中国で、中国人として思うこと。感染拡大の日常で、悲しかったこと・うれしかったこと・バンド活動のこと|CORONA-XVoices

コロナウイルスの感染拡大の状況下で、さまざま場所、一人ひとりのリアルな日々を記録していきます。
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2020年早春から、世界の社会、経済、文化、そして一人ひとりの日常生活や行動を一変する出来事が起こっている。現在160ヶ国以上に蔓延する、新型コロナウイルスの世界的大流行だ。いまも刻々と、今日そのものを、そしてこれからの日々を揺るがしている。
先の見えない不安や混乱、コロナに関連するさまざまな数字、そして悲しい出来事。耳にし、目にするニュースに敏感になる毎日。

この状況下において、いまHEAPSが伝えられること。それは、これまで取材してきた世界中のさまざまな分野で活動する人々が、いま何を考え、どのように行動し、また日々を生活し、これから先になにを見据えていくのか、だ。

今年始動した「ある状況の、一人ひとりのリアルな最近の日々を記録」する連載【XVoices—今日それぞれのリアル】の一環として、〈コロナとリアリティ〉を緊急スタート。過去の取材を通してHEAPSがいまも繋がっている、世界のあちこちに生きて活動する個人たちに、現状下でのリアリティを取材していく。

※※※

先日、ベルリンでの状況を話してくれたマーク・リーダーが数年前に発掘し、手塩にかけてプロデュースをしてきた中国のインディーズバンド「Stolen(ストールン:秘密行动)」。以前、ヒープスでも取材した、次世代の中国サウンドを担い〈シノ・シーン〉を牽引するエレクトロ・ロックバンドだ。今年3月に予定されていた英バンド「New Order(ニュー・オーダー)」の日本ツアーの前座として、初来日する予定もあった。また、このタイミングで、ヒープスとも是非イベントをしようという話も進んでいた。

しかし。誰も予期していなかったコロナウイルスの世界的大流行により、当然のことながら公演は延期で、来日も中止。マークによると「バンドの練習にも行かれていないらしいんだ!」とのこと。四川省の省都・成都を拠点にするストールンは、中国というコロナウイルスがはじまった土地でいま、なにを考え、どんな行動を起こしているのだろう。ボーカルでリーダーのリャン・イーに、マークを通して質問を投げかけてみた。


中国・成都のバンド、ストールン。
Image via Stolen

HEAPS(以下、H):新型コロナウイルスが初めて発生、発見されたのは、昨年の12月。成都にいる周りの人々の反応はどんなものでした?

Liang(以下、L):最初は、誰も事態の深刻さに気づいてはいなかった。おそらく11月中旬あたりからすでに発生していたと思うんだけど、12月まではあまり明らかになっていなかった。今年1月になっても、みんな来たる旧正月(春節)へのワクワクで、この状況がどれだけ危険かということに気づいていなかった。

というのも、中国の伝統では春節は1年で最も重要な月。この期間中、公的にも私的にもたくさんのお祝いのイベントがおこなわれる。みんな、ニュースで流れている時事はさほど気にしなかったり、あまり考えない期間でもある。なにより良くないニュースは耳にしたくないからね。(厳戒態勢になってからも)麻雀をしに、こっそり友だちのうちに遊びに行く人もあとを絶たずで、警察が立ち入りをして麻雀を没取していった、なんて話もあった。

H:最初の頃は、みんな見て見ぬ振りをしていた。

L:いまとなって、みんな気づいているけどね。武漢の地方自治体が初期の状況を恐ろしいくらい見誤ったこと、声明を出すことが市のイメージ、そして人々や地元経済の動きに影響をあたえるかもしれないと危惧していたこと。ウイルスの感染力や致死率を長らく無視していたこと、そして、もっと警戒する必要があったことをみんなに伝えなかったことも。

H:リャン自身は、コロナが深刻な問題だということに、いつ気づいた?

L:僕は家族と春節を過ごしていたんだけど、最初、故意にこの話題について話すことを避けていたんだ。なぜなら、中国の伝統では、春節のあいだはネガティブなことを話してはならない。縁起が悪いとされているから。

春節の祝いの翌朝、起きて外に出てみると、ほとんどの人がマスクを着けていた。僕の生まれ故郷は小さい田舎町なんだけど、この時に事態が深刻になってきていることに気づいたんだ。テレビは絶えず、全国民にマスク着用と手を頻繁に洗うことを促した。僕の家族も、コロナのことについて話だして、旧正月の予定を変えないといけなくなった。それからというものの、すべてが変わってしまった…たくさんのことがね。

H:一晩にしてみんなマスクをつけるようになったなど、コロナによって一変した日常のシーンがありますよね。ここニューヨークでは、使用済みのゴム手袋が路肩に捨てられていたり、日中の地下鉄の車両に乗客が1人だったり。

L:春節の3日後、家族の元を離れて妻と成都へ帰ったんだ。成都はほぼ、がらんどう。車もあまり通っていなくて、たった数人が歩いているだけ。みんなマスクをつけていた。僕たちがアパートに到着すると、警備員が僕たちの体温を計った。実際、駅に着いたとき・出たときに、すでに体温を計測されていたんだけど。それで、警備員からいくつか質問された。「どこから帰ってきたのか」「武漢の人々と接触があったかどうか」「最近武漢に行ったかどうか」とか。

そのあとは、政府の指示に従って長い自宅隔離を心がけた。最初は、マスクを見つけるのが本当に大変で。近所のドラッグストアで、少量だけマスクを購入した。仕事に行かなければいかないのはごく限られた人で、ほとんどの人々は家にいた。夜になると顕著でね。すべてのアパートの明かりがついているという、いままで決して見たことのない光景だった! あとは、春節の気持ちのいい晴れの日に、何千万人もいる街の道路が完全にがらんどうになっている。それは異世界のようで、ショッキングで、一生忘れない光景。

H:映画のような世界ですよね。店の棚から消えたものなどはありますか?

L:消毒剤や除菌ジェル、衛生に関わるすべての製品が“人気”になって。漢方薬もすごく売れた。あとはバーチャルゲームやオンラインゲームのための装置などもね。

H:リャンの日常生活では、なにか変わりましたか? たとえば、ストリーミングサービスに登録したり、自分で料理しはじめたり、日用品の欠乏によってトイレットペーパーを使う量を減らしてみたり。

L:自宅隔離期間中、5日に1回、食料を買うためにスーパーに行った。僕は幸運にも料理人の家庭に生まれらから、料理の仕方は知っている。だけど、いままではテイクアウトなんかで済ませていたりもしたんだ。テイクアウトから出るプラスチックのゴミなんかに罪悪感を感じながらね。でも、自宅隔離期間中、毎食自分で作ることにした。1ヶ月で、プラスチックのゴミを出さずに、手短にヘルシーな食事を作れるようになったよ。


Photo via Stolen

H:現在の状況はどうですか。店舗、ビジネス、学校、イベント会場、オフィス、工場、交通機関などはまだ閉まったまま?

L:いまは、学校といくつかの施設を除いては、ほとんどみんなが通常に戻っている。でも、常にマスクは必要。マスクとか洗面用品とかは、いまはすごく簡単に見つけたり購入できるようになっているし、値段も元に戻っている。もっと安くなっている場合もあったり。

でも、店舗やショッピングモール、工場や交通機関など、どこに行くにしても厳しい感染防止対策がおこなわれている。お客が入店する前に体温を測ったり。道ばたにいるほとんどの人々がまだマスクを着けている。レストランに外食しに行くことはまた普通になってきているよ。マスクをつけてね!

H:レストランでもマスク…。そういえば中国では、店舗や地下鉄などで人々を追跡し顔認識するためのドローンを使っていると聞きました。これは成都でも? 政府によるテクノロジーを使用した個人への監視ってどう思いますか?

L:成都や他の大都市で無人航空機を見たことはないな。SNSで入ってくるドローンの話って、ほとんどは地方でおこなわれていること。自宅隔離の条例に従わない人を説得させるために。もちろん、都市部での店やレストランにもたくさんの監視カメラはあるけど、すべてに顔認識機能があるとは思わないし、犯罪を防ぐ役割を果たしていると思う。だからみんな、街のカメラを大規模な監視やプライバシーの侵害だとは思っていないな。

H:コロナにまつわるニュースは、やはりSNSからが多いんですか? 特に若い世代はどのように情報を集めたり共有しているのでしょう。

L: 国全体がウェイボー(中国版ツイッター)やウィーチャット(中国版ライン)で会話をしている。政府の公式情報を得る場でもある。政府の公式アカウントからは、絶えず発信されているし、感染対策や医療の知識もSNS上で公開されているから。

H:そういえば、マーク(・リーダー)から「ストールンは、バンド練習もできない」と2月の時点で聞いたんだけど…。

L:1ヶ月ほど、最低限しか外出してはいけない期間が続いたんだけど、幸運にも新たな感染数がどんどん減りはじめていくにつれ、正常に戻ってきた。

H:マークからも、ストールンの「ロックダウン(封鎖)ライブ」のユーチューブ動画が送られてきました。これはスタジオで撮っていたんですね。

L:そう、3月16日にスタジオから、初のインターネットライブ演奏をしたんだ。外出が許されてから数日後だね。バンドメンバーだけではなく、照明やローディーやエージェントも含む、ストールンチームの全員が計画にくわわって。これ、マークのアイデアなんだよ。計画をしてから実現までは早かった。オンラインでのライブでも音やビジュアルの質が落ちないように、最新テクノロジーを使って。


これが、ロックダウンライブ。

H:動画観ましたが、照明も音もバキバキでかっこよかったです。

L:少なくとも世界の65万人以上が視聴してくれたみたいで、いいフィードバックをもらったよ。みんなをハッピーにすることができてうれしかった! 同時に僕たちの新しいEPも国内販売して 、たくさんの称賛の声をもらった。売上金もね。そのお金で、高品質の医療マスクを買って、武漢にいる医師たちに寄贈したんだ。

