「お直し」専門のアパレルブランド「The Renewal Workshop(ザ・リニューアル・ワークショップ)」。同ブランドは、新しい服は作らない。販売しているのは、彼らが「レスキューした服」のみ。訳ありの服たちを「洗浄して、リフォームして、世に戻している」。そんな新しいアパレルのあり方について尋ねた。
服をゴミにはしたくない
「米国では、年間約1400万トンもの衣類がゴミ処理場行き、となっています」。
1400万トンとは、東京タワーの重量(約4千トン)の約3500倍。安価な服が大量に作られ、消費されれるようになったいま、「これだけ大量の衣類ゴミが出ているのです。このサイクルを止めるにはどうすればいいか」。
こういったアパレル業界が抱える問題に立ち向かうため、「The Renewal Workshop(ザ・リニューアル・ワークス、以下、TRW)」は2016年に創設された。
オレゴン州にある自社倉庫には、提携しているブランドからたくさんのダンボール箱が届く。中に入っているのは、ほつれや汚れ、穴があいたもの、ボタンやジッパーなどの部品が製造過程や使用過程で損傷したもの、リターンされたもの、または、ただ売れ残ったものなど「再販できない不良品」だ。
TRWの仕事は、箱を開けて「修理できるもの」と「できないもの」をわける作業からスタートする。「修理できるもの」は、水を使わないハイテクウォッシャーで衣類の除菌・消臭を行い、経験豊富な裁縫師が一点ずつ直す。修理が終わったものは、オンライン販売用に写真を撮り、買い手がついたら配送。この作業すべて、この倉庫内で行っている。
また、「修理できないもの」も決してゴミにはしない。たとえば「どうしてもシミが取れないシャツなどは、寸断して新しい糸を作る材料にする」など、引き取った衣類はすべてリフォーム、もしくはリサイクルしているという。
衣類のリサイクルが進まない理由
共同オーナーのひとりニコールは、アウトドア・アパレル業界で12年間のキャリアの持つ。彼女は「アウトドア・ブランドの多くは、環境や人権に対して高い意識を持っており、サステイナブルなビジネスをしようと試みているのを見てきた」という。
ただ、「どんなにこだわって作ったクオリティの高い商品も、ほつれや汚れなど一度ダメージを受けてしまうと不良品扱いになってしまいます」。市場に出せなくなった不良品は「ほとんどが再活用されず、ゴミになります」
繊維製品は、複合素材であることからリサイクルしにくく、可能な場合でもコストが高い。たとえば、ダメージ衣類を保管するための倉庫代、仕分けやクリーニング費用と、直す前の初期段階だけでも相当なコストがかかる。「リサイクルするより廃棄コストの方が安い」。それゆえに衣服のリサイクルが進まないという問題があった。
H&Mのような、世界に4000店舗以上も持つ大きなアパレル会社であれば「古着回収リサイクルサービス」を行うことも可能だが、「中小アパレルブランドにとって、自社で衣類のリサイクルをするというのはなかなか難しい」というのが現状なのだそう。そういったジレンマを見てきたからこそ、このリフォームビジネスをはじめたのだという。
TRWが提携するブランドは「マウンテンカーキス(MOUNTAIN KHAKIS)」「プラナ(prAna)」など、エコブランドとして認識されているものばかり。それらの製品は「消耗品ではなく、もともと長期耐久品として作られたクオリティの高いもの」だという。
本当に「リフォーム品より新品がよい」?
ところで、TRWでリフォームされた服の価格は、いくらぐらいなのだろうか。「元の小売価格の25〜40パーセントオフの価格で販売している」とのことだが、TRWのウェブサイトを見てみると、たとえば、ブランド「プラナ」のメンズ用パーカーの価格はだいたい69ドル(プラナ小売価格、約79-89ドル)、女性用のパーカーは71ドル(プラナ小売価格、100ドル前後)という値段設定になっている。
ちなみに、ユニクロのパーカー類の価格は、ほぼ40ドル弱(約4400円)だ。そういう価格設定に慣れてしまっているからだろうか、いち消費者として率直な気持ちを述べると、私はTRWの価格に「けっこう高いな」と感じた。
ニコールは「リフォーム商品を売るのは簡単ではない」という。
大きな理由の一つは、「うちの倉庫に届いたものを直している以上、商品の色やサイズをコントロールすることはできないから」だ。ただ、リフォームされた商品は、どれも「一点もの」で「一切の資源を無駄にしていない」と強調する。
イチから新しい服を作るということは、コットンの消費、染色や加工などに大量の水を浪費することが含まれる。TRWの商品にはそれらの一切の犠牲がない。そして、TRWをサポートすることは、ゴミを減らすことにもつながる。つまり、エシカルの観点から考えれば「リフォーム品は新品よりも価値がある」のだ。「オレゴン州にはポートランドのようなエシカル意識の高い人たちが多い街もあり、TRWはそういった地元の人たちにサポートされています」。
安さをとるか、エシカルをとるか。消費者が「安さ」を求めた結果、大量生産、大量消費、そしてゴミを増やしてしまうという問題を併発してきことを知ってしまった以上、知らなかったふりをするのは、もはや、罪なのかもしれない。
The Renewal Workshop
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Photos via The Renewal Workshop
Text by Chiyo Yamauchi
Edited by HEAPS