7億人のリアルを知りたきゃ、ページめくって「開けゴマ!」世界最大級ECタオバオからのぞく中国我的生活『Open Sesame』

カニの写真がどデカくプリントされた布団から、セクシー自撮りがプリントされた布団まで。あなたのお気に入り商品がきっと見つかる。なんでも買える。「淘宝網(タオバオ)」。
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2年前、香港の公共図書館で、LGBTQをテーマにした10冊の児童書が本棚から消えた。反同性愛団体の抗議によるもので、以来、一般公開は禁止。禁じられた本のなかには、数々の賞にノミネートされた人気作品もあったという。これを疑問視したアートキュレーターのケイリンと、インディペンデント出版者のビートリックスがつくったのが、クィアに関するジンを専門に扱うショップ「Queer Reads Library(クィア・リーズ・ライブラリー)」。店の本棚に並ぶのは、100冊以上のジン。もちろんすべてクィアに関する内容だ。これらは二人の私物と、世界中のクィアアーティストから届いたもの。ポップアップ販売やジンフェスを通し、香港にてクィアジンの魅力を発信している。

さて、時は2019年、大変便利な世の中になったというのにその古臭いカルチャーは廃れない。それどころか、絶え間なく人間的な速度で成長し続ける〈ジンカルチャー〉。身銭を切ってもつくりたくて仕方がない。いろいろ度外視の独立した精神のもと「インディペンデントの出版」、その自由な制作を毎月1冊探っていく。


「淘宝網」。「タオバオワン」と読む。世界一のEコマース企業と呼び声高い「アリババ・グループ」が2003年に創立した、中国最大規模のショッピングサイトのことだ。通称はタオバオ。月間アクティブユーザー数は7.5億人2019年)、アリババ傘下のもう一つの巨大ショッピングサイト「天猫(ティーモール)」などとあわせて流通取引総額は約62兆円(2017年)。アマゾンは30兆円、楽天市場は3兆円といわれているから、桁違いの規模だ。

アマゾンのような小売店からの出品と、イーベイのような個人からの出品で成り立っているタオバオ。現在の販売アイテム数は10億件以上、と恐ろしい個体数。いったいどんなアイテムが売られているかというと…。
姿勢を正すため背中に縛り付ける十字架や、顔よりデカい巨大トランプ。自分の耳の中を見るカメラ(USB付き)に、シャワーキャップならぬ、耳用キャップ…。


@opensesame_magazine

タオバオあるある1:「誰が買うんやっ!」な奇妙な品揃え。それにくわえ、タオバオあるある2:届いた現物が掲載写真よりショボいことが多い。にも関わらず、タオバオの十八番「ライブ配信販売」や、売り手と買い手がチャットで商談できる仕組み、徹底したパーソナライズ機能(「千人千面」:千人の画面には千通りの画面が表示)」で独自のタオバオ節を鳴らし、“中国版アマゾン”として国民の生活に君臨。タオバオでの出品に成功したショップオーナーを講師として迎え、商品戦略・営業活動・売れる商品写真の撮り方などのノウハウを学べる講座「タオバオ大学」たるものまでサイト内で開講している。

もはや、社会現象でありカルチャーともいえるタオバオのカオスさもろもろを逆手に取り、タオバオカルチャーを毎号100ページ以上のボリュームで紹介するのが、北京発の雑誌『Open Sesame(オープン・セサミ)』。創刊したのは、タオバオを愛用する生粋の中国人…ではなく、奇妙な品揃えに惚れた、北京に住むロシア人デザイナーのサシャとアメリカ人編集者のアーロンの外国人二人組だ。これまで、『The Real Thing(真実)』『All alone(すっかり孤独)』の全2号を出版(売り切れ店続出)した。

7億人、10億品以上の品物のやり取りがここには詰まっている。いろんなものが見えてくるに違いない。斬新奇抜な商品ラインナップや売買シーンから見えてくる、中国のリアルな社会生活を雑誌制作から探ってみよう。国と時差とネット規制を越え、スカイプ繋いで「開けゴマ(Open Sesame)」!


HEAPS(以下、H):晚上好(ワン・シャン・ハオ、中国語で「こんばんは」)!えっと、お二人の自己紹介を。

Sasha Fominskaya(以下、S):私はロシア出身のデザイナー。勤めていたデザイン会社の転勤で北京支店に来た。最初は3ヶ月滞在の予定だったんだけど、気けばもう5年(笑)。

Aaron Fox-Lerner(以下、A):僕はアメリカ出身の編集者。サシャと同じく最初は1年滞在の予定だったけど、気づいたら7年目。おかげで中国語もだいぶ堪能になった。

H:私もニューヨークには1年滞在の予定でしたが、気づけば6年目です。二人とも中国移住組ですが、なんでタオバオにまつわる雑誌を作ろうと?

S:数年前、ロシアに一時帰国してモスクワのデザイン学校に通ってて。卒業制作で作ったのが、『オープン・セサミ』第1号だったんだ。当時、タオバオにどハマりしていたから。

H:どうやってタオバオのことを知ったんですか?

S:初めてタオバオのことを知ったのは高校生のとき。地元が中国とロシアの国境を流れるアムール川のそばだったから、通っていた学校もタオバオで本棚を注文してたりした。で、中国に住みはじめて試しに使ってみたら、まんまと虜になったんだ。でも最初は難しくって、中国人の友人にタオバオでの買い物を手伝ってもらってたっけ。

H:なにがそんなに難しかったんだろう?

S:全部。中国語がわかからなかったから。

A:タオバオのサイトは中国語表記だからね。慣れていないとタチの悪い売り手にだまされたり、不良品を購入しかねない。それに万が一だまされたときには、苦情すら言えない。

H:中国語がわからない人のために「タオバオ購入代行」なる業者もいるくらいですもんね。さて、タオバオ、とにかく価格が安く種類も膨大で、誰でも売れて誰でも買えるカオスな印象です。二人はタオバオのどこに入れこんだんでしょう?

A:アマゾンよりはるかに興奮させてくれるところ。個人間でのやりとりが多くなってくるから、交渉なんかもできるしね。アマゾンが「欲しい商品を選んでレジに持っていくだけの“スーパー”」だとしたら、タオバオは「商品について会話して値下げもできる“バザー”」って感じ。あと、出品者が掲載する商品写真が、ズバ抜けておもしろい。

H:同感っす。これもはやギャグですよね。整理ボックスを紹介するのに、ボックスに入ってしまった男性、顔一面を覆ってしまうデカさのサンバイザー、男性用タイツのイチモツ部分には見本として水筒、商品より自分が目立ってしまっている出品者のおっさんに、つっぱり棒にぶら下がっているお母さん…。プロのデザイナーのサシャには、こういったタオバオ民の写真やグラフィックはどう映る?

S:写真のセンスに文字の配置、書体のチョイスに色の組み合わせ。基本のルールに従う気のない、この素人さ丸出しの斬新なデザインが最高。勇気さえ感じるもん。どうにかして商品をアピールしようとする必死さが、グラフィックからひしひしと伝わってくるよ。


@opensesame_magazine

H:個人的に第1号、第2号ともに表紙デザインが好みです。飾り気ゼロのシンプルな書体に、使用するのは原色のみ。パワポで作ったようなダサ目デザインにビッ◯リマンチョコのシールを彷彿とさせるギンギラのド派手さが、一周まわって逆にいま風。

S:タオバオのサイトでは、文字の下に色を敷いたり、グラデーションを使ったり、フレームをあしらったグラフィックが多いから、雑誌でもそれを意識して。タオバオっぽさを前面に押し出したデザインに仕上げた。
流行りのライフスタイル誌なんかは、計算された余白をうまく使って世界観を演出しているでしょう?だからたまに奇抜な書体や予想外のレイアウトをしても、他ページのデザインが整っているからバランスが保たれる。実はオープン・セサミのデザイン構成を練っていたとき、最初に浮かんだのはライフスタイル誌寄りデザインだった。けど、そんなの全然タオバオっぽくないなって。で、いまのデザインにいたったってわけ。

H:雑誌に載せるヘンテコ商品写真を見つけだすため、ひたすらタオバオを徘徊し時間をかけて地道に探すと聞きました。

S:毎日数時間は没頭して見てる。これといって写真を選ぶ基準はないんだけど「変なのっ」て思えばすぐに保存。スクロール、止められないんだ。その理由はね、次々出てくる「お薦め関連商品」のせい。関連商品に飛びまくるもんだから徐々に脱線して、気づいたら最初に見たのとまったく関係ない商品にたどり着いていた、なんてこともよくある。ちなみに雑誌に掲載されているのは、ほぼ“関連商品”で偶然発見したものばかり。アルゴリズムさまさまだよね…オ�エ�ウ�イ�ア�

(ここで音声が割れだし、電波が途絶え、切れる。かけなおすこと数回)

H:あっ、もしもし、繋がった!

A:ネット規制のせいでアクセスが不自由なんだ。ビデオ通話をやめて声だけで話そう。

H:ネット規制(泣)。では気を取りなおして。タオバオサイトと同じくらいカオスなページをめくっていきましょう。ペラリ。

第1号の『The Real Thing(真実)』では、

・「Expectation v.s. Reality(期待と現実)」:タオバオを通してポケットWiFiをレンタル。iPhoneサイズを予想していたのだが、実際に届いたのはゲームボーイサイズの大きさと重量だった、という体験談。
・WeChat(中国版LINE)でチャット相手をしてくれるレンタル彼氏・彼女を実際にタオバオでレンタル。彼らのリアルな仕事内容をチャットで聞き出した話。
・タオバオ以外ほぼ入手不可能な中国最大のアングラ漫画『スペシャル・コミックス』の編集者への取材記事。



第2号の『All alone(すっかり孤独)』では、

・北京の建築家がたった一人で、タオバオで購入した材料だけでビルを建てるストーリー。
・タオバオで買える、“Alone”のロゴをあしらった「ロンリーファッション集」。
・タオバオで見つけた、孤独を紛らわせてくれる夜のお供「大人のおもちゃコレクション」。
・タオバオで発見した「お悩み相談サービス」。厳選した4社に、まったく同じ質問(「2年以上付き合ってる彼女がいる。関係は安定しているんだが、なぜか孤独を感じてしまう」)をして各社の回答を比較してみた。
・北京服装学院の学生に聞いた「学生寮でプライバシーを守るために使いたいタオバオグッズ特集」。



中国現代社会の闇がちらついている(暗)。「期待と現実」のように、タオバオではこういった失望感を味わうことはあるある? お二人にも同様の経験があったり?

S:あるある! 「あれ、思ったのと違う…」なんて、い~っぱいある。ちなみに雑誌では、公募して集まったみんなの体験談を掲載しているんだ。実際、アーロンなんかシュプリーム(有名ストリートブランド)にハマっていた時期、ロゴのスペルが間違ったバッタもんを発見してさ。おもしろ半分でMサイズを購入したら、キッズ用のMサイズだったらしく、着れなかったというオチ。

A:あと、サシャのためにサングラスを買ったら、届いたのは顔の半分くらいある馬鹿デカいやつだったこともある。こうしたタオバオ失敗を防ぐため、購入前に詳細と写真をじっくり見て、ニセやサクラのコメントかどうかをしっかり見極めること。

H:ふむふむ、心得ておきます。このAloneのロゴファッション、おもしろいですねえ。「I KNOW I AM NOT ALONE(俺は孤独なんかじゃねぇ)」や「FOREVER ALONE(生涯孤独)」。こういう英語をTシャツにデカくプリントしちゃうあたり、独特っすね。

シャネルのロゴをパクったトイレカバーとマットもある…。中国の一定層のハイブランド好きを反映してるし、寝転びながらでもハンズフリーでスマホがいじれちゃう「首かけスマホホルダー」なんか、若者世代のスマホ中毒を物語っていますね。学生寮でプライバシーを守るためのグッズ集というのもピンポイントで、中国学生の生活が垣間見えるような。

S:中国の学生寮では、1部屋に8人が共同生活をしているんだって。彼らは狭い部屋でもなるべく快適に勉強できるよう、ベッド上に置ける作業机や、干してある下着を隠すためのカーテンだったり、いろんな商品を使ってプライバシーを守るために試行錯誤している。


H:1部屋に8人はキツいっす。人口過多の中国社会を表していますね。あと気になったのが、中国最大のアングラ漫画がタオバオ上でしか買えないということ。本屋では買えないんでしょうか?

