バナナの価格によって価値が変動するバナナコインに、マリファナ取引を透明化するパラゴンコイン。現在、◯◯コインが飽和状態気味な仮想通貨の世界だが、これら通貨たちの本来の目的をたどると、そこには分散型ネットワークのブロックチェーン、つまり「中央集権の崩壊」がある。金融、不動産、食など数多くの産業ですでに活用されているこの仕組み、最近ではエンターテインメント業界との相性もよいと聞く。特に、「打倒・中央集権のハリウッド」のインディー映像業界との相性など。
レーベル、配給etc仲介を取っ払う。エンタメ界にも応用できるブロックチェーン
アーティストへの不正未払いに著作権侵害、業界の上層部だけが儲かるシステム。ごく一部の権力者たちでまわっているハリウッド中央集権型の映画業界や、仲介業者のアーティストへの支払いが不透明だとも囁かれる音楽業界。実際、世界的ヒット大作『ロード・オブ・ザ・リング』では、制作・配給を担当したニューライン・シネマが売上金を十分に配当しなかったとして、ピーター・ジャクソン監督や俳優陣、原作の権利を握るプロデューサーに訴えられるという裁判沙汰も話題となった。
音楽や映画、ドラマ等のエンタメ業界に漂う“もやもやしたグレーな現状”を打破、アーティストの知的財産を守り、個々のインディペンデントアーティストを応援する枠組みづくりに貢献すると期待されているのが、脱・中央集権のブロックチェーン*だ。
*分散型ネットワーク、非中央集権的とも形容されているブロックチェーンは、中央管理者不在のネットワークで、ユーザー全員がネットワーク上に残された取引記録を管理するシステム。
これをエンタメ界に当てはめてみると(そしてとても噛み砕いて説明すると)、仮想通貨やブロックチェーンを使用することで、流通や販売に携わる仲介業者やエージェントを取っ払い、制作者側と消費者側が直接やり取りできるようになるとのことだ。
すでに、昨年には氷の国アイスランドの歌姫ビョークが自身のニューアルバムを仮想通貨で購入可能にしていたが、もっと直接的なブロックチェーンの使用もちらほらある。レコードレーベルや著作権協会などの介在なしにミュージシャンとリスナーを直接繋ぐ音楽配信サービス「Musicoin(ミュージコイン)」や仮想通貨イーサリアムを活用した音楽プラットフォーム「Ujo Music(ウジョ・ミュージック)」。さらに映像業界でも、“分散型ネットフリックス”と呼ばれる動画配信サービス「SingularDTV(シンギュラーDTV)」。制作者がコンテンツをトークン化し、作品の流通・販売までも管理。利益の配当が不透明化することを避けられる。
100%仮想通貨メイドのTVドラマ。リバタリアンなクリエイティブ過程
仮想通貨がエンタメ業界に出まわるなか、「世界初。100パーセント“仮想通貨”で制作するインディーテレビシリーズ」と謳うプロジェクトが登場した。英ブロックチェーン専門起業家ニック・アイトン創設のスタートアップ「The 21 Million Project(ザ・21・ミリオン・プロジェクト、以下21ミリオン)」が遂行する試みで、資金源はすべて仮想通貨。ちなみに、ドラマ(題名『CHILDREN OF SATOSHI、サトシの子どもたち』、ビットコインの生みの親とされるサトシ・ナカモトにちなんでだろう)のストーリーはビットコインにまつわるアクションスリラーと、あくまでも仮想通貨の世界観だ。
では、どうやって100パーセント仮想通貨メイドが実現するか、仕組みをもう少し説明する。21ミリオンは、イーサリアムを基盤としたブロックチェーンを導入。番組ファンが「The 21MCoin Token」というトークンを購入し“投資家”となり制作を支援できる*(トークンの販売は昨年に終了)。配給会社など仲介業者をはさまないため、仲介手数料やいかがわしいお金のやり取りも一切なし。制作者スタッフたちへ、より多くの、そして公平な報酬があたえられるからくりとなっている。また、番組ファンは投資家でもあるため、印税のシェアも保持。脚本への意見出しや収録現場へのアクセス、エキストラとしての出演など番組制作に、直接関わることさえ可能だという。
*この辺りは、以前取材して取り上げた〈バナナ農園を支えるためにトークンを購入して投資家になり、バナナの売高によって決まるリターンが配当されるというバナナコイン〉と仕組みは類似する。
創設者の言葉を借りると、21ミリオンは「映画・テレビなどのエンタメ業界の構造を、〈エリート主義者や性差別主義者、ハリウッドの限られたトップだけが牛耳る閉ざされたもの〉から、〈視聴者やファン、制作クルー、投資家が制作をコントロールできるもの〉へとシフトする基礎的な改革」とのこと。権力や社会構造などに左右されず、自由主義のもとでのフィルムメイキング。インディーズ映画がこれまでになく重要視されるようになってきた昨今、21ミリオンの制作モデルはお手本となるのか。
自動販売機と同じ? 著作権&知的財産とブロックチェーンの相性
ブロックチェーンが未来のエンタメ業界との相性がいい理由はまだある。それは、制作側の著作権と知的財産管理が抜け目なくできる可能性があるという利点だ。これを理解するために、まず「スマートコントラクト」という概念の話をしよう。
スマートコントラクトとは、本来なら第三者介在のうえで結ばれる契約を、その存在なしで行う自動契約システムのことで、よく自動販売機が例えに持ち出される。
自動販売機とは、「一定のお金を払うと商品が出てくる」という“契約”のもと、購入者がお金を機械に入れ、機械がその金額を確認したうえで商品を提供し、お金を徴収する(お金を入れたのに商品がなかった場合は返金される)。
この自動販売機のようなスマートコントラクト(自動契約)をブロックチェーンとかけあわせる。ブロックチェーン上に作品の著作権やライセンス、利用契約を作成し、制作者はこれらをきちんと守ったファンからダイレクトに代金を受け取ることができるというのだ。自動販売機と購入者が契約を理解し、二者間で〈それぞれの所有物であるジュースと代金を交換する〉のと同じで、さらに「分散型で履歴が自動的に残るため、契約内容の改ざんや不正が非常に難しい」というブロックチェーンの特性を上手く利用したもの。ブロックチェーン上で著作権を書き込み保管しておく(改ざん不可)ことで、知的財産の管理が強化でき、海賊盤の作成や作品の無断使用、著作権使用料の無視などを防ぐことができる。さらに、中心となった制作者(トークン生成者)は収入を制作陣らにきちんとシェアし、契約通りにきちんと“投資家”(トークン購入者)に配当しなくてはならない。たとえば先出の21ミリオンは、スマートコントラクトを通して、番組に貢献しているトークン保持者各々にきちんと印税が行き渡るよう管理されている。
ミュージシャンとリスナーを直接繋ぐミュージコインでは、プラットフォーム上でライセンスをリリースし楽曲を登録したミュージシャンの再生回数と報酬額&チップ(リスナーがミュージコインという仮想通貨を使って気に入ったミュージシャンに支払うことが可能)などの履歴が、ミュージシャン側にもリスナー側にも開示される。仲介の音楽配信サービスのみが楽曲の配信・利用・販売情報を把握していた状況に比べると、ミュージコインの仕組みはシンプルだが画期的だ。バンドメンバーやプロデューサーなど制作側に対する支払いも、“後ほど仲介業者から”ではなく、“配信後すぐにリスナーから直接”が実現されるという。
配給・配信会社やエージェントという仲介者をいくつも通すことで不透明になっていたエンタメ作品の取引を、ブロックチェーンで透明化。アーティストや制作クルーの権利や著作物を守り、権威あるバックがいなくても質の高いインディペンデント作品に、ブレイクのチャンスをもたらす。さらにオンライン上での作品の取引だけでなく、チケットの販売にもブロックチェーンの需要は大ありだ。
現に、
・専用アプリで身分証明を行うことでダフ屋などチケットの転売を防ぐ
・チケット販売仲介業者を通さずに主催者側がチケット価格を変動可能
・手数料を減らし、アーティストにチケット収入がより多く渡るようにする
を進めている「ブロックチェーン・チケットサイト」もある。
形の見えない創造物・アートとオーディエンスの距離を最大限まで縮めているのが、ブロックチェーンというサイエンスというのは、近未来ぽくて心が踊る。もっとも、今年のアメリカツアーのチケット前売り販売を「Box Office Only(ライブ会場での店頭販売のみ。バンドと来場者が直接取引)」に踏み切ったバンド(ナイン・インチ・ネイルズ)のような方法もあるが。
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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine