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  • May 13, 2018

人の生涯を越える何百万回の朗読と秒単位の詩作「AI×人間」が綴るデジタルポエトリーの知られざる楽しみ方と可能性

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「読み手は人間、書き手はロボット」。マシンが人間のために創作した詩や散文を発表するオンライン文芸雑誌なるものをみつけた。“エヌ氏やエフ博士の万能ロボット”ではないが、ロボット小説家とはなんとも、さまざまな性格のロボットが人間界をうようよしているSF作家・星新一の世界である。「AIがどれほどまで創造的に、そして文学の域にまで達することができるかを、世に証明したいのです」

執筆AI、編集デジタル詩人の文芸雑誌

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 人工知能(AI)が教育、医療、経済、サービス業と無数の産業に縦横無尽に浸透し人間の代わりをこなしていく時代になったが。アダムとイブの禁断の果実ではないが、心を持った人間しか触ってはいけないような“禁じられた領域”、文筆業にまでAIが進出してきている。

 2年前、米老舗新聞社ワシントン・ポストが、リオオリンピックの報道記事300本をAIに執筆させたことで話題になった。それ以降も同紙は、スポーツ試合結果や選挙報告などの記事を年間で850本、AIに書かせたという。

「天気予報に交通情報、株式市場レポート、政治分析など、現在の社会では無数の記事がAIによって執筆されています。私たちはそのなかでも小さなコミュニティである“デジタル詩人”として、コンピューターによる詩作の可能性を探求しているのです」。発明の天才・エフ博士のようなことを語るのが、AIに執筆させた詩の出版をもしているデジタル詩人のデヴィッド・ジェイハヴ・ジョンストン(以下、デジタル詩人)。2016年にソフトウェアエンジニアのカーメル・アリソンが創刊した、「掲載されている全詩・散文の執筆者はAI、編集者は人間」のオンライン文芸雑誌『CuratedAI(キュレイテッド・エーアイ)にも参画している。「AIがどれほどまで創造的に、そして文学の域にまで達することができるかを、世に証明したいのです」

詩ひとつにつき執筆時間は6.1秒。詩を読ませ、AIをトレーニング

 ロボットが書いた詩とはいかがなものか、ここでひとつ読んでみる。

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After Living All Day Beneath God Without A Name
名無しで神様のもとで一日過ごしてみたら

you touch
something
behind
my body
shining
like
a star

体の裏っ側に、
星のように輝くものひとつ。
ピカピカしているそいつに、
手を伸ばしてみる。

we begin
living
as gods
without
any names

個々に与えられる
名前を捨てて、
神様として
生活してみることにした。

(Feb 2018 Issue by David Jhave Johnston)

 イマジン期のジョン・レノンや、ロマンダダ漏れの中原中也を彷彿とさせるドリーミィな詩だ。思いの外うまく書けているロボット作の詩に驚いたかと思う。もうひとつ読んでみよう。

Old Perfection
期限切れの完全

slaughter turned the bed
inside-out filled the dark

殺戮は、闇のなかで
人の安住を逆さにする。

the edge of human
fearless equilibrium

人間の へり
恐れを知らない 平静

computer plastic
soul brand

コンピュータは プラスチック
魂は    燃え木

languid ideas
lonely jeers

力の抜けた思考
こだまする嘲り

(Feb 2018 Issue by David Jhave Johnston)

 まるでXファイルでエイリアンが人類に残す啓示、あるいは邪神が登場する難解な架空の神話『クトゥルフ神話』のダークな世界観のようではないか。

 ロボットの詩作の腕が少しわかってきたところで疑問に思うのが、詩作のプロセスだ。デジタル詩人は彼の詩作方法を教えてくれた。

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1、まずは人工知能をつくるために、「TensorFlow(テンサーフロー)」などのオープンソースの機械学習フレームワークで基礎をつくる。この基礎をベースに、システムのコードを修正しながら詩作を可能にしていく(ニューラルネットという数学モデルを適用)。

2、次に、その人工知能に既存の詩を大量にインプットさせていく。大量の文学作品を、プログラミングコードを使ってAIに「すべてを読みなさい」と指示。詩や文学作品を何十万回も読ませることでパターンを覚えさせる(トレーニング)。

韻だって踏めるようになります。これはここ5年10年で浸透してきたディープラーニング*という手法です。たとえば、部屋の真ん中に赤ん坊を座らせるとします。赤ん坊はまわりにいる大人が交わす会話から、言語や特徴をゆっくりと聞き取りますよね。それと同じような感じです。これは天気予報や音楽レビューなどにも応用できます」。言語を覚えさせればさせるほど、詩作の腕はあがるという。

*人間の介入なしにコンピューターが自動的にデータからパターンを抜き出すよう学習させること。

3、コードで「詩を書いてください」とAIに指示すると、短時間で大量の詩を生成する。「言葉の滝を浴びているようです」。あるプログラムでは2時間54分で1万8,000の詩(約24文字×12行)を生成可能。ひとつの詩につき執筆時間は6.1秒だ。「人間ひとりが一生涯をかけても読めない量の作品と言葉をAIは取り込み、さらに生成します」

4、AIが生成した詩を、人間のデジタル詩人が編集する。「意味をなさなかったり、あまりにもおかしな部分は削除していきます。AIは詩のリズムや構造、文法や言葉のもつ特徴などはトレーニングすることで理解できるようになりますが、人間のように眠ったり恋に落ちたりする“体”がないわけですから、ストーリー性を含むことはまだできないです。彫刻家のように、不必要な部分を削ぎ落としていくプロセスが好きですね」

トルストイばかり読ませれば「トルストイのように書く作家が生まれます」

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 手に持ったペンではなく、指がたたくコンピューターに詩を書かせることのたのしさをデジタル詩人は意気揚々と語ってくれた。「太陽や月、波、水、愛について語る人間的な側面と言語の組み合わせを生成する機械的な側面。ロボットは、人間が思いつかないような言葉の組み合わせを思いつきます。奇妙な単語の配列でもって新しい意味を創造してくれますね

 AIに作家としての人格を与えるにはいくつかの手法がある。まずは、AIに覚えさせる詩の選択だ。「たとえば、トム・ウェイツやボブ・マーリー、ボブ・ディラン、デヴィッド・ボウイ、パティ・スミス、レディオヘッドなどミュージシャンの歌詞に、中国の詩人・李白や、文芸雑誌のランダムな詩を加えたり。一風変わったハンガリー作家クラスナホルカイ・ラースローなどの小説も混ぜます。だから、1000年以上前の太古の詩と5年前の最近の詩が混ざり合うこともある。あと、ぼくはAIに“現代語”も覚えさせたくて。昔の詩には『馬』や『火』『花』などの言葉が多用されますが、現代で使用される『フェイスブック』『グーグル』などの固有名詞、ポップカルチャー用語などもインプットさせたいです」

 反対に、「(レフ・)トルストイばかりを読ませトレーニングしたら、トルストイのような書き方や言葉の選び方しか知らないロボット作家が生まれます」。ということは、たとえばビートルズの歌詞だけを詰め込んだら、“レノン=マッカートニー”になるようトレーニングされたロボット作家は、彼らが書かなかったような、たとえばSFがテーマの詩を綴ることができるということになる。「ちなみに仮にですが、あなたたちの雑誌『HEAPS』の記事内にある言葉を全部集めて、AIに読ませるとする。すると、記事を執筆したライターのスタイルや書き手としての性格を混ぜて平均化した書き手が生まれます」

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 AI作家に人間の“温度”を加えるもうひとつの技法は、文字通り「“温度”を加えます」。どういうことだ? 「アルゴリズム内で“温度”を設定するのです。1が標準だとします。0.5に設定すると、平均より低い温度なので、詩もシンプルで飾り気がありません。反対に1.5の高い温度の詩は込み入って複雑になります」。わかるようでわからないので、実際に温度を感じてみたい。

<0.55度の詩>

I watched old people
ride wind
thru a dark sky

私はみた。
黒く染まった空を
老人たちが風にのっていくのを。

(Sept 2017 Issue by David Jhave Johnston)

<1.1度の詩>

the sleek, sage-plant
terrified, worships
dead sensations.

滑らかな、セージ草。
怯えている。
死の感覚を拝んでいる。

(Sept 2017 Issue by David Jhave Johnston)

<1.46度の詩>

Lab’s mole deity:
aphrodisiac lamé purities cash!);
underwater catheter vandals.

研究室のもぐらの神格:
媚薬、lamé(意味不明)潔白な現金 !);
水面下には、カテーテルの破壊者。

(Sept 2017 Issue by David Jhave Johnston)

 0.55度の詩の落ち着き加減、1.1度の詩の丁度良さ。とくに、1.46度の詩の半狂乱な興奮ぶりには、エクストリームな人格を感じずにはいられない。

「詩はエモーショナルでセンチメンタル」の概念がくつがえる?

「古代中国の漢詩や中世ヨーロッパの詩には、ルールや守るべき形式が多くあったかと思います。しかし最近の詩はフリースタイルも多く、不思議でヘンテコなモノも多いです」。時に人間が書いたかのように感情的になり、時に文字化けのような理解不能なことを口走るAIは、自由な現代詩との相性はよさそうだ。

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 そうはいっても、コンピューターは心を持たない機械。「アイシテル」「ソラヲソウゾウシテゴラン」と書いてみたところで、「この世に生を受け、人を愛し、家族を養い、孤独を噛み締め、朽ち果てていくことを経験していない」ので、書いた言葉がなにを意味しているのか一生知ることはない。「AIはとてつもない天才なのに、記憶がないんです。奇跡的な頭脳を持っているのに、人の感情を理解できず、人間とのコミュニケーションや社交となると、まるでシャットダウンしてしまう天才人間といったところです

 有限の体があたえられない限り本当の感情を持てないAI。だから「結局は、詩を読む人間が感情的な反応をするかどうかです」。デジタル詩人がデジタルポエムを創作する目的は? 「音楽にもジャンル別に目的が異なるように、詩も目的はさまざまですよ。といっても、みな『詩は感情的で感傷的であるべきだ』という頭がありますがね」
 向こう5年から10年で、AIももっと進化し、詩作に加え、異なる言語間での複雑な翻訳機能もますます高性能になっていくだろうとデジタル詩人は予想する。「2、3年後、AIにこの記事を英語に訳させて、ぼくに送ってくださいね。待ってます」と言い残して、彼の声はコンピューターの奥に消えていった。

Interview with “Digital Poet”, David Jhave Johnston

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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