「全員の“100%の安全”を確保できるやり方を考える」真摯なポルノをつくる監督の試みと希望|CORONA-XVoices

コロナウイルスの感染拡大の状況下で、さまざま場所、一人ひとりのリアルな日々を記録していきます。
Share
Tweet

2020年早春から、世界の社会、経済、文化、そして一人ひとりの日常生活や行動を一変する出来事が起こっている。現在160ヶ国以上に蔓延する、新型コロナウイルスの世界的大流行だ。いまも刻々と、今日そのものを、そしてこれからの日々を揺るがしている。
先の見えない不安や混乱、コロナに関連するさまざまな数字、そして悲しい出来事。耳にし、目にするニュースに敏感になる毎日。

この状況下において、いまHEAPSが伝えられること。それは、これまで取材してきた世界中のさまざまな分野で活動する人々が、いま何を考え、どのように行動し、また日々を生活し、これから先になにを見据えていくのか、だ。

今年始動した「ある状況の、一人ひとりのリアルな最近の日々を記録」する連載【XVoices—今日それぞれのリアル】の一環として、〈コロナとリアリティ〉を緊急スタート。過去の取材を通してHEAPSがいまも繋がっている、世界のあちこちに生きて活動する個人たちに、現状下でのリアリティを取材していく。

※※※

「消費するものは何でも自分で選ぶ時代。産地もわからない卵より、信頼できる農家で育った卵を選ぶのと同じこと。誰にどんな過程で作られたかわからない不透明なポルノよりも“真摯なポルノ”を選ぶ層が、すべての年代にいて当たり前です」。

世界各地の映画祭の常連監督、エリカ・ラスト(Erika Lust)。撮影するすべてのシーンにおいて俳優らの合意をとり、製作に関わる全員のクレジットを明記するなど、透明性を徹底したアダルトコンテンツを作る。男女問わずに近年ファンを増やし続けているフィルムディレクターだ。HEAPS(ヒープス)が彼女に初めて取材をしたのは2017年。それを機に翌年には日本で一緒にイベントをして、以来、折をみて時々キャッチアップしている。

現在は拠点であるスペインのバルセロナにいるという。3月中旬より、サグラダ・ファミリアの観光施設が閉鎖したかと思えば翌々日にはスペイン全土へ非常事態宣言へ。すでにロックダウンはひと月以上続いている(4/27時点)。

撮影ができないこの時期、いまエリカたちはどんな製作をしているんだろう。俳優同士の濃厚接触のシーンが欠かせないアダルトビデオの製作は、今後どう対応していく必要があると考えているのか。恋人、パートナーと家にいる時間が増えるいま、自分と互いを大切にすることへのアドバイスも聞いてみる。

※※※

H:エリカ、久しぶりです!いま、バルセロナですよね。街はいま(4/27時点)どうなっているんだろう。

Erika(以下、E):静かで、奇妙ね。大胆なエネルギーに満ちたバルセロナの、温度を失って静まり返ったストリートを見るのは悲しい。けれど、“私たちの毎日”を一刻も早く取り戻すために、いま政府の言葉と施策に従う。それが全うすべき私たち市民の責任だと思う。幸運にも、健康を損なわずに居る人たちは、みんな待機中。何か変化が起きているとして、それを知るのはロックダウンが解かれて街に出たときでしょうね。

H:バルセロナの陽気さやあたたかさをつくっている“人と人の触れ合い”、ロックダウンが解けたら戻るでしょうか。

E:それも含めて、これまで通りのものはないでしょう。いま長い間ソーシャルディスタンスをとっていることが、今後、人と接すること・繋がるということにも、多大に影響してくると思う。

H:エリカはいまどんな毎日を過ごしていますか?

E:とても忙しくしているの。もしかすると、ロックダウン前よりもどっぷり仕事に漬かっているかも。この期間を、未来のプロジェクトに繋がるアイデアを一つ残らず集めていく日々にしようとしていて。それから、私は9歳と12歳の二人の娘の母でもあるから、二人のためにもしっかり時間を使うようにしてる。ホームスクーリングに切り替えたぶん、そのあたりでもケアをしたり。

H:相変わらず忙しそう。その毎日で、なにか新しい習慣は?

E:この生活の中で、自然と“Me Time(自分時間)”を確保するようになった。スマホをオフにして、ながーくお風呂に入ること、部屋にこもってただ過ごすこと。自分ともう一度しっかり繋がるように、自分に耳をすませて、私自身に愛を傾ける。“セルフ・ラブ”の実践ね!

H:たくさん仕事をしているとのことだけど、従来のクルーで集まっての撮影はストップしているんですよね。

E:集まっての撮影はもちろんできない。従来のやり方での製作は一切がホールドの状態。ソーシャルディスタンスが必須ないま、ポルノ俳優も含めてセックスワーカーたちは働けずに安定した収入は得られないし、失業保険を受け取れるのかどうかもあやしくて。とても厳しい状況に置かれている。この期間、アダルトコンテンツの視聴数は間違いなくあがっているというのにね。



「この“一時停止”の時間で、私の作品に興味を持ってくれているフォロワーの人たちとコミュニケーションを取る時間にしようと思って」と、
SNSでのライブ配信などを積極的に行なっている。
「エリカ・ラストのポルノ作品の哲学や制作裏を、カジュアルに知ってもらえるいい機会になっています」

H:多くの俳優やパフォーマーとともに作品を作ってきたからこそ、心苦しい状況ですね。難しいとは思いますが、何か新しい撮影方法には取り組んでいますか?

