「声をあげる」だけじゃない。10代の気候変動アクティビズムをメインストリームに押しあげた高校生〈ゼロ・アワー〉の実行力

【特集:It’s hot now!】お祭りだけじゃ、変わらないから——昼休みの電話会議、放課後チャット。舞台裏、高校生たちの日々の地道な活動。
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10代の気候変動アクティビズムをメインストリームに押し上げてきたゼロ・アワー」。高校生を中心としたこの団体は〈#Thisiszerohour〉のハッシュタグとともに、いまや世界約45都市に拡大。
「デモ行進は、いわばフェスティバル。みんなで集まって、気候変動に立ち向かうための連帯感を高めるお祭りです。声を上げるのはもちろん大切ですが、やはり、政治や法律、根本を変えないことには問題は解決されません」。
ネットを通じて賛同者を集めて“お祭り”を作るだけでなく、より持続可能な取り組みをおこなう学生アクティビストたちに話を聞いた。

高校生アクティビストの日常。昼休みもビデオチャットで話し合い

 大人にはよくこう聞かれるという。「(アクティビスト以外に)大人になったら、何になりたいの?」と。
「文明を維持できるかもわからない、荒れ果てた地球を押しつけられた世代の身にもなってほしいです。現リーダーが、地球のために何もしようとしていない中で、私たちに、どんな“将来の夢” が描けるというのでしょう?」

 そう話すのは、17歳の高校生、ジェイミー・マーゴリン。5月の金曜日に、ニューヨークのマンハッタンにある国連本部の前にいた。同日の朝にあったニューヨークでの授賞式に参加するためにワシントン州から来たそうだ。「The Common Good」という非営利団体から、市民やコミュニティに大きな影響をあたえた人に贈られる賞を、ニューヨークのアクティビスト、アレクサンドリアとともに受賞したのだそうだ。



写真2枚目、左がアレクサンドリア、右がジェイミー。

 今年の3月15日は、世界の100ヶ国以上の学生が学校を休み、同時多発的に路上で気候変動運動を起こすまでに拡大している10代の気候変動アクティビズムだが、そのムーブメントを下支えしてきた団体が、2017年の夏にはじまった「ゼロ・アワー(Zero Hour)」だ。ジェイミーは、その共同創始者として知られる活動家である。
 ゼロ・アワーは〈#Thisiszerohour〉とともに、その規模はいまや世界約45都市に拡大。先述の3月15日の10代のデモ「気候のための学生ストライキ〈#fridays4future〉」などの大規模のデモ行進を運営したり、温室効果ガス排出を減らすために政治家へ働きかけるロビー活動、また、政府を訴えたりと、活動の幅は多岐にわたる。いま、もっとも大規模かつアクティブなユース環境団体として、注目を集めている。



大規模デモとなった、5月24日の#fridays4future、NYCにて。

 ジェイミーのもとには、ゼロ・アワーの各都市のリーダーや、メディア、企業、非営利団体など、さまざまな人たちからメールや電話が届く。急ぎの案件は「昼休みや授業の間の休憩時間に、静かな場所を探して、電話やビデオチャットで対応することもあります」。放課後の時間は「メールの返信やミーティング、招待された環境イベントに参加したり」。いうまでもないが「宿題もやらなければなりません」。寝る時間が惜しい、という。 
 
 地球が人が快適に住める場所でなくなりはじめるまで、「あと30年」「50年」とさまざまな説があるが、彼女は国連が18年に発表した「あと12年説(19年現在は、11年説)」に同意する。
 あと11年後の2030年、「私や、世界中にいる無数の同世代の高校生たちは、28か29歳くらいになっているでしょう。人生これからという時期だと思います」。そんな時に、毎日のように、世界のどこかの街が海に沈み、山火事で燃え、綺麗な空気や水にアクセスすることができなくなり、地球が終焉に向かっていく——「そんなの、耐えられません」。
 

インターネットやSNSを通じて、影響をあたえ、支え合う10代の姿

 ジェイミーが、気候変動アクティビズムに興味を持ったきっかけは、米国のノースダコタの石油パイプライン建設に抗議の声をあげたアメリカ先住民族たちの存在だと話す。「2016年の冬にインターネットでその様子を見て、環境問題の深刻さと、市民として声を上げることの大切さを知りました」。

 環境問題の深刻さを知ったジェイミーはまず、地元の環境団体のミーティングに参加することからはじめたという。「当時、私は中学生でしたが、団体には、高校生も数人いました」。“若いのに” とはよく言われるそうだが「社会の問題に興味を持つのに、年齢は関係ないと思います」。確かに、いまの時代はインターネットの使い方さえわかれば、誰でも自分が調べたいことを自分で、瞬時に調べることができる。実際、彼女は地元の環境団体も、のちに一緒に「ゼロ・アワー」を立ち上げることとなった仲間も「ネットを使って自分で見つけました」。
 
「情報収集も、ほとんどグループチャットやソーシャルメディアからです。仲間が読んだ記事やデータ、観たドキュメンタリーなんかをシェアしてくれます」。そう話すのは、「ゼロ・アワー」のニューヨーク支部に所属し、ヘッド・コーディネーターを務めるレイチェル・リー。彼女はニューヨーク州のお隣、ニュージャージー州の公立学校に通う高校生だ。放課後に会う時間をもらい、午後6時に落ち合った。


学校終わりに来てくれたレイチェル。

 
 ネットの情報の真偽をどう見極めているのかと聞くと、「うーん」と少し悩み、「怪しいと思ったものは、グループチャットで他の人の意見を聞いています」と答える。シェアされている情報に対し「私はこの意見には同意だけれど、この意見には懐疑的。なぜなら——」などと、オープンなコミュニケーションがおこなわれているそうだ。

 彼女もまた、中学生の頃に、科学のテレビ番組を通じて環境問題に興味を持ったという。最初は、国際環境NGO「グリーン・ピース」の地元のミーティングに参加した。しかし、「そこには同世代の人があまりいなくて。気軽に意見を交し合える感じじゃなかったんですよね」。そんなとき、高校生を対象としたサマーキャンプを通じて、遠く離れた西海岸の高校生ジェイミーと知り合った。「『ゼロ・アワー』のことを教えてもらって、それで昨年の夏頃からニューヨークのミーティングに参加するようになりました」。 


集まって活動するゼロ・アワー。


 
 学校の同級生は「私のことを、環境のことばかり投稿している、ちょっと変わっている子だと思っているでしょう」と話す。学校の友人たちがSNSに投稿するのは「だいたい、食べ物とか洋服とか」。友人の多くは彼女の活動に関心を示していないという。彼女はそういった友人たちを責めはしないが「どうして無関心でいられるのかなと、たまにフラストレーションを感じることもありますね」と肩をすくめる。「でも、ゼロ・アワーに参加するようになった友人が二人います!」

 少数派であることに、心細さを感じたことはないかと訊ねると「それはない」と答える。「家族、特に父は母国、韓国で学生運動をした経験があるからか、私の活動を応援してくれていますし、ゼロ・アワーの仲間とはいつもグループチャットでつながっています。仲間が毎日のように、次の戦略について考えているのを見ると、自分もがんばらなければと思います」。

 同世代の友人の中には、アクティビズムに興味はあるが、親から「危ないからダメだ」と止められている人もいるという。それを考えると「私は恵まれています」。

 現代の10代は、学校だけが自分の居場所ではないようだ。合わなければ、合う仲間や場所を学校の外に自分で探し出す。そういったことを、ごく自然におこなっている彼女は、やはり少数派なのかもしれないが、テクノロジーが世界各地の少数派の学生アクティビストたちを繋げ、感化しあっているのは確かなようだ。

理想のリーダーがいないなら、私がそれになる

 環境のために個人的に実践していることはあるかと訊ねると「プラスチックゴミを削減するために、マイストローや水筒を持ち歩いたりはしています。ただ、個人よりも、ゴミになるもの、環境に悪いものを悪いとわかって生産し続けている企業の問題の方が大きいと思います」と返す。

 ゼロ・アワーのジェイミーとレイチェルは、こう話す。「3月15日のような大規模のデモ行進は、いわばフェスティバル。みんなで集まって、気候変動に立ち向かうための連帯感を高めるお祭りです。声を上げることはもちろん大切ですが、デモやストライキだけでは現状は変わらない。やはり、政治や法律、根本を変えないことには問題は解決されません」。


@thisiszerohour

  
 化石燃料の使用をやめ、グリーンエネルギー*への移行が早ければ早いほど、将来の被害や危険性を減らせるのは「明白な事実」。
 彼女たちは、石油などの化石燃料に関わる企業からの献金を受け取らないよう、また、温室効果ガス排出を減らす法案を通過させるよう、地域のほかの環境団体と協働して署名を集め、市議会に請願書を提出するなど、行政を根っこから変えようと動いている。 

*温暖化ガスを排出しない環境にやさしいエネルギー。
 
 ニューヨークでユース・アクティビズムをリードする中心人物、アレクサンドリアも以前は、ゼロ・アワーのNY支部に所属していた。いまは卒業して、環境問題に関するユースの教育に特化した非営利団体Earth Uprising」を、科学や教育の専門家たちと協働して立ち上げようとしている。
「気候変動がなぜ起きているかについて、学校ではきちんとした教育がなされていません。子どもに対しても、地球がどのくらい危機に瀕しているかの真実をきちんと伝える必要があると思います」というアレクサンドリアの活動に対し、レイチェルは「とても意義のあること」。「声をあげる、というところから一歩踏み込んで、より具体的な政策にアプローチしていくことが重要です」。

 ジェイミーは「近い将来、議員になっている自分が想像できる」という。米国ではやっと、気候変動対策に本気で取り組もうとするアレクサンドリア・オカシオ=コルテスのような若き議員が現れたが、「ずっと理想のリーダーが不在でした」。自分が理想とするリーダー像というのがあり、彼女はそれになる「覚悟はできている」。


過去5ヶ月、毎週末あらゆる地に赴いて活動しているというジェイミー。

 10代の気候変動アクティビズムをムーブメント化する火付け役であった、同じく高校生の活動家グレタは、人類の命がかかっている気候変動対策に、中途半端な「グレーは存在しない」と米タイム誌に語っていた。が、若者というのは、往往にして、大人に比べると曖昧なグレーの領域が少ないものなのかもしれない。白か黒か、正しいか正しくないか。自分の10代を振り返ってもそうだったと思う。

 綺麗な空気や水、食べ物にアクセスでき、安全に暮らせる地球を守ることが「正しい」であれば、(地球に)悪いおこないは「間違っている」。「地球に悪い」とわかっていながら、「とはいっても、反対派とも上手く(ビジネスを)やらなきゃならないので妥協案で」という判断は「ありえない」のだ。

Interview with Jamie Margolin, Rachel Lee
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Image via
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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