A:中国では、濡れ場や政治ネタを含む漫画の場合、取り扱ってくれない本屋が多いみたいなんだ。だからそれらの漫画はタオバオ上で販売されているんだけど、最近ではタオバオでの取り締まりも厳しくなってきているから、タオバオ上での販売すら難しい状況らしいんだ。

H:近年、ますます取り締まりが厳しくなっているらしいですね。取り締まりがはじまる数年前までは、ニセ彼氏・彼女をレンタルし買い物につき合ってもらったり、愚痴を聞いてくれるストレス発散相手になってもらったり、親を安心させるために故郷に一緒に帰省してもらうことが普通にできたそうな。

A:当時はタオバオ上の検索エンジンに、直接的なワード(「ニセ 彼女」)ではなく、遠回しな類似ワード(「癒し 彼女」)を入力することで、レンタル彼女も難なく見つけることができた。でもいまは、どれだけ類似ワードを入れてもまったくヒットしない。



H:中国の独身族、もう親を安心させられない…。そうだ、タオバオでアダルトグッズもけっこう売っていることにちょっと驚きでした、中国ってまだまだ性に対して保守的な印象があったので。

さてさて。現在、雑誌は年1ペースで発刊中。

S:そうそう。一冊99元(約1,500円)で販売。第1号は100ページを150冊、第2号は128ページを300冊印刷。少しずつだけど、確実に成長している。いまのところ読者は中国人と外国人が半々なんだ。世界中のタオバオ好きみんなに読んでもらいたいから、第1号は英語のみの表記だったけど、第2号は英語と中国語のバイリンガル表記に。

A:基本的には僕ら二人が中心に制作しているんだけど、毎号インスタグラムでネタを募集して、コンテンツやストーリーを書き上げるんだ。ネタ提供者の多くは、中国ではなく海外に住む人なんだよね。国に関係なくタオバオ好きなら誰でもウェルカム。

H:読者からの反響はどうです?

S:ありがたいことに、熱狂的でポジティブなものが多くて。それにニューヨークの書店でも取り扱ってもらえて。

A:僕の姉がニューヨーク在住だから、そのコネを使ってね。「売り切れたから在庫を送ってほしい」と言われたときは、信じられなかった(笑)。その他の中国の取扱店でもすべてソールドアウト。いまは中国国内での販売のみ。海外発送するには、本体より送料の方が高くついてしまうから。

H:ニューヨークでソールドアウト! でもなんで、中国の人以外にもウケてるんですかね?

S:中国の文化に興味がある人もいるだろうし、たんにタオバオが好きな人もいるだろうし、「ロシア人のデザイナーとアメリカ人の編集者が作った中国カルチャー雑誌」っていうニッチなところが響いたのかもだし。

A:オンラインショッピングならではの変な商品って、言語がわからなくとも、見るだけでたのしめるしね。


H:そういえば雑誌を印刷する際、タオバオで見つけた印刷会社を利用したらしいじゃないですか。スムーズにいきました?

S:タオバオで見つけた会社に注文するということは、タオバオで商品を購入するのと同じこと。どんなクオリティで刷り上がってくるのか、受けとる直前までビクビクしてた(笑)。

A:ディスカウント価格にしてもらうために、しょうがなく印刷会社の名刺広告を雑誌の裏表紙に掲載しなければならなかったんだ。あとは、第1号の付録だったポスターの印刷を忘れられたりと散々だった。おまけに、やっと届いたと思ったらダンボール1箱分すべてミスプリント。一筋縄ではいかず、常にイライラさせられたよ。

S:そして結局、割引額も微々たるものだったという。

H:あちゃ〜、散々だったんですね。中国での雑誌制作を通して、気づいたことや学んだことってありますか?

S:印刷するのがストレスだったってこと。

H:(笑)

A:タオバオを利用することで、めんどうなことやイライラすることは間違いなくある。こうしたネガティブな側面もある一方で、ポジティブな側面ももちろんある。たとえば、最近「タオバオ村」という、タオバオ産業が中心となって栄えている農村が急増中。つまりECサイトが、農民のビジネス参入の道を開いているんだ。

H:タオバオビレッジピープル!これはちょっと、別で詳しく掘っていきますわ。

A:こうやって中国社会に大きな変化をもたらしているタオバオは、変わらず僕らの好奇心を刺激してくれるから、やっぱりスクロールがやめられないんだよね。

H:タオバオは、中国の経済、社会、カルチャーの鏡でありますね。本日はありがとうございました。晚安(ワンアン:中国語で「おやすみなさい」)!

Interview with Sasha Fominskaya and Aaron Fox-Lerner from Open Sesame


All images via Open Sesame
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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