E:一つ新しい製作に挑戦してみたの。俳優たちに仕事を創出する・この時期だからできるエンターテイメントに挑戦してみる、この2つを軸に作ったのが最新作『Sex & Love in the Time of Quarantine(隔離生活のとき、セックスと愛)』。出演者が自分でシーンを撮影して、それを私たちチームがフィルムにするという新しい製作フローで仕上がった作品!

H:4つの都市で生活する6人それぞれが、隔離とソーシャルディスタンスによって生活がどう変化しているか、そして愛やセックスにもどのような影響や変化があるのかを共有する(隔離期間中に2人でセックスをたのしむための工夫、恋人やパートナーと離れ離れでセックスができないこと、その期間にしているマスターベーションについて、など)。‘愛とセックス’というテーマに、三者三様の現在がありますね。

E:2組のカップルと、2人の個人に出演してもらいました。ソーシャルディスタンスによって生活がどんな影響を受けているか、そして、いまどんなセックスをしているのかを撮ってもらった。ゲームを使ってする、普段とは違う冒険的なセックスを見せてくれたりして。

H:隔離中にパートナーと過ごす時間が急に増えて辛い、という声もありますね。セックスはお互いをケアすることでもありますが、何かアドバイスがあれば。

E:パートナーと一緒に暮らしているなら、まずは必ず互いに自分の時間をしっかり取ること。スケジューリングするくらい徹底していいと思う。互いに自分のスペースを確保してから、親密さを持って愛を深めていくのがよいです。これまでにしたことのないセックスを二人で試してみるのも◎、ルーティンには陥らないように。創造的で、互いを探求するようなセックスをしてみて欲しい。もしも助けが必要なら、二人でアダルト作品を見ることもオススメします。一緒に見ることで、さらに味わい深くなるのがポルノですから。『Sex & Love in the Time of Quarantine(隔離生活のとき、セックスと愛)』は現在無料で公開中なので、ぜひ見てみて。

H:今回の作品はぴったりかもしれませんね。隔離が終わったとしても、これまでの製作に戻るにはかなりの時間がかかりそうです。ほかにも、エリカたちが新しくはじめていることがあれば教えてください。

E:すぐにできることとして、セックス・ワーカーをサポートする緊急ファンドを開いた4つの団体に寄付中。まわりの人にも促しています。

あとは、アダルト業界にいる俳優たちに、それぞれがこの業界で経験してきたことを語ってもらうという新しいドキュメンタリーに着手しました。ロックダウンのいまだけでなくそれ以前も含めた経験談を共有してもらう。より多くの人に、普段自分が見ているアダルトビデオにはどういう人たちが関わっていて、どう作られているのかをもっと知ってもらえたらと思って。
この業界の仕事がいつ通常に戻りはじめるのか、いまのところ検討もつかない。撮影現場含めて製作にはたくさんのクルーがいるから、関係者全員の“100パーセントの安全”を確保しながら作り続けられる方法をできるだけ考えて、できることから取り組んでいます。

H:たとえばトーク番組の動画だと、対話者との距離を取ったり透明な間仕切りをして対応したりも実際にありますが、アダルトコンテンツだとそうはいかないですもんね。今後、アダルト業界が作品を作るためには、どういった対応が新たに必要になるんでしょう?

E:ロックダウンが解けて少しずつ撮影ができるようになったとして、今後、アダルトコンテンツを製作していくうえで求められることは、さらなる現場の透明性だと思っています。出演者の健康確保に綿密な注意を払い、出演者だけでなく撮影と制作に関わるすべてのクルーの健康状態を把握して、それをきちんと全員に共有する。現場の透明性において、そういった観点が新たにくわわってくる。

H:リスクが高いからこそ、人の目が向きやすい業界になるともいえます。

E:無料サイトにあがっている海賊版のコンテンツを見ていることに疑問を持ったり、倫理的にNGだと気づく人も増えるかもしれない、とも思っています。アダルトコンテンツにお金を払うことの大切さに気づく。そういった人が増えていけば、俳優含めクルーに適正な支払いをし続けられます。現場クルーだけでなくポストプロダクションも含めて、関わるみんながフェアに働ける環境を守ることになり、より良い仕事の循環が生まれていく。そんな希望も持ちつつ。

H:いろんなことが見直されるいまだからこその希望。さて、最後に、いま一番したいことを教えて。

E:一番焦がれているのは、自然! 自然に触れること。地中海の側の私のアパートメント、窓から海が見えるんだけど、潮のにおいまでするのにビーチまでいって砂や波に触れることはできないからもどかしい! あとは家族と一緒に散歩をすること、それからオフィスでのチームミーティングも恋しいでしょ…あと…。でもいまは我慢強くいなきゃ、ね。

エリカ・ラスト/ Erika Lust

スウェーデン出身、バルセロナ在住のフィルム・ディレクター。2004年に制作しリリースした初のポルノ動画『The Good Girl(グッド・ガール)』が数日でウン百万のダウンロード数を記録。これを機に「変わらないポルノ業界を変える」ため、透明性・多様性を大切に“オルタナティブなアダルトコンテンツ”として、真摯なポルノを作り続けている。

二人の娘をもつ母であり、「子どもには良いものを食べてほしい、粗悪なものをあたえたくない、と考えるのと同じで、良いポルノからセックスを、ジェンダーを学んで欲しい。だからこそ、いまの時代に良いポルノを作るのは私たちの責任だと考えている」。

Instagram: @erikalust

All Photos by Erika Lust
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load