた、サイボーグになる前の生活を思い出した。

H:そうか、サイボーグになってからは、さまざまな場所でパフォーマンス、イベント、講演など基本的に移動が多く、とても忙しい生活を送っていると以前も言っていましたね。

N:生活のベースが“移動”だったよ。そんな生活を何年も続けてきた中で、突然ピタリと止まった。時間を考えずに自転車に乗って街を回るなんて生活はなかったよ。この台湾での生活の中で気づいたんだけど、僕はいまこの期間、新しく何かを取り入れて考えるというよりも、自分の中で生まれる新しいもの、忘れていたものを見つけようとしている。ルーツに戻っているような感覚なんだ。外の物事を見つめるのではなくて、自分の中で起こる新しい何かを、ちゃんと見つめたいと思っている。だから、無理してオンラインでできることを探したり試したりはしていない。表現をするのは然るべき時が来たらやる。その時までは、自分を形成してきたこれまでのことを思い返したり、昔やっていたことをもう一度やってみたり。そういう時期にしている。だからやっぱり「re-think」の時だ。表現もせず、外に向かってあまり話さず。インタビューとかもあまり受けないようにしているし。ひたすら自分の中身と向き合う時間。

H:そういった意味でも、散歩や自転車は最適かもしれない。

N:そうなんだよね。自転車に乗っているとたった一人。忙しいときには考えもしないようなことを、自分だけのペースで、心地いい状態で、考えることができるから。

M:ルーツに戻るようなことをする、というのは私も同じ。私は劇場関係者の多い環境で育ったから、昔はつねに、劇場に関することを考えながら生きていた。時間があるいま、ステージ上のパフォーマンスについてをよく考えるようになった。
いままで通りにシアターが営業しなくなったら、どんなパフォーマンスをオルタナティブとしてできるだろう、とか…。私は、過去の思考に戻っているというよりは、過去にやってきたものといまあるもので新しい可能性を学ぼうとしている状態かも。

H:ルーツに戻る、といえば。ムーン、身体に埋め込んでいたセンサー、取り除いたんだって?

M:昨年の夏に取り除いたの! なにかもう一つ、劇的な新しい経験をしてみたくて。自分でも驚いたんだけど、7年前に埋め込んだときよりも、取り除くときの方が圧倒的に怖かった。これを取り除いたら、サイボーグとしての自分のアイデンティティというのはどうなるのか、ということにも考えが及んで。取り除いたら「すべてのことが変わる」という感覚だった。

H:取り外した直後、そして半年以上が経ついま。どんな経過なんでしょう。

M:外してからしばらくは「幻の振動」があった! 事故や何かで体の一部を失ったあと、まだそこにあるように感じられるファントム・エフェクトというのがあるでしょう。それと同じようなものだと思う。体にセンサーが入っていないのに、振動を感じる。

H:なんと。“振動の感知”はムーン自身の一部だった、といえますね。

M:私もそう実感した。だからね、いまのアイデンティティは「ファントム・サイボーグ」として認識している。驚きだよね、取り除いても振動を感じ続けるなんて…。数ヶ月が過ぎて、だんだんと振動を感じる頻度も減っているから、次の“センス(感覚)”を取り入れることを考えはじめてる。次は、私と海を繋ぐ何かにしようかなと思ってるの。まだ確定していないけれど、海と月に関するものにしたい。

H:海だったら、月と満干の関係性がありますからね。ニールは、台湾で何か新しい経験をした?

N:ドリアンと、ドラゴンフルーツを食べたこと。

M:おいしかった!?

N:うーん…なんというか、感謝はできない味…。

(H&M:笑)

N:匂いが強烈。味はきっといいんだろうけど、つねに匂いがついてきて、匂いを感じずには味わえないから…。でも、食べてよかったよ、とってもヘルシーらしいから! ドラゴンフルーツはよかったよ、マジェンタ色を感じたんだ。中はもっとタイトにダークマジェンタ色。フルーツから感じ取った、初めての色。とってもよかった。

H:台湾の生活、満喫中ですね。この時期だし、初めての土地にたった一人ということで、どんな生活を送っているのだろうと思っていました。

N:いまようやくたのしめているという感じ。どうしても「時間を無駄にしている」と考える瞬間があるんだ。何か結果が見えることをしていないから、そういう類のものを無意識に必要としてしまう。脳の一部が「時間を無駄にしている」と感じているときには、「いや、無駄にはしていない。必要な時間だ」って毎回自分に伝え直す。「いまはこの状況を受け入れて、台湾での生活を感じ切ろう。いずれは、必ずすべてがうまくいくから」って。それで最近は、前向きにたのしめているよ。

H:自転車に乗りながら。

N:そう(笑)!実は、台湾の自転車一周計画も立ててるんだ。島の一周が1000kmみたいだから、何日かかけてやってみようと思って。それが終わったら、きっとヨーロッパへの便も復活して、ムーンや友人のいるバルセロナに帰れると思ってる。

H:いまこの時期、テクノロジーがコミュニケーション一つとっても以前より必須となっています。今後、私たちのテクノロジーの使用は範囲も頻度も格段にあがっていくと思います。二人とテクノロジーの関係性でユニークなのは、使うのではなく二人自身が“テクノロジーであること”。これからの私たち人間とテクノロジーについて、二人がいま考えていることはある?

