ドラッグはいらない、現代“ネオヒッピー”。60年代からヒッピーを撮り続けた大御所写真家が語る、新旧ヒッピー論

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ピースサインにサイケデリックカラー。マリファナを燻らせ、退廃的なライフスタイルに身をまかせる ー 「ヒッピー」に抱くイメージはこんなところだろうか。

1960年、70年代にいたヒッピーたち、時代は変わってこの21世紀にも存在する。彼らの名はネオヒッピー。

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©Steve Schapiro

 彼らの姿を3年間撮りため昨年、写真集『Bliss: Transformational Festivals & the Neo Hippie』を発表したのは、Steve Schapiro(スティーブ・シャピロ)。60年代にヒッピーの聖地サンフランシスコのHaight Ashbely(ヘイトアシュベリー)でフラワーチルドレンを撮った米大御所写真家である。

 そんな“元祖ヒッピー”と“現代ヒッピー”、両者をカメラに収めてきた稀有な写真家に聞くー「ネオヒッピーとは一体何者なのか?」

Electric Forest, Michigan.
©Steve Schapiro

大御所写真家、息子に連れられ新世界発見

「そこではみな、喜びに満ち溢れていた。楽しみを分かち合うことに 全力を傾けていたんだ」

 世界中を旅する“とてもスピリチュアルな”ネオヒッピーの息子を持つスティーブ。彼に連れられ写真家は、ネオヒッピーの姿をカメラで捉えようと、2012年から14年までの3年間、現代版ヒッピーたちが集うアメリカ各地のフェスティバルを巡礼した。

Mystic Garden, Oregon.
©Steve Schapiro

 80歳にさしかかっていた彼が目にしたのは、喜びを踊りで表現しようと一心不乱にダンスするヒッピー。自分で育てた食物を他の人に分け合うヒッピー、ヨガで瞑想に耽るヒッピー。写真集のタイトルにもある「Bliss(至福)」をただただ追求する彼ら。
 彼が60年代に見た、ロックンロールとドラッグに溺れる退廃的なヒッピーたちとは少し違っていた。

コミューン化するフェスティバル

 ネオヒッピーたちがひと夏を過ごすのは、俗にtransformational festival (トランスフォメーショナル・フェスティバル)と呼ばれるフェスティバル。

 一般の音楽フェスやアートフェスとは異なり、人生や自己成長、健康的な生活、クリエイティブな自己表現をすることに価値を見出し、フェスティバルで形成したコミュニティでそれらを高め合っていくというスピリチュアルなもの。

Hawaii.
©Steve Schapiro

 晩夏の砂漠に作られた街で7日間開催されるネバダ州の大規模なお祭りBurning Man(バーニングマン)をはじめ、オレゴン州のMystic Garden(ミスティック・ガーデン)やBeloved Festival(ビーラブド・フェスティバル)、ミシガン州のElectric Forest Festival(エレクトリック・フォレスト・フェスティバル)、カリフォルニア州のMt. Shasta Festival(マウント・シャスタ・フェスティバル)、ミネソタ州のShangri-La(シャングリラ)、全米各地で開催されるRainbow Gathering(レインボーギャザリング)などが彼らの集いの場だ。

 フラワーチルドレンがアメリカ各地につくったヒッピー共同体「コミューン」の現代版のようなフェスティバルに、ネオヒッピーたちは生息している。

ネオヒッピー、ドラッグ抜きの健康派だった

「60年代の元祖ヒッピーたちといったらドラッグが全て。でもネオヒッピーたちはドラッグにはさほど興味がないんだ。違う方法で“ハイ”になることを知っているからね」
 そう彼らはナチュラルハイになる方法を知っている。それはスティーブがその目で見た“ecstatic(恍惚とした)”なダンスのことだ。

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©Steve Schapiro

 ダンスといっても体の動くままに踊るフリースタイル。彼らはフェスティバルに出演する、ネオヒッピーに人気のNahko and Medicine for the People(ナコ・アンド・メディシン・フォー・ザ・ピープル)といったワールドミュージックバンドをはじめ、アコースティックギターを鳴らすフォークシンガーなどいずれもスピリチュアルな境地に連れて行ってくれるようなミュージシャンたちの音楽に身を任せて「ダンス」する。

 かつてのヒッピーたちが「ドラッグ」とGrateful Dead(グレイトフル・デッド)やJefferson Airplane(ジェファソン・エアプレイン)、The Doors(ザ・ドアーズ)、Janis Joplin(ジャニス・ジョプリン)にJimi Hendrix(ジミ・ヘンドリックス)などのロック文化にどっぷり浸かり“ハイ”になっていたのとは違う、新しいスタイルである。

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©Steve Schapiro

 また彼らが健康的な理由、それはオーガニックフードや生野菜などのローフード(raw food。加工されていない生の食材を用いた食品で酵素を多く含み健康によいとされる)が常食だから。
 なお、大半のフェスではアルコールの販売・持ち込みが禁止。健康を冒しかねないアルコール・ドラッグには見向きしない、あくまでも健康的なライフスタイルだ。

宗派、フェスティバルタリアン。

「他の人を祝福」し「恍惚ダンス」で「自己表現」する。これがネオヒッピーのしていることだとスティーブ。

 円座し、みんなで祈りを捧げているようにも見える彼ら。特別な宗教などに属しているのだろうか?

「フェスティバルで出会ったあるネオヒッピーがこう言っていたんだ。『ぼくはカトリック教徒でもないし、バプテスト派でもない。“フェスティバルタリアン(Festivaltalian)”なんだ』とね」
 なるほど、彼らには特別な信教があるわけではないらしい。

Hawaii.
©Steve Schapiro

 また“60年代フラワーチルドレンたちといったら”な、ピースマーク(平和運動や反戦運動のシンボル)やサイケデリックカラーなどのシンボルはネオヒッピーカルチャーでは見受けられないという。
 そしてベトナム反戦運動や公民権運動を中心とする反体制運動を通して政治への主張をはっきりと掲げていた元祖ヒッピーとは異なり、ネオヒッピーたