「ブロックチェーンで高騰するバナナに投資せよ」絶好調な“バナナコイン”が実行した小規模農家の支援システム

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あるロシア人起業家は、東南アジア・ラオスにあるバナナ農園を持っていた。この農園では、中国に輸出するオーガニックバナナを栽培している。中国ではバナナの消費が著しい。ビジネス拡大のため農園生産拡大の資金調達方法を考えていた起業家が出した答えがこうだ。「そうだ、“バナナコイン”をつくろう!」(←!?)。

冗談…ではない。「バナナコイン」の正体

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 マリファナ取引を透明化しましょうという仮想通貨パラゴンコインに、プレイヤー同士の直接的な金銭のやり取りを可能にしたブロックチェーンゲーム、ブロックチェーンを使用した仲介業者不要の不動産取引。もはや、「仮想通貨、ブロックチェーンって一体なに?」とはいまさら聞きにくくなってしまった。ブロックチェーンとは、ビットコインなどの仮想通貨を支える基盤技術のことなのだが、最近話題のこのコインの名前を耳にしたら「なんだそれ?」と聞き返しても許されると思う。ブロックチェーン技術を駆使した「バナナコイン」のことだ。これ、仮想通貨を通して購入可能な「バナナの市場価格をベースにしたトークン」で、これからの食品・農業関連ブロックチェーン界におけるゲームチェンジャーだともいわれている。ちなみにこのバナナコイン、ふざけた(というかストレートすぎるというか…)ネーミングのせいで「名前からしてふざけてる」「スパムだろ」などと日本でもその界隈ではちょこちょこ話題になっていた。

 バナナコインって一体? ということで実際にコンタクトを取ってみると、「ラオスにある小さなオーガニックバナナ農家の拡大のため資金調達をする、というのがバナナコインの主目的でした」。取材に応じてくれたのは、ブロックチェーンプロジェクト「Bananacoin(バナナコイン)」創設者の一人アレクサンダー・ビシュコフだ。

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創設者の一人アレクサンダー・ビシュコフ。

 ことのはじまりは、アレクサンダーの友人で実業家のオレグが、ラオスのビエンチャンにバナナ農園を所有していたことから。農園が栽培しているのは、中国市場に輸出される完全無農薬・オーガニックのレディーフィンガー(10センチくらいの小さなバナナ。別名モンキーバナナ)。破格の人口を誇る中国では、バナナの消費は年間約1.3億トン、中国へのバナナの輸出量はここ4、5年で42パーセントから88パーセントの2倍増しとバナナフィーバーだ。輸出量増大のためにもバナナ生産拡大の資金集めをしようとした二人だが、ここで難関にぶち当たる。「銀行から融資を受けるにも、デポジットが必要だったり、土地や生産者のヒストリー等さまざまな審査基準があったりととても複雑でした。また個人投資家にもあたってみたのですが、一様に反応は『ラオス? 小さなバナナ農家?』と話にならなくて」。小さな個人農家を助けたい、そしてオーガニックバナナビジネスも拡大したい。「結果、ぼくたちがたどり着いた解決策が“ICO”だったんです」

5、6倍の儲けになる「バナナ投資」のからくり

 ICOとは、仮想通貨を駆使した資金調達方法のこと。資金を募っている企業やプロジェクトが独自の仮想通貨(トークン)を販売し、それを購入した人から資金を集めるという仕組みで、次世代のクラウドファンディングとも呼ばれている。

 バナナコインプロジェクトの場合、彼らが発行する「バナナコイン」というデジタルトークンを「オーガニックバナナ農園を助けたい!」という支援者が購入することで、資金が生まれる。さらにイーサリアムのブロックチェーンを使用しているバナナコインは、ICOの一歩先をいく信頼性の高いTGEモデル(投資家に暗号通貨の開発案「ホワイトペーパー」の開示や計画スケジュールロードマップの提示などを行った信頼性の高いICO)を導入しているという。

「食べられるバナナ」と「増大するバナナの市場価値」に投資

「ブロックチェーンの知識があまりなくても大丈夫」と自負するバナナコイン、どれだけ簡単なのかをみてみよう。まずトークンの価格は、1枚0.5ドル(50セント=約53円)。イーサリアムやビットコインなどの仮想通貨を通して購入できる。1トークンは、バナナ1キログラムの市場価値に相当する。

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 晴れてトークンホルダー(資金集め支援者)になると、どんなリターンがあるのか。第一に、トークンと交換可能な「ラオスの農園で育ったオーガニックバナナ(本物)」だ。「いや、別にバナナは要らないかな」という人には「所有トークン分のバナナを中国に売ってもらい、その利益で金銭として報酬をもらう」オプションがある。ちなみに現在(3/14時点)のバナナ1キロの価値は2.3ドル(約244円)で、アレックスによるとここ数ヶ月間での最高価格は3.5ドル(約371円)。つまりトークンホルダーにとっては、これだけで5、6倍の儲けになる。「市場は変動しているので断言はできませんが、いま中国ではバナナ需要が上昇し価値もうなぎのぼりです。イーサリアムも安定していますし、バナナ価格が一気に下落するとはまず考えられないでしょう」。事実、ここ7年でレディーフィンガーの価格(1キロ)は毎年4パーセントから10パーセント上昇しているという。さらにトークンホルダーには特典として、ラオスのバナナ農園を視察できる権利もあたえられる(日本の仮想通貨界の大物もトークンホルダーで農園を訪れているらしい…)。
 
「へえ、バナナコインおもしろそう。少額投資だしやってみようかな」と興味をもった人もいると思うが、現在、残念ながらトークンの販売は終了(ちなみに、120ヘクタールの農地拡大を実現している)。それでもトークンが欲しいという人はトークンホルダーから購入するしか術はないが、もともとの価格、1枚50セントで買うことは難しいだろう。トークンホルダーは差額で儲けることができるため、「トークン1枚を1ドル、あるいは5ドルなどで売るでしょう」。バナナの価値が上がれば上がるほど、トークン1枚の価値も上がるというわけだ。

零細農家の支援モデル、食流通透明化の促進モデルに?

「バナナコインについてプレゼンするとき、まずは参加者にこう質問します。『バナナを食べたことがある人は?』。もちろん、全員が手をあげますよね。そして『“バナナコイン”ってなんだか冗談みたいですよね?』。これにもみんな手をあげる。しかしプレゼン終了後には、みんなバナナコインに肯定的な興味を持っているのです」

 バナナコインに賛同するのは投資家だけでない。「インドのパイナップル農家にメキシコのバナナ農家。無農薬栽培をしている世界中の小さな農家たちから『私たちのこともバナナコインのシステムを使って助けてくれないか』と毎日連絡が来ます」。現に、バナナコイントークンの販売が終了したいま、バナナコインは、ブラジル人農家が管理するカンボジアのマンゴー農園を支援している。マンゴーのあとは、引き続きアジア圏に残り、パイナップル支援に着手したいとのことだ。

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「その次のプロジェクトとして考案しているのが、ブロックチェーンを利用したグローバル・フルーツ・プラットフォームです。無農薬で質の高いフルーツを生産する世界中の小さな農家を助けるためのシステムで、農作物の透明化も図ります。将来的には、ブロックチェーンが管理するデータにアクセスすることで店頭に並ぶ農作物が“どこで育てられ、誰にパッキングされたか”といった生産や流通の質をトラッキングできたらいいですね

 味や安全面では他には負けない高品質な農作物を生産しているにも関わらず、資源・人手不足などで生産が拡大できずに、大規模農家とのレースに負けてしまう小規模農家。ブロックチェーン、仮想通貨で急速に高度化するテクノロジー社会の恩恵に預かり「それならICOで資金集めだ!」とは農家だけではなかなかならない。そこに「では、私たちが仲介してトークンを売り資金を募ってあげます。そしてトークンホルダーにも高い儲けの見込みをつけてあげます。ブロックチェーンを使ってね」と助っ人が登場。バナナコインは、聞いた瞬間おもわず笑ってしまうユーモア加減には想像できないような、新たな農業救済モデルの可能性をも含んでいるのかもしれない。

Interview with Alex Bychkov of Bananacoin

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Photos via Bananacoin
Text by Sally Lemon
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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