彼女はサイボーグ!地球上すべての地震を感知する女性が説く。「テクノロジーを駆使して地球と上手に共存する方法」

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突然だが、筆者はパッと北がわからない。かろうじて西日が差し込むとき。ええとあっちが西ということは反対が東で、ああ、北はあっちだな、とわかる。降っている雨に気づくのは顔に当たってからやっとで、ワッと驚ろかされるまで背後に人が忍び寄っているのも感じ取れない。

背後はまあ筆者が鈍いとしても、人間が自然界で生きていくための「センス(感覚)」というものは、時代につれて希薄になっている感がある。北はアプリで探し、天気はググる、という具合に、進化し続けるテクノロジーの使用と反比例して使わなくなったその感覚は、筋肉の衰えのように退化してはいないか。が、彼女はテクノロジーでもう一度、失われたセンスを取り戻して、進化した。地球上のすべての地震を感知できる感覚を手に入れたのだ。それはいうなれば、彼女の“第六感”だ。

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Moon Ribas(ムーン・リーバス)。彼女は、地球のどこかで地震が起これば左腕で感知できる。もともと備わっていた能力ではない。
地震と同調してバイブレートするセンサーを自ら埋め込んだ、「私はサイボーグ」と、自他共に認めるサイボーグなのだ。

「私には心臓が二つあるの」

 装置を体に埋め込んだのは約3年前。その左腕には目立った傷跡はなくて、触ると辛うじてシコリを感じる程度。
 だが、埋め込まれたその小さなセンサーは地球上どこで起ころうとすべての地震を感知できるという。

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よく見ないと傷跡すらわからない。

 世界各地に配置され、オンラインとリンクしている地層のモニターと、カスタマイズしたiPhoneアプリが連動している。まず、モニターが地震を察知してiPhoneアプリに伝達し、それを腕に外移植したセンサーが受診してバイブレートするようになっているのだ。地震の大きさとバイブレーションのそれは比例するという。

「昨年のネパールの大地震のときは、まるでそこにいるかのように感じた。ひどい振動だった」。肌で、よりも近い、皮膚下で、彼女は地震を感じている。実際に起こっている地震をタイムラグなしで、だ。

「まるで、二つの心臓がある感覚よ。地震は毎日あらゆる所で起きていて、そのすべてを私の腕は感じ取るから、ほとんど振動が止むことはないの。
心臓の横で、もう一つのバイブレーションが刻まれるのは、二つの心臓があるという感覚。私のものと、地球のもの。地球の心臓の音を毎日感じている。地球は生きているんだと実感するわ」

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感覚を拡張するクリエーション

 大学の講義で人工知能に興味を持ったのが、「私がサイボーグになるまでのきっかけ!」。クラスでの興味がこうじて、いろんな装置を作るのが趣味に。イノベーションではなくクリエーション、と彼女はいうのだが、装置は初期段階から「感覚を拡張するもの」に傾倒していた。

 まずは、スピードモニター・グローブ。自分の周りの人の、歩く速さを正確に知覚する手袋だ。ちなみに、ヨーロッパの各都市でモニターしたところ、バチカン市国の人々の歩くスピードは以上に遅かったことがわかった(リーバス鉄板のジョーク)。

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 それから、人感センサー・イヤリング。耳につければ、360度、真後ろに立たれようが人の動きを察知できるというもの(左右のイヤリングで繋ぎ、後頭部部分に平べったいセンサーをつけるような見た目、髪を下ろせばただのイヤリングに見える)。
 感覚を拡張するクリエーションへの熱はさらにこうじてゆき、自身をサイボーグにしてしまったというわけだ。ダンサーでもある彼女、「動きのあるもの、振動があるものに惹かれるもは当たり前だった」という。

テクノロジーで環境を変えるのではなく、「自分を変える」

 現在は、右腕にもう一つのセンサーがすでに埋め込み済み。さらに、つま先にも埋め込み予定だそうだ。右腕は「月の振動を」つま先は「次は地球の地震が、どこで発生しているのかがわかる」ようになるんだそうだ。

 だが、iPhoneのカスタムアプリと装置を連動させればいいわけで…言ってしまえば別に「腕に埋め込む必要はなかったのでは?」。そうね、と認めながら、それを敢えてやったのは「テクノロジーで環境を変えるよりも、自分たちがサイボーグ化する方がよりよく環境と共存できる」という持論があるからだ。

 たとえば、人間は人工照明が無くなるとすると、生きられないとは言わないが現代社会ではかなり厳しい(無理だと思う)。だが、リーバスは「私たちの目が暗闇でも見えるようになれば、どう?電気はいらないでしょう? 私たちがすでにある感覚を拡張して適応すれば環境を破壊せずに済む」。テクノロジーで環境の方を変えるという考えが当たり前なのはいかがなものか、と。

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「暗闇で目が見える、地震を感知できる。360度、気配を感じる。人間以外の動物は、たいていこれができる。人間だけができない。それなのに、他を無視して環境をテクノロジーで支配する。それよりも、私たち自身の体をコントロールして適用させる方がいいと思う」

 いやーでもちょっと怖いなあ…痛いのやだし…。「わかる。でも、私たちはこの地球でどうやって生きていかなきゃいけないかを考える必要があるし、サイボーグ化することは選択肢になり得る。他の惑星に移住するよりも、ずっと現実味がある」と語った。

かつての人間の感覚を取り戻すテクノロジー

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幼馴染でサイボーグの、ニールと。

 地震を感じるセンサーを埋め込んでから、一度も装置をオフにしたことはない。以前よりもずっと、地球を身近に感じている、と話す。彼もまたサイボーグである幼馴染 Neil Harbisson(ニール・ハービソン、生まれつき色盲だが頭蓋骨に埋め込んだアンテナにより色を感知する)と立ち上げた会社サイボーグネストでは、テクノロジーを自身に取り入れ、感覚を拡張してサイボーグ化する装置を開発している。最新のものを紹介すると、たとえば胸に取り付ければ北の方角を感知できるというNorth Sense(ノース・センス)。

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 北を知り、空気の振動を感じ、地震を感知する。彼女たちのいう感覚の拡張は、取り戻す、という捉え方をすれば、現実味があるかもしれない。はるか昔、テクノロジーなしに人類は天候を予感し、外敵を察知していた。頼るものがないから研ぎ澄まされたセンスがあった。
 テクノロジーによって失い続けてきたそれら感覚を、テクノロジーによって再び取り戻すと考えれば、あながちぶっ飛びすぎた話ではない。

 ムーン・リーバスというサイボーグの女性は、テクノロジーで感覚を拡張し、近い未来に第三の心臓を持つ。自分のと地球の、そして月の心音(振動)を日々感じて過ごす。間違いなく人類でもっとも地球を、いや宇宙を身近に感じていくだろう。

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Moon Ribas
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Cyborgnest.net
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Photos by Kohei Kawashima
Text by Tetora Poe

▲YO DA NN▼

取材の後は、まさかの漫画ハンター×ハンターの話で盛り上がった。
やるならどのセンスを拡張したい?と聞かれて、人の動きの気配を敏感に感じ取りたい、電車でいち早く降りる人を感知して座りたいというと、リーバスさん「結構複雑ねw」。
そこから「それぞれが各々の感覚を拡張しての運動会とか面白そう」から「そしたら今度は能力を覚醒・拡張して…」まで話が飛躍、さらに話は進みに進んで、行き着いたのであった。

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