テクノロジーを使うのではなく、“テクノロジーであること”って?

I’m not using technology, I am technology.
(テクノロジーを使っているのではなくて、自身がテクノロジーなんだ)

テクノロジーを使うという発想から、自分たちが成る、身体にテクノロジーを適応させるという考えへの転換には、以下のような持論がある。

テクノロジーを使う、つまり、テクノロジーで環境を変えるのではなく、私たちがテクノロジーに適応し、テクノロジーと融合していくことの方が、効率的であり環境によい。たとえば、電気を使うのではなく、暗闇で私たちの目を見えるようにしたらどうでしょう?
暗闇で見る、地震を感知する、360度の気配を察知する、など、他の生物にはできて人間にだけできないことが多い。それなのに、他の生物を無視して、テクノロジーを使って環境を支配している。そうではなく、私たちが自身の感覚を拡張して適応すれば、環境を破壊せずに、進化し、地球と共存することができると思います

ちなみに、ニールのアンテナのモデルは昆虫。第3の目をおでこに、などのアイデアも当初あったらしいが「それじゃあ自分の視界の色しか認識できない」ということで、360度(アンテナはぐにゃぐにゃ曲がるのでどの方向にも向けられる)のアンテナ型に。こういった点からも、ニールには未来感よりも、“生物としての進化”の視点が強いことを感じ取れる。

N:間違いなく、もっともっとテクノロジーを使っていくよね。パフォーマンスでもそうだ。そこで思うのが、やっぱり僕らの身体にどうテクノロジーを調和させるかを考えていくのが大切だと思う。いままで社会がやってきたのは「テクノロジーをどう僕らの生活に取り入れていくか」。そこから、もっと僕ら自身にテクノロジーをどう取り入れていくかを考えないと。身体を含めた“僕らそのもの”との調和を考えないと。でなければ、使うことがただ増えれば僕らへの害悪も増長する。逆の視点から考えるいいタイミングだと思う。

M:そうね。私がもう一つ思うのは、このタイミングは「世界」というものを違った視点から見直すいいチャンスだということ。人間はみんな、家にいるでしょう。「人間のいない世界」を客観的に見る機会って、なかったと思う。街に動物が降りてきて歩き回っている写真なんかもソーシャルメディアに出回っていた。視覚的にも、また人間が活動を止めているという実用的な観点から考えても、そこには違った世界があった。普段見えていない世界を見つめることになった。地球上の人間以外の存在を意識することは、テクノロジーをこの地球でどう使うのかを見直す機会でもある。そんなことを感じている日々です。

ニール・ハービソン/Neil Harbisson


英国生まれ、現在は台湾で活動するサイボーグアーティスト。色盲として生まれ、21歳の時に「アイボーグ」と呼ぶアンテナを頭蓋骨に埋め込む。このアンテナで色の周波数をキャッチし、骨伝導を通じ色を音として聴いて認識し、色から音、音から色の双方を直感的に認識できるようになった。これをテクノロジーによる「感覚の拡張」と呼んでいる。英国政府によって世界で最初にサイボーグとして認められ、2017年9月にギネスブックに「頭蓋骨にアンテナを埋め込んだ人」として認定されている。2010年には、同じくサイボーグアクティビストのムーン・リーバスとともにサイボーグ財団を設立し、サイボーグによる社会活動やアート活動を推進する活動をおこなう。
Instagram@neilharbisson

ムーン・リーバス/Moon Ribas


スペイン・カタルーニャ州出身の前衛アーティスト/サイボーグアクティビスト。地球上で起こるすべての地震をリアルタイムで感知するセンサーを左腕に埋め込む。感知した地震をサウンドやダンスに変換したパフォーマンスなどのアーティスト活動もおこなう。その後、月の振動をキャッチするために、足にもセンサーを搭載(昨年、同センサーを除去した)。近年では、オーストリアのアートフェスティバルElevate Festivalへの出演や、ニューヨークでのパフォーマンス、フランスの新聞リベラシオンでのフィーチャー記事などを通して、サイボーグアーティストとしての啓蒙活動に勤しんでいる。
Instagram @moonribas

Photos by Kohei Kawashima
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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