“サンタより忙しい男”の「機械仕掛けのクリスマス」。世界各地にファンタジーを出現させる工房へ

クリスマスになると忙しくなる男、クリスマスに身を捧げている男といったら、サンタクロースだが。サンタに負けず劣らずクリスマス中心の生活をしている男といえば、通称“ブルックリンのゼペット爺さん(ピノキオの生みの親)”、ルー・ナスティ。世界中からクリスマスの注文を受け、“機械仕掛けのファンタジー”をあちこちに施していく

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ルー・ナスティ

“サンタより忙しい男”

昔々、ニューヨークのブルックリンというところに、
ルーという名の少年がいました。
本なんか退屈だとほっぽり出して、ものづくりに没頭。
19歳のとき、当時最先端の「ロボット」を完成させました。

機械仕掛けのおもちゃに取り憑かれた少年は独学で工学を学び、
月日が経つこと50年。
クリスマスの機械仕掛けの人形を生み出す職人となりました。
今日も飼い猫ジョーと助手たちが右往左往する工房で、
現実の世界とファンタジーとを行ったり来たりしています。

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「おいジョー、こっちに来いっ! お客さんに挨拶だ。あれ、行っちまった。一応言っとくが、コイツは人形じゃなくて本物だよ」。工房を気ままに歩きまわる猫を呼ぶ声の主は、話の主人公、人形・模型・おもちゃ職人のルー・ナスティ(Lou Nasti)。鼻にちょこんとのったメガネ、奥の大きな瞳と、口をひらく毎にひょこひょこ動く白い口髭のサンタクロースみたいな彼も、本物だ。

 吐く息も白くなった12月初旬、ホリデーシーズンを迎え街が紅潮するなか、殺風景な倉庫地帯に工房を訪ねた。装飾を組みたてる大きな倉庫に、蝋人形の首、ネジに釘に木片が散らばる作業場。その先に、“Welcome To My World(わしの世界へようこそ)”のドア。電気のスイッチを押すと、人形たちが一斉に動きだす。テディベアが木を切っている。中世の神話に出てきそうな妖精が駆けまわっている。超現実的だ…。「イッツ・ア・スモールワールド」のデジャブだ…。ウォルト・ディズニーの世界観とティム・バートンの奇怪さ、サンタクロースの役割を足して三で割ったかのようなルー・ワンダーランド。「妖精の住処なんてみんな知らないだろう? だからわしが空想で再現するんだ」。ファンタジーの世界に片足を突っこんだルーの口髭は、そう言ってひょこひょこ動く。 

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年中クリスマスの職人、自宅の装飾は自粛

「先週で今年の仕事納めだったよ」。毎年2月になると、工房の電話は世界中から掛かってくる注文で鳴りやまない。製作には時間を費やすため、7月には予約締め切り。ルーのクリスマスは2月からはじまり、12月のはじめには終わる。

「要は『スペース・時間・予算』。たとえばさ、2月に大掛かりな装飾を予約してきても50万しか予算がなければ無理。逆に1000万出せますってたって、8月に注文してきたら製作が間に合わないからペケなんだよなあ。中途半端な作品はつくりたくないから」

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 これまでには老舗デパート・メイシーズのサンタランドに市内百貨店のウィンドウディスプレイ、今年は市内オフィスビルやリゾート地バハマのデパート、数十年来親交のある個人宅庭をサンタ、トナカイ、テディベア一色に。
 ところでこの職人、仕事はクリスマスに限らない。カジノの入り口で下品な言葉を発するオウムに中国にある学校の英中両語を話す教育系ロボット、アメリカ自然史博物館の恐竜模型、ハロウィンの動く骸骨、宝石店カルティエのショーウィンドウ、目に監視カメラを潜ませたマネキン、ジャングルを再現した洗車機…なんでもできてしまう。1969年に自社「メカニカル・ディスプレイズ・インク(Mechanical Displays Inc.)」を立ち上げてから半世紀、ニューヨーク中やアメリカ全土、モロッコからフィリピン、ブラジルまでを飛びまわってきた。

 収入の8割はクリスマス関連。年中クリスマスに追われているためか自宅の装飾はなし。「『穴のあいた靴を履いた靴職人』ってことよ。靴職人は、他人の靴に情熱を傾けるけど自分の靴にはおかまいなし。それとおんなじさ」

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「空想を現実にする業」隠し味には“洒落”を少々

 自作のファンタジー世界、ルー・ワンダーランドのアイデア源は、ルーと顧客の頭のなかだ。顧客が「全部、犬で!」と言えば犬をはべらすし、「妖精の王国がテーマだ」と言えば妖精をせっせと製造する。最近の流行りは、メリーゴーランドなどをあしらったおもちゃの国で、くるみ割り人形やコッペリアといったバレエ作品も人気だ。年々、複雑な注文が増えアイデアも入念に練られている。
 あるおもちゃ屋のウィンドウには、おもちゃ屋の工房を再現。職人が寝ている間、20体のおもちゃが一体いったい動き出し、職人が目覚めると、動きをやめる。職人が再度寝はじめるとおもちゃたちがまた動き出す、というディズニーのアニメも真っ青の世界を創りあげた。

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 アイデアがない客には、ルーが提案。テディベアやアイススケート、氷釣り、マエストロ(名指揮者)の指揮棒にあわせてダンスする紳士・淑女…。「午前3時にむくっと起きて、夢でみた世界をメモ書き」し、それを再現したことさえある。
 隠し味は、得意の洒落だ。焚き火でお尻を暖めるテディベアに床の隙間から顔を覗かせるネズミ、犬の耳を噛む犬、マシュマロを焼くリス。テディベアには飼い犬がいる。「クマが犬を飼っちゃいけないなんて、誰が言ったんだ?

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「孫を連れてきたじいちゃんの方が感動したりして」

 ルーの人形たち(彼は“ベイビー”と呼ぶ)に駆使されているメカニクス(機械学)とエレクトロニクス(電子工学)。人形の内部に仕掛けたモーターで、ロボットのように稼働する。ワイヤーの配線や溶接を美しく施すことが、最も好きな作業だという。しゃべる人形の胴体内には音声プレイヤーを隠しこんで、事前に録音した音声を再生する。一昔前からソレノイド*、カセット、CDプレーヤーとなって、いまではUSBドライブとだいぶ小さくなった。

「人形にモーターを仕掛けたからってきちんと動くとは限らん。なんで、どうして動くのか、どれほど速く動くのか、使用している鉄やベアリング**はどの種類か。緻密なロジックを理解しなければならないんだ」

*コイルに電流を流して鉄芯を動かす部品。
**部品のひとつで、摩擦によるエネルギー損失や発熱を減少させ、軸を正確かつ滑らかに回転させるために使用される。

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「最近の子どもたちは小さい頃からコンピューター、コンピューターでさ。早く大人に、って成長を急かされている。“子どもであること”の楽しみを失い、子どもが子どもでなくなってきている気もする。ファンタジーを知らない子どもたちに、その世界を見せてやりたいんだ」。逆に、遠い昔にファンタジーを忘れた大人には「懐かしい思いを運びたいね。孫を連れてきたじいちゃんの方が感動したりして」。

 科学を用いて芸術を生かす。エンジニアでもアーティストでもあるルーは「どっちかってったらアーティストだな。がらんどうの空間を見渡して歩きまわるだけで、完成図が想像できるんだ。それを手描きで記録する。ヴィジュアルアーティストだな
 
 その日工房に来ていた助手のひとり、10年以上ルーの右腕として世界中を飛びまわったホゼがこうこぼす。「ルーから聞いたかわからないけど、彼は自分の姿を作品にこっそり忍ばせるんだ。白髭のマエストロとかね。ヒッチコックが自作の映画にカメオ出演するみたいにさ」。そういえば、工房一角のテディベア村にいた爺さんクマの口元には白髭があった。

Interview with Lou Nasti

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Photos by Mitsuhiro Honda
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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