本物だけが伝統になる。「新しさで勝負しない」若き反骨の盆栽作家 ・濵本祐介

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頭のてっぺんから足の先まで入った刺青と、親指がすっぽり入るほどのピアス、キャップとパーカーにコンバースのスニーカー。ハードコアバンドの兄ちゃんかとも思える男が、その無骨な手を優しく添えるのは「盆栽」。濵本峰松園・濵本祐介(はまもと)、遡れば平安時代から続く盆栽の世界に身を投じた、庭師・盆栽作家だ。
伝統文化を昇華した「新しい盆栽」。伝統産業に身を投じた若いアーティストと聞いて、そんな言葉が枕詞のように思い浮かんでしまう。しかし濵本には、いってしまえば現代の伝統への常套句は通用しなかった。
「新しさを求めるより、基本がすべて。多くは求めない」。静かに語る濵本が、クリエーションの乱発される現代で突き詰めたいのは、従来の伝統そのものだ。

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“新しい盆栽”への欲求が「一切ない」

 渋谷のビルを器に見立てた盆栽ビル、MoMA DESIGN STOREで開催された「Modern Japan(モダン・ジャパン)」への出品やBEAMS JAPANでの展示、ROOMS 32でのベストアワード受賞、G-SHOCKとのコラボレーション。昔ながらの「縁側」から、盆栽がモダンな空間へと飛び出している。濵本峰松園と並行しての活動、TRADMAN’Sによる上海での創作活動も展示で高い評価を得た。定期的にロサンゼルスに渡り、海の向こうで盆栽を作り続ける。インスタグラムのフォロワーは2.5万人超え。濵本は、自身が設立した濵本峰松園で活動する庭師・盆栽作家でありながら、様々なジャンルと交わり合うことで注目を浴びてきた。
 モダンな空間と交差し、海外で評価される盆栽。その活動と評価、さらに濵本自身の風貌も確かに便乗して、誰もが彼に「伝統のその先」を見てとる。だが、本人から出た言葉は意外だった。

「本物だからこそ伝統になる。だから、正直にいうと、『凝り固まった伝統産業の殻を破りたい』とか『これまでにないような独創的な盆栽を作りたい』、とか、斬新なアイデアや、なにか新しいものを作りたいという欲求が、まったくないんです」

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 もちろん与えられたものに対して、要望にはできるだけ応えてベストは尽くす。

「ですが、基本的には、僕の制作後、その盆栽をどう魅せるかは個人の自由、使う人次第だと思ってます。自分は造る側の人間なので、鉢の中にある世界を造るところまで。そこにある素材の中でいかに納得のいく盆栽を造るか、それしか考えていないんです。自分自身は職人に憧れ、職人になりたい一生未熟者で生涯修業の身。いまは鉢の中の上にできる世界を造るところまでで精一杯」
 仕事は仕事で、いってしまえば依頼があれば可能な限り挑戦はする。「盆栽は、鉢の中で自然の景色を表現するもの」。濵本は、その鉢の中の世界に夢中になり、外のことにはまったく興味がないのだと言い切った。

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植木屋は夏でも長袖=刺青が隠せる

 盆栽家の門を叩いたのは21歳のとき。自身が愛してやまない刺青との生活を両立できると単純に思ったのがきっかけだった。
「それまでアメリカにいたんですけど、その頃から刺青が好きで既に結構入ってて。庭師って外の作業だから、虫とかがすごいんで夏でも長袖着て仕事をするのが普通なんです、それで刺青を隠せるしいいなと思ったんです(笑)。そこから植木屋と盆栽の両方をやってる園の親方のもとで修業をはじめました。信じてもらえないかもしれないんですが、独立までの9年間、親方には刺青バレてないんですよね」。見た目の第一印象とは裏腹に少年のような笑顔をのぞかせた。

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 この日、濵本は取材陣を「ここ(濵本峰松園)まで交通の便が良くないところなんで。ちょっとぎゅうぎゅうで申し訳ないんですけど」と、わざわざ駅までトラックで迎えに来てくれていた。律儀な人だな、と取材前から想像はしていたが、実際に濵本という人はその想像をずいぶんと超える人だった。

