科学者から10代まで。論文から映画まで。研究所からストリートまで〈みんなを巻き込む21世紀の気候変動(1)〉

【特集:It’s hot now!】数字、社会、ブランド、カルチャーを通して見てみる、21世紀の気候変動のこと(1)
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〈気候変動〉は、ここ最近のホットトピックだ。耳にすることは多くても、「説明せよ」には、まごついてしまうのが正直なところ。
「そもそも、気候変動ってなんのこと? 何が起こっているの?」から、「ディカプリオの有名なアカデミー賞の気候変動スピーチ」まで。数字、歴史、社会、文化を通していろんな角度から気候変動を見てみよう(その1)。

地球温暖化、海面上昇? 気候変動の「き」

 広辞苑によると、気候とは「各地における長期にわたる気象(気温・降雨など)の平均状態」のこと。この気候は、いつも変動している。地球の自転軸の傾きが変わったり、太陽活動、海洋の変動、それから火山噴火などの自然的な要因で大気の運動が変わるため、平均状態である気候も、もちろん変化する。

 しかし近年、日常的に私たちの耳に入ってくる“気候変動”には、それ以上の意味や主張が含まれている。各国のアクティビストたちが声をあげ、若者たちがデモをし、政治家たちがこぞって改善を目指すのが、「人為的な要因で引き起こされる気候変動」。温室効果ガスの増加、森林破壊、化石燃料の燃焼など、私たち人間の活動によって起こる気候の変動だ。温室効果ガスが増えて地上の気温が上昇する「地球温暖化」のことを指していると考えてもいいだろう。

 気温が上昇すればなにが起こる? 北極や南極の氷が溶けて海面が上昇する。作物生産に被害が及ぶ。干ばつが起こり、水不足が起きる。反対に、気温が高くなることで強雨が増加し、洪水がおきる場所も出てくる。
 そうなると、たとえば「洪水で住めなくなる」「水や食べ物にアクセスできなくなる土地が出てくる」など、人間の社会的、経済的活動にも影響がでてくる。生と死にかかわる未来の大問題への伏線として気候変動をとらえている人が、国や分野を問わずに増えてきているため、関心が高まり活動が活発になっているのが近年だ。


Image via Ben & Jerry’s Ice Cream

今年4月は、過去140年間で2番目に暑い4月だった。数字でみる気候変動

世界の気温はずっと上昇中(NASA調べ)

 世界の気温は上がる一方だ。アメリカ航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙科学研究所の調べによると、2018年の年平均気温偏差は0.8度。偏差とは、「各年の平均気温−基準値(過去30年の平均値*)」。つまり、18年は基準値を0.8度上回っているということだ。ちなみに、16年の偏差は0.98度と過去最高値。1880年から1939年はマイナス値であったことを考えると、気温は確実に上昇している。


(出典:NASA’s Goddard Institute for Space Studies

*同調べでは1951年から1980年の30年間の平均値が基準値。

 追い討ちをかけるように、アメリカ海洋大気庁(NOAA)が発表するには、「先月4月は、過去140年で2番目に暑い4月でした」。1880年以来、2016年に次ぎ2番目に暑い4月となった。

上がるのは気温だけじゃない。「二酸化炭素の濃さ」「海面」も

 今年4月に測定された大気中の二酸化炭素濃度は、411ppm。産業革命前(1750年ごろ)は、280ppmといわれているので、1.4倍濃度が上昇したこととなる。450ppmに達するまでには、広範囲にわたって極海(北極・南極近くの海)のサンゴや貝殻など石灰化生物の殻が腐食されてしまう、と米国海洋大気庁の某研究員は警告する。

 海面も確実に上昇している。「氷床や氷河が溶けて、海水の量が増える」「水温が高くなることで海水の体積が膨張する」という二つの原因があるが、NASAの衛星からの測定によると、海面水位は1993年に比べて2018年は90ミリメートル上昇した。数日前に発表された米国科学アカデミーの研究書には、2100年までに最大2メートル上昇するだろうと驚愕の数字が躍ったり、それをうけた「沿岸都市であるニューヨークが洪水に」というセンセーショナルな記事も出回って、人々の不安度も上昇させている。