H:すごいなあ。ロックダウン期間中、ストールンや成都のミュージシャンやアーティストは、どうやって創作活動をしていたんですか。

L:実はロックダウン期間中、僕たちメンバーはほとんど音楽について話し合うことはしなかったんだ。また一緒に活動を再開できるときまで、個々に曲のアイデアを録音したり書きためておいた。メンバーのなかには、インターネット上で個人的なライブパフォーマンスをおこったり、DJとしてオンラインで音楽をシェアしたり。中国にいるミュージシャンのほとんど全員が、予定していたパフォーマンスを中止したり、日程を変更していたよ。

H:やはりショーや展示、イベントなどはキャンセルされてしまった。

L:僕たちはバンド結成10周年記念の中国ツアーを中止しなければならなかったし、新しいEPのリリースも遅れた。ニュー・オーダーとの日本での公演も、中国でのミュージックフェスティバルやヨーロッパで計画されていたギグもキャンセルせざるを得なかった。

H:日本公演キャンセルは、ヒープスもとても悲しかったです。イベント一緒にやろうと思ってたし。

L:実際、当初は日本ツアーが延期されるとは思っていなかったんだ。ただただ待ち続けていて。でも中国全体が1ヶ月以上ロックダウンしたとき、ああこれはもう無理かなと思った。日本への渡航ビザの申請についてみんなに聞きまくったけど、みんな機関がストップしていて無理だった。出発日が近づいてくるまで日本大使館から知らせがなにも来なかった。

それに、中国人がウイルスを伝染しているとみんなが危惧していることに僕らも気づいて。だから現実的に考えて、ツアーをキャンセルするという最善策を選んだんだ。すごく辛かったよ。メンバー同士でも、話題にするには悲しすぎるほど。これがストールンの初来日公演になるはずだったからね。ヒープスと日本での僕たちのレーベルUMAAが、日本で僕たちを紹介するためのすてきな計画をしてくれていたし。マークが、バーナード(ニュー・オーダーのリーダー)にキャンセルのことを伝えたのち、ニュー・オーダーも延期することを決定した。近いうちに日本に行けることを本当に願っているよ。メンバー全員、日本の文化が大好きだから。

H:必ず実現させましょう! いまはスタジオに戻って制作活動?

L:1ヵ月の作業時間を失って、いまは狂ったように新曲づくりに取りかかっているんだ。これからいい新曲がリリースされると思うよ。でも、ライブから入る資金がないのが、ちょっとネックだけど。


昨年おこなったベルリンでのライブの様子。
Photo by Alex Jung

H:この期間を乗り越えて、バンドとしてなにがポジティブなことはありましたか? 楽曲制作に際してメンバーの協力体制が強くなったとか、ファンから前向きなメッセージを受け取ったとか。

L:ミュージシャンとして、僕はこのチーム(バンド)を持てたことをすごく幸運に思っている。僕たちは家族のような存在。僕たちの音楽を通して少しでも沈んでいる人々を感動させたり励ますことができたらと思っている。それと、いままで以上にファンとのネットワークも強化できた。このゆっくりできた期間、多くのミュージシャンや友だちが音楽をたくさん作ったり、クリエイティブになっていたことはうれしいこと。

H:まだまだ気が抜けない状況ですが、バンドリーダーとしても、メンバーのモチベーションを上げていかなければいけない。

L:実は、僕は、ものすごく悲観的で感情的な人間なんだ。だけど、僕はバンドのみんなを元気づけて、より良い未来について考えさせなければならない。この期間を、新しい楽曲制作やライブ演奏の腕を磨く時間にして、未来に繋げたい。最大のプレッシャーは、近い未来にもライブをすることができないかもしれない、ということだけど。それは、音楽業界全体が直面する長期的な不況を意味するし。世界の事態が深刻化したら、アートって人々が必要とするなかでも一番優先順位が低くなると思う。

H:この経験から、考えたこと思ったことを改めて教えてください。今回のことを、これからのバンドとしての活動や制作へどのように活かしていきたい?

L:中国人はシャイで自己表現をするのが苦手な人が多いんだけど、今回の状況下で、他人のために助けになることを厭わない人が多くいることがわかった。これにはとても感動している。正直、ここ1、2ヵ月でなにを学んだかは具体的にはわからない。けど、心に受けたさまざまな感情や衝撃は、間違いなくこれからの音楽創作へ影響すると思う。ある意味、避けられないことだね。

Liang Yi/リャン・イー

成都出身のミュージシャン。高校生だった2011年、エレクトロ・ロックバンド「ストールン」を結成し、以来ボーカルを務める。四川音楽学院卒業。音楽的な影響は英エレクトロニカバンド・ポーティスヘッドや、ドイツの電子音楽集団・クラフトワークなど。2019年には、エレクトロニックミュージックのレーベル「Crater Monde(クレイター・モンド)」を創立し、中国のエレクトロニックサウンドシーンを積極的に創り出している。

Text by HEAPS, editorial assistant: Aya Sakai
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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