 そんな濵本だから、「仕事」として受ける場合でも、綺麗さっぱり割り切っているわけではなかった。自分のテリトリー外としていても、仕事を受ける基準は二つあり、「まずは盆栽が適した環境であるか」「依頼主は盆栽を愛せる人なのか」。

「どんなに有名で富や名誉がある方よりも、僕はいつもお世話になっているお客さんや、本当に盆栽を好きで興味がある人を大切にしたい。その人が偉いか、有名か、どういう人間かというところにはまったく興味がない。大切なのは人としての心。そして盆栽を愛せる人なのか。必要以上の富をそこまで必要としてないというか。嫁にはよく怒られるんですけど(笑)」

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濵本峰松園。

 まずは目の前にあるものを大切にする、というのは、濵本が人生で徹底していることだという。盆栽、それから仕事を選ぶうえでも譲れなかった刺青、そして家族。

「僕は子どもたちのために、家族のために働いている。ずっと家族と一緒に過ごしていたいから。

個人的に『仕事が好きは嘘』だと思うんですよね。師匠も言っていた言葉なんですけど、本当にそう思う。もし働かなくても済む生活が手に入ったとしたら、たとえ好きでも仕事にせず趣味で終わらせるかもしれない。しかし現実、家族のために仕事を受けて働いて、お金を稼いでいかないといけない。

だったら、イヤだイヤだと言いながらやるよりは、少しでもやりがいを感じることをやったほうがいいですよね。自分で楽しみを作り出さない限りは、どんな仕事でも何やったってつまらないと思う。僕はいま盆栽の仕事をやらせてもらってますけど、もしコンビニのバイトでも同じように楽しみをみつけながらやると思う」

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仕事と、刺青と、家族があればそれでいい

 濵本は、いまの自分自身の生活に、ある意味満足しているという。愛する家族がある、好きな刺青も盆栽もすぐ側にある。だから、濵本は多くを望まない。なぜなら、それを続けることがもっとも難しいからだ。

「だから、家族を養って一緒に過ごすこと。刺青を楽しむこと。盆栽を楽しむこと。自分にとってのこだわりはそれまで。それ以上は求めても自分には抱えきれないから」

 新しいことはしない。斬新さで注目を浴び、一躍有名クリエイターになれるこの時世ではそんな価値観も時代錯誤なものになりつつあるかもしれない。
「続けることにこそ意味があり、長い年月とそして時代を超えて生き残ったものこそ伝統になる。代が変わっても引き継がれる伝統的な盆栽を忠実に維持すること。流行り廃りや時代に流されなかったからこそ、色褪せずに伝統として残り続けてる。新しいアイデアで斬新な飾り方をする必要もない。樹に合う鉢に合わせ、鉢に合う卓に飾る。古くからつたわる日本の伝統は世界一かっこいいと思っています」

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 盆栽をもっと世の中に広げたいという発信欲もないし、時代の流れも関係ない。

「だから、盆栽産業の現状とかもよく知らないんですよね…。その中で自分自身がどういう位置にいるかとかもそこまで関心がなくて。単純に自分自身が好きなことを追求してやっているだけで、周りは気にならないというか。流行り廃り、そういった大きな流れに対しての反骨精神は少しあるかも。ある意味それは好きなことをやらせてもらっているということだから、常に謙虚に感謝の気持ちを忘れないこと。そこに命をかけています」。

 時代のセンスとエッセンスを加えた、いわばその時代の特殊なクリエーションに対し、濵本が突き詰めるのは伝統の“普遍性”だ。「違った良さ」で勝負せず、受け継がれてきた伝統を、この時代にいかに忠実に表現するか。それは、かつての伝統が比較対象として永遠についてまわるということで、新しく打ち出すより難しいこともある。

 濵本のセオリーでいけば、これは濵本自身の真価を試されているともいえる。はじめるは易し、続けるは難し。たった一人で、伝統への挑戦をどこまで続けていけるのか。他人が正解を語れない創作の世界、いつの日か、良しか悪しかをわかるのもまた、濵本自身だけだ。

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盆栽作家 ・濵本祐介

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Photos by Masato Kuroda
Text by Takuya Wada
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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