ウミガメの99%がメス? シカゴ「北極より寒い」世界各地の出来事

 痩せこけたホッキョクグマ、左右される子どもの未来。気候変動が原因とされる現象を、世界各地から見てみる。

①北極、氷が溶けてホッキョクグマが栄養失調に

地球温暖化、気候変動のマスコット的なキャラクターになっているのが、「ホッキョクグマ」だ。シロクマと呼ばれることも多く、地球環境に関するデモのプラカードにもたびたび登場する。が、ホッキョクグマ自身はマスコットキャラなんてのはごめんだろう。ホッキョクグマは、オスは体重400キロを超える肉食動物。主食はアザラシだ。北極の海氷の上にいるアザラシを狙う狩りスタイルで、それには海氷が必要となる。が、地球温暖化の影響で、海氷が縮小。つまり、海氷が減れば、海氷上のアザラシたちは見つけづらくなる。ホッキョクグマたちは、じゅうぶんに獲物を得ることができずに栄養失調を起こしてしまうというのだ。ナショナルジオグラフィック誌が制作した「餓死寸前のホッキョクグマ」の動画で衝撃を受けた人も多いだろう。

②北極よりも寒い? トイレもウォッカも凍る。冷えすぎたアメリカ

「シカゴ、北極よりも寒い」という記事が駆けめぐった今年の冬。米都市シカゴを含むアメリカ中西部、数十年ぶりの大寒波が襲った。マイナス20度以下の気温に強風が吹き荒れ、体感温度はマイナス40度。平均気温がマイナス34度の北極よりも寒く感じるという異常事態。寒波の原因は、極渦(きょくう、きょくうず)と呼ばれる北極や南極の上空にできる寒気の渦で、地球温暖化と気候変動により極渦が米国上空まで南下した、といわれている。この記録的な大寒波中には、一般の人々によって、「トイレタンクが凍った」「ウォッカが凍って飲めない」「ラーメンが凍ってすすれない」など、日常から“寒すぎとんでも写真”があげられていた。

③アフリカ諸国で、マラリアの蔓延が危惧

気温上昇やそれに伴う雨量の増減が原因で、アフリカ大陸においてマラリア、デング熱などの感染症が蔓延すると危惧されている。また、干ばつや洪水による農作物への影響、それが原因で栄養失調が増えるとの予想も。近年、ジンバブエや南アフリカ、ザンビアなどにあったバオバブの古木が枯死しているという現象もあり、これも気候変動が原因なのではとの推測だ。

④「雪が足らない!」ヨーロッパのスキー産業に打撃?

気候変動により、アルプス周辺諸国のスキー場では雪が不足しているとの報告が10年以上前にあがっている(経済協力開発機構〔OECD〕、2006年の報告書)。666あるスキー場のうち、10パーセントのスキー場では雪が足りず、人工雪を作らざるをえない状況に。人工雪の製造には、多くの水とエネルギーを消費するため環境への負担も指摘された。

⑤イランで「53.7度」を記録。温度があがる中東

2017年、イランでは53.7度を記録。これは、東半球(アジアや欧州などを含む)の観測史上最高気温と並ぶ。中東では、温暖化による熱波が深刻化するとの予想が。雑誌『ネイチャー・クライメート・チェンジ』に発表された論文によると、気温の上昇と湿度の上昇により、イラン、イラク、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などのペルシャ湾沿岸地域が過酷な環境になっていくとのこと。

この高温化は、すでに問題となっている水不足を加速させてしまう。イラン環境保護庁のマダニー副長官は、国連気候変動会議で「水不足の問題を会合で取り上げる」よう提案した。

⑥中国のスモッグも? 子どもたちの未来も左右する、アジアが抱える問題

気候変動が引き起こす、破壊的な洪水やサイクロン、干ばつ、海面上昇などの自然災害が、「バングラデシュに暮らす子ども1,900万人以上の命と将来を、危機的な状況に追いやっている」。今年4月、ユニセフが新しい報告書にてそう指摘した。貧しい人々が、災害などを原因に地方を去り、都市部へと移住。過酷な労働環境などにさらされる子どもも増え、その将来が危ぶまれるという見方だ。

冬になるとどこからともなく流れてくる、くもった北京の画像。中国の「スモッグ」、これも、気候変動と密接に関わっているようだ。これまで、大気汚染が深刻化する中国では、都市部のスモッグは排ガスなどが原因だとされてきたが、実は気候変動が加担しているのでは、との指摘が。スモッグを作り出す煙霧(えんむ)の発生頻度があがっている可能性があるとの研究が発表された。

日本でも環境省が、気候変動により米が白濁し品質が低下することや、病害虫の発生増加など、農作物の生産や品質にも悪影響があることを指摘している。

⑦自然遺産地帯のウミガメ「99%がメス」? 消えゆくサンゴ礁

オーストラリアの自然遺産、サンゴ礁地帯「グレート・バリア・リーフ」にも気候変動の影が。温暖化の影響で海水温が上昇し、酸性度も上昇、サンゴが白化現象を起こすことで、成長が遅れ死滅してしまうというのだ。英科学誌ネイチャーに掲載された論文によれば、2016年の熱波の影響で、グレートバリアリーフのサンゴの約30パーセントが死んでしまったとのこと。

そして、「ウミガメ」。ウミガメの性は、“卵の状態のときの温度”で決まるのだが、温度が高いとメスが生まれる確率が高くなるそう。ある研究チームによると、比較的水温の低いグレート・バリア・リーフの南部で生まれたウミガメの65パーセントから69パーセントがメスだったことに対し、水温の高い北部では、99パーセントがメスだったことが判明。気候変動により海水が温かくなることで、メスの出生率があがったとの予測だ。

世界に広がった「未来のための金曜日」まで。19世紀からはじまった世界のアクション

「二酸化炭素と地球温暖化」の関係を指摘した19世紀の科学者たちの論文から、「アースデイ(地球の日)」の誕生、そして今日の中高生のストライキ「Fridays For Future(未来のための金曜日。#fridaysforfuture)」まで。気候変動にまつわる出来事を、時系列で追っていこう。

▶︎科学者たち、二酸化炭素と地球温暖化の関連性を発見

1750年代
ヨーロッパで産業革命が起こる。蒸気エンジンや鍛冶場のエネルギー源、電気や熱の供給を目的として石炭の需要が増え、かつてなく石炭が採掘されるようになった。

1889年
スウェーデンの科学者スバンテ・アレニウスが、「二酸化炭素と地球温暖化の関係性」を論文で指摘。大気中の二酸化炭素濃度が2倍になると、気温が5度から6度上昇すると推論した。

1938年
イギリスの蒸気技師ガイ・スチュアート・カレンダーが、「地球気温の上昇と温室効果ガス濃度」を結びつけた。大気中の温室効果ガス濃度が10パーセント上昇すると、地球の気温が0.25度上昇すると示す。

▶︎▶︎〈気候変動に関する国際会議〉が各地で開催

1970年
科学の進歩にともなって地球の大気のしくみについての理解が進み、地球温暖化が深刻な問題として、科学者の間でも注目されるように。
4月22日、ウィスコンシン州選出の合衆国上院議員ゲイロード・ネルソンが環境問題についての討論集会開催を呼びかけると、2000万人にも及ぶ市民が道、公園、講堂に集まりデモを遂行。「アースデイ(地球の日)」が誕生した。

1985年
オーストリアのフィラハで地球温暖化に関する初めての世界会議、開催。

1988年
国連環境計画と世界気象機関が集まって「気候変動政府間パネル」を設置。気候変動が環境、経済社会に与える影響について科学的に話し合い、将来について討論することを目的とした。

1992年
リオデジャネイロで「1992年気候変動に関する国連枠組み条約」の署名が開始(現在加入国は195ヶ国)。先進国に、二酸化炭素や温室効果ガスの排出量を2000年までに引き下げること、開発途上国に対し、気候変動への資金援助や技術を提供することを求めた。

1997年
京都議定書が採択される。先進国の温室効果ガス排出量について、はじめて数値目標が設定された国際条約となった。

▶︎▶︎▶︎映画館やストリートでも“気候変動”が話題に


Photo by Sako Hirano

2006年
アル・ゴアが、地球温暖化に関するドキュメンタリー映画『不都合な真実』に出演。2007年にノーベル平和賞受賞した。

2015年
パリ協定が採択され、「2020年からの温暖化対策の国際ルール」を締結。「産業革命以前と比較して、世界の平均気温の上昇を2度未満に抑えること」などが目標として定められた。トランプ米大統領が離脱を表明したことでも話題に。

パリ協定で目指す目標のために、CO₂の排出量に応じて税金などを支払うカーボンプライシング(炭素の価格化)がすすめられている。企業や一般家庭への“課税”も発生。生活が苦しくなると反発する市民によってデモも勃発している。フランスでは、燃料税の引き上げに対してのデモ(「黄色いベスト運動」)が激化、長期化。

2017年
パリ協定を受け、日本のビジョンと具体的な対策をまとめた「気候変動対策支援イニシアティブ2017」を環境省が発表。
モロッコでは、アフリカの20の国から80名の環境学者が参加し、気候変動メカニズムに関する研究を報告。アフリカ大陸での気候変動に関するワークショップ初開催となった。

2018年〜現在
スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリが、気候変動ストライキを開始。ストックホルムの議事堂前で、気候変動問題への取り組みを要求し、座り込みをスタート。
グレタに感化された学生たちが世界各地でストライキを実行。日本でも2月22日、3月15日に国会議事堂前で初めて気候変動デモがおこなわれ、約20人の学生たちが参加した。

その2へ続く…。

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Eye catch and map illustration by Kana Motojima
Text by HEAPS, editorial assistant: Ayano Mori, Hannah Tamaoki
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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