「死ぬほどつまらないのにスキップされない」IKEAの広告。ストーリーなしオチなし動画はなぜウケるのか

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間延びは敵ではなかったか。いまどきストーリー性も特殊な視覚効果を施していない「見応えのないCM」など誰が観ようか。視聴者を引きつけるには強力なインパクトがなくてはならないのかと思いきや…スウェーデンの家具ブランド「イケア(IKEA) 」のやたら長くてオチのない動画広告がウケているらしい。「死ぬほどつまらない」のに、5秒で「広告をスキップ」されないのは、一体なぜなのか

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行き過ぎたケバいCMへの反動か?

 YouTube閲覧時には多くの場合、動画の再生前(もしくは再生中)にCMが映し出され、例外もあるが、大抵は5秒で「スキップ」できる仕様になっている。たかが数秒とはいえ、観たいものはワンクリックですぐに観られることに慣れている視聴者からすると、この5秒が煩わしい。
 一方、広告を出す側の視点に立ってみると、この5秒間はほぼ確実に視聴者の時間を獲得することができる重要なもの。つまり、ここが視聴者の関心を掴めるかどうかの勝負となる。

 そのためか、Youtubeの広告動画は基本的にケバい。これでもか!と特殊効果を盛り込み、チカチカと秒単位でカットが切り替わるスタイルが主流で、その流れはどんどん加速している印象だ。また、そのドラマ化も然り。「胸がギュッと熱くなる」ストーリーが氾濫し、おかげで私たちはすっかりストーリー中毒だ。

 つまるところ「間延びは敵」。それがTrueView*動画広告界の掟だと思われていたが、この晩秋より、スウェーデンの家具ブランド「イケア(IKEA) 」が発信しているYouTubeのインストリーム動画広告は、最初の5秒に限らず、最後の最後まで、本当に何も起こらない。定点撮影の何も起こらない生殺し映像が4分半。さらに長いものだと約9分間にもおよぶ。まさに間延びの極み。これは、“あえて”なのか、それともたんなる事故なのか?

*Googleが運営する、YouTube内の動画広告フォーマットの名称。

皿を洗ってるだけ。「何も起こらない」のは、リアルな日常を追求した結果?

  
 興味深いのは、多くのYoutube視聴者にとって、CMは煩わしいもので「5秒でスキップ」が当たり前だというのに、このイケアの新しいCM動画の視聴時間は「1広告あたり、平均3分間以上」と異例の長さを誇っていることだ。また「視聴者の39パーセントは離脱することなく最後まで観ている」そうで、この数字はYoutubeのインストリーム動画広告の平均視聴時間より18パーセントも高い。つまるところ、視聴者にウケているのだ。

以下がその動画内容、3パターンある。


1、若い男の子がただ皿を洗う(約4分半、動画
2、宅飲みを楽しむ若者が、順番に腕ずもうをしていくだけ(約6分、動画
3、ソファーの上でイチャつく若いカップル、いまにもおっぱじめそうで結局なかなかはじまらない(約9分、動画

 この3つの動画に共通するのは、まず、定点撮影であること。角度が変わることも、クローズアップも切り替えもない。次に、動画の中の人物が、カメラに向かって、「なんも起こらないから、はやくスキップしろよ」と視聴者を煽ること。そして、一応コマーシャルなので、動画の途中に「ランプがいくら」「テーブルがいくら」というテロップがでるのだが、それらが画面の端の方にたった数秒あらわれる程度の極めて控えめなものである、ということ。

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ほんとにこれ見たい?

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他にやることないの?
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ランプのお値段登場。
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もう終わったから、スキップしなよ。
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広告スキップしていいよ。
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コーヒーテーブルのお値段登場。

 いろんな意味で波紋を投げかけるイケアの新しいCM動画を担当したのは、スウェーデンの首都ストックホルムを拠点とするクリエイティブ集団「Åkestam Holst」。以前にもイケアのインストリーム動画広告を担当していて、今年の上半期には、今回の間延び動画とは異なり、ひとり親家庭を描くエモーショナルな作品も出していた。彼らは「現代人のリアルな日常こそがインスピレーション」というイケアの思想に深く共感を示しているという。

 そういう意味では今回の「何も起こらない動画」もリアルな日常を描いたものであり、ドキュメンタリーかと見紛うほどにそのリアルの度合いはかつてないほど高い。見方を変えればなんだかこの「オチのない動画」は、一般視聴者への「ある種の慰め」にも思えてくる。「あんたが思っているほど、ドラマチックな毎日を送っている奴などおらんぜよ」と。「日常なんて大抵のんべんたらりとしたもので、イケアの家具はそんなあなたの生活にも寄り添うプロダクトですよ」、そんなメッセージにも感じられるのだ。

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ほんとにただひたすら腕相撲をし続ける…

 

お洒落野郎の雰囲気モノか、リバース・サイコロジーか。

 一体、なぜこの間延びCMが視聴者を惹きつけているのか。どうやら、答えは一つではなさそうだ。

 たとえば、「エクスペリメンタル・アート」「エクスペリメンタル・ミュージック」「エクスペリメンタル・ムービー」といわれる、いわゆる「実験的」作品というジャンル。コアなファンもいるが、わかりやすい山場もオチも起承転結もないものが多いためか、「お洒落野郎の雰囲気モノ」だと捉えている人も少なくない。今回のイケアのCMもこの流派に属する、と言って片づけてしまうこともできなくはない。

 また、リバース・サイコロジーが効いたのではないか、という見方もある。人に何かをさせるために、わざと逆のことを言って相手を挑発する手法で、上述の通り、各動画の登場人物は視聴者に「なんも起こらないから、はやくスキップしろよ」と、カメラ越しに煽ってくる。これにより視聴者は、逆に「何か起こるのではないか」とより一層観たい心理状況になるというものだ。

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洗い続ける。

 もう一つ、同じ北欧のノルウェー発のテレビ番組「スローTV(Slow TV)」の影響ではないか、という見解も興味深い。それが最初に放送されたのは2009年。内容は、7時間半の電車の旅を、ひたすら車掌席から定点撮影で撮り続けたもので、もちろんノーエディット、ノーカット。その他にも、4時間に及ぶ「ナショナル・ニット・イベント」や「ナショナル・ファイアーワーク・ナイト」といった、とにかく何も起こらない長時間映像を放映することで定評がある。これがなんと、2016年より米ネットフリックスのプログラムに組み込まれ、いまでは国境を越えてある程度のファンを獲得しているのである
 そんなこともあり、この流行に反する「何も起こらない動画」こそが次のトレンドだとして注目している人もいるようだ。
 
 実に様々な見方ができるイケアの「オチのないCM」の成功。確かに大企業だからこそ成し得る「何も言わなくても伝わるでしょ」という側面はあるとは思う。だが、刺激に慣れきった現代人ならではの「当然、何か起きるでしょ?」という期待をサラッと裏切る手法はお見事。いつまでたっても何も起こらないから、いつまでも見続けてしまうのだ。

Images via Åkestam Hols
Text by Chiyo Yamaushi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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