「『インクレス』は、プリンター界における“フィルムカメラからデジタルカメラへの移行”のようなものです」
1950年代から本格的な開発がはじまったといわれているインクジェットプリンターは、書物や文書を一文字一文字書き起こしし、活版印刷とは比べ物にならない速さで複製する現代の優れた発明品だ。3Dプリンターやデスクまで書類を届けてくれるロボットプリンターまで登場するなど、昨今はプリンター発展期ともいえる。オフィス・工場・家庭で誰もが触れる身近なロボットのプリンターだが、彼につきまとう“めんどう”といえば、「インクカートリッジの購入・交換」だろう。カラーで何百枚も刷れば、またか…「カートリッジ交換サイン」。オンラインで一番安いカートリッジを探し、届いたらプリンターをガバッと開けての交換作業が待っている。
そんなプリンターのめんどうをオランダの大学院生チーム「Tocano(トカノ)」が解決してくれるかもしれない。彼らが目下開発中なのが、インクカートリッジとトナーが一切不要のプリンター。その名も直球に「Inkless(インクレス)」だ。赤外線レーザーで紙の表面を焼いて印刷していくため、インクが一滴もいらないプリンターという仕組み。モノクロでの印刷が無制限に可能だ。
と、ここで聞こえてきそうなのが「インクレスプリンターって前にも出てきていたような?」。確かに、“ゼロ・インク”と謳う「Zink(ジンク)」や“インク不要の携帯フォトプリンター”「Wasabi PZ310(ワサビ)」、2年分のインクを保有できる大容量「エコタンク」搭載のエプソンのインクジェットプリンターなどは近年、登場してきた。しかしジンクやわさびには、もともとインクが染み込まれている特殊なフォトペーパーが必要で、エプソンも2年後にはインク交換がやってくる。その中で、「特別な紙を使用しなくてもいいよ。いつものコピー紙で大丈夫だよ。インク、本当にいらないんだよ」と手がかからないインクレスは、すこぶる健康優良児だ。
「『インクレス』は、たとえるなら“フィルムカメラからデジタルカメラへの移行”のようです。デジタルカメラの登場で、みんな無制限に写真を撮ることができるようになり、フィルム交換の必要がなくなりました。同様に、インクレスを使用することでインクの補充・交換が不必要になるのです」。使用済みインクカートリッジ廃棄削減にも貢献しエコフレンドリー、かつ、ユーザーの財布からもインクのイタい出費を抑えられて経済的。カートリッジ交換と格闘する時間や、少しでも安いカートリッジを探す時間も短縮できる。
初期段階では、梱包やラベル、バーコード印刷など産業用プリントに試用、その後、オフィスや家庭用プリンター、レシート用プリンターにも応用していきたいと開発チーム。インクジェットプリンターの開発から半世紀以上たったいま、プリンターがポジティブな事変を起こしている。
★★FOLLOW US★★
HEAPS Magazineの最新情報はTwitterでも毎日更新中。
毎週火曜日は〈スタートアップで世界の動きを見てみる〉最新のプロジェクトやプロダクトを紹介中。
—————
All images via Tocano
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine