「女性のエンパワメント」を予想外にアシストする、男性始動の新テックビジネス〈フラワー(花)テック〉

従来、花は「特別な日に特別な人へ贈るもの」として捉えられてきた。しかし、花に込められるのは「愛」や「感謝」「おめでとう」の気持ちだけではない。近年、生産と販売の間にいるミドルマン(中間業者)を排除した「中抜き」スタートアップが生まれてきたが、今度は「花」業界に風穴を開ける動きが強まっている。それは「フラワーテック」と呼ばれ、それにより花を贈る文化も、男性から女性へより「女性から女性へ」とシフトしているのもおもしろい。

フラワーテック(Flower(花)Tech)旋風到来

「がんばって」「ごめんね」「お疲れ様」「久しぶり」「春だね」など、日常の様々なシチュエーションで花を贈り合う新しい文化が生まれようとしている。そのきっかけをつくったのは、「フラワーテック」こと、オンデマンド型の花束のデリバリーサービスを提供するスタートアップ。米国では2011年から少しずつ注目を集め、2014年を界に顕著に数が増えている。「Farmgirl Flowers(ファームガールフラワーズ)」「BloomThat(ブルームザット)」「The Bouqs(ザ・ブークス)」「UrbanStems(アーバンステム)」など、その数、ざっと200社以上。


ファームガールフラワー


ブルームザット


ザ・ブークス

 2013年頃までにメガネ、時計、マットレスなど様々なスタートアップが「中抜き」ビジネスで成功をおさめていた。そんななかで「他に手垢のついていない分野はないか」と意欲をみせていた起業家たちの目に止まったのが、花のデリバリーだ。米国で「花を贈る日」といえばバレンタインデーで、その市場は2,000億円もの規模を誇り、その他、母の日や誕生日なども入れると全体では1兆8,000億円にもなる。

 ただ、先述のフラワーテックのスタートアップたちが現れるまでは、長らくこの市場は4社ほどのビックプレイヤーが牛耳る寡占状態にあった。彼らが海外から様々な種類の花を仕入れて、数々の小さな花屋に卸すというのが一般的だったが、その仕入れ先の労働環境から料金の上乗せ具合まで、その工程には不透明なことが少なくなかったそう。また、多くの花屋が生花を売り切れておらず、廃棄花の量も問題視されていた。生花は時間が経って傷んでしまうと売り物にならず、在庫の約40パーセントががゴミになっていた。

 これら問題を解決し、より良いサービスを提供しようと現れたフラワー・テックに共通するのは主に以下の3つ。

1、生産と販売の間にいるミドルマン(中間業者)を排除した「中抜き」ビジネス。また、フローリストを社内に抱えたことにより、お洒落でコストパフォーマンスの良い製品を販売。

2、商品の選択肢は3-5種程と少なめ。厳選することで、消費者の選ぶストレスを軽減すると同時に、廃棄花(ゴミ)を極力減らす。 

3、顧客ターゲットを男性から「女性へ」と軌道修正し、成長を遂げている。

花のギフトは「男性から女性へ」より「女性から女性へ」

 フラワーテックの創始者たちのほとんどは男性だ。彼らは自らの苦い経験から、当初は主に“男性向けの”花束のデリバリーにビジネスチャンスを見出していた。たとえば、2014年のバレンタインデーに創業した「アーバンステムス(Urbanstems)」の共同創始者は「遠距離恋愛をしていて彼女の誕生日にサプライズギフトとして花束をオンラインで購入したのですが、まさかのその日に宅配されないという惨事に見舞われまして」と話す。他社の起業家たちも「写真で見た花と実際に届いた花のクオリティの差がひどい」「届くころには花が萎れている」など、問題点が多かったことを指摘している。
 
 品質は、生産者からフェアトレードで直接花を仕入れることで確保、また、大企業にありがちだった、多すぎる選択肢ゆえの選ぶストレスも商品を厳選することで解決。シリコンバレー的思考の真骨頂「合理性、効率性」を前面に押し出した、良いものをより安価に、そして、手軽かつ迅速に注文できるシステムを構築した。それはひとえに「女性へのプレゼントを買う男性顧客」をコアターゲットとして意識していたからだ。 

 しかし、実際にビジネスをはじめてみると、バレンタインデーを除いては、女性が購入者の半数以上を占めることに。上述のアーバンステムは「女性から女性へ贈るケースが67パーセント」という展開。そこで、急遽マーケティングを軌道修正し、インスタグラムへ投稿する写真もより女性を意識したものに変更。もはや、どのブランドもテック系の男性がはじめたビジネスとは思えぬ女性目線の仕上がりになっている。

who wouldn’t want to come home to flowers + fluff?

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thank you for bringing the chill, October

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@nikipilkington made magic with our #stems

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 ニューヨークなどの都市部では当日配達も可能。そのため、すばらしいプレゼンをした同僚に「お疲れ様」や「グッド・ジョブ」の気持ちを込めてオーダーする人や、逆に落ち込んでいる友人やチームメイトを元気づけるために花を贈る人も増えているという。また、セルフケアブームの後押しもあり、自分へのギフトとして定期購入をしている人も今後増加すると予想されている。
 以前は「特別な日に特別な人へ贈るもの」と限定的であったが、フラワーテックの興隆により、いまでは年間を通してちょっとしたお礼や労いなど、日常の様々なシチュエーションで花を贈り合うようになりつつある。 

ファッション誌のエディターとコラボして「旬」を花束に落とし込む

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 新しい文化を牽引する取り組みとして、「アーバンステムス」のマーケティングは興味深い。たとえば、国際女性デーには、女性主導の出会い系アプリ「バンブル」とコラボレーションした花束をデザインし、購入ごとに女性を支援する団体に5ドルの寄付ができる社会貢献キャンペーンをおこなったり、母の日を記念してファッションブランド「J.Crew(ジェイクルー)」と各店舗でコラボレーションイベントを開催。また、今年1月からはファッション誌『ヴォーグ(Vogue)』とパートナーシップを結び、シーズン毎に同誌のファッションやビューティー部門のエディターたちがデザインしたハイセンスなブーケを販売している。

「女性をエンパワメントする」という同じ志を持った他業種の企業と手を組むことで、それぞれの力をより強力なムーブメントに発展させているのはもちろん、ファッション業界のエキスパートと協働することにより、ミレニアルピンクの次に来る、といわれているパープルをいち早く取り入れるなど「旬の色やデザインに敏感に反応し、それらを花束に落とし込むことができる」というメリットもある。


 ここ数年、女性の活躍を後押しようと、女性同士が互いをサポートし合う動きが強まっているが、そんななかでフラワーテックによる花のデリバリーは、ちょっとした心遣いを表現したり、友情やチームワークを強固なものにするのに効果的な役割を果たしている。もともと花束には「特別な時に貰うもの」というプレミアム感があるだけに、相手を喜ばす費用対効果も高い—、というのは無粋な話かもしれないが、たった5、10分程の時間と4、5,000円前後の投資(複数人で割ればもっと安い)で、まわりの誰かをこんなに幸せにできる方法が他にあるだろうか。ビジネスとして成長している要因のひとつに、幸せの連鎖があることはまちがいないだろう。

 幸せをもらった人が、周りの人を幸せにしていく、というストーリーも素敵だが、男性がはじめた花のビジネスが、思わぬかたちでより女性に受け入れられ、結果的に女性の結束をサポートしているというのも、なんだか新鮮。実にすばらしいことではないか。

情報提供:Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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