「負け続けの人生をまっとうする」。映画で一躍有名になったホームレスのファッションフォトグラファー、Mark Reayの現在は?

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ハイファッション・シーンを撮るフォトグラファー、Mark Reay(マーク・リーイ)。
華やかな世界を切り撮りながらも、実は6年もの間とあるビルの屋上でホームレスとして暮らしていた。
2014年8月、そのマークの人生がドキュメンタリー映画になり、一躍話題をさらったわけだが。
それから1年以上になるが、彼の人生はいまどうなっているのだろうか?

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Mark Reay。ニューヨークの交差点のそばで。

身長188cm、顔も良し。容姿完璧のホームレス

 混み合ったバーで、頭ひとつ飛び抜けている。軽やかなロマンス・グレーだから、すぐにマーク・リーイだとわかった。
 小綺麗なスーツに身をつつんでやってきた彼だったが「ほら」と片目をつぶって見せたのはスーツの内側。ざっくり破けていた。

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 身長188センチメートル、顔も抜群にハンサム。52歳、見事な歳の取り方に見える。大学を卒業してモデルを志し、ヨーロッパへ。事務所に所属し、それなりに仕事はあった。が、「ファッションの世界にいる人ならわかるだろうけど、ギャラのない仕事もあったし。某有名雑誌の表紙の仕事、いくらだったと思う?40ドルだよ」。
 安定した生活とは程遠い。だから、少し稼いでは気ままに旅をしながら暮らしていたそうだ。

「いまの生活は、然るべき。だって若いころ、なんにも考えていなかったから」と当時を振り返る。そんなマークが映画で言い放った、"Follow your bliss—but be prepared to live your nightmare.”(喜びを追うのもいいさ、ただし、悪夢への準備もしておくべきだ)にハッとさせられた人は少なくないはず。

二重生活を暴露した、ドキュメンタリー映画

 2014年8月に、ニューヨークで公開された映画「HOMME LESS(ホーム・レス)」は、「ファッション業界でモデルとフォトグラファーをしながら、ビルの屋上で6年も暮らしている男」の話。実際のマークの生活だった。
 寒い冬の日も雨の日もビニールシートを重ねて着込んで屋上で眠る。作業に欠かせないノートパソコンは、寒さで壊れるから抱いて眠った。他の荷物はすべてジムのロッカー。モデルへのオーディションは、ジムの洗面台で服を洗ったり、時には公園のトイレで髭を剃って向かう。
 カメラは、モデルやちょっとした俳優の仕事、ジムの清掃員でためたお金で買ったそうだ。

マーク過去作品、ファッションショーにて。
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All images © Mark Reay

 華やかなファッションショーのステージ裏を撮り、アフター・パーティーで優雅にシャンパングラスを傾けても、1日の終わりに帰るのはいつも「友人宅の」ビルの屋上。

「ずっと昔に、その友人の留守を頼まれて合鍵をもらったんだ。ホームレス生活を初めてから少しして、そのことを思い出したんだ。
 共通の友人に出くわさないかが一番怖かったよ。だってそいつがその友人に『おい、今日マーク来てるだろ?』なんて言ったらお終いだったから」

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 一度眠りに屋上に行けば、もう降りない。トイレは空のペットボトルにやり過ごした。センセーショナルな話題のうえ、恥ずかしいことまで赤裸々にさらけ出した映画だったから、話題を呼ぶのは必然だった。

映画の後。58通の手紙を出したが…

 ニューヨークの映画祭で上映され大きな話題となり、賞賛を浴びた。それから米国各都市、さらにヨーロッパ含め数ヶ国で上映され、いくつか受賞した。(日本では今年3月にNHKが放映)。

 それだから、今回マークに会って話をする内容は「あれからいかに生活が変わったか」だと予想していた。だから、マークのいちばんはじめの返答には驚くしかなかった。
「あれから何も変わっていないよ」。もっと驚いたのは「映画で僕には一切お金は入っていない。出演料?もらってないよ。自分で部屋を借りて住むことはいまだにできていない」


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 一時だけ友人の好意で一ヶ月数千円でアパートに住んだがそこも出た。現在は、映画にも出てきたニュージャージーの田舎の実家で暮らしているという。実家があるのに、6年もマンハッタンの屋上で暮らしたのは「シティでチャンスを掴みたかったから」。

 諦めずに、映画の後、フォトグラファーやモデル、俳優の仕事を求めて、あらゆる方面に58枚ものレターを書いて送った。だが、返事はどこからもこなかった。映画の最後で寄付を訴えたマークだったが、これも「まったくこなかった」そうだ(後日自分でクラウドファンディングをはじめたそう。たくましい)。

「負けを認めて生きる人生もあるさ」

 各々、ビールを2杯ずつ飲んでいい感じになったところで、ポートレイトを撮ってもいい?と聞くと、マーク、屋上に忍び込んでみようといたずら顔で提案。ノリノリで映画のポスターと同じポーズをとってくれた。


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 別れる前に、「これからワークショップにいって、仕事につながる交流をしないとだから」と、近くのレストランのバスルームで髪を整えた。せっせと書いて出したレターに返事はなし、仕事もまったくこない。それでいて、どうしてまだ前向きになれるんですか、と聞かずにはいられなかった。

「前向きとは違うんだ。人生の負けを認めているから、生きていける」。誰かを愛するのも、子どもを持って家族を築くこともない、でも、自分で選んできたことの結果だからさ、と。
「これからも僕はこうやって、僕の負け続けの人生をまっとうするんだ」、と言ったマークの横顔。ただの諦めとも違うし、悟っているわけでも自分を哀れんでいるわけでもない。バッドエンドの続きへの、静かな覚悟が浮かんでいるだけだったから、余計に忘れられない。

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[nlink url=”https://heapsmag.com/?p=10367″ title=”アウシュビッツ収容所を生き延びた少年、大統領のスーツ仕立て屋へ。”]


Mark Reay / HOMME LESS

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Photos by Kohei Kawashima / Tetora Poe
Text by Tetora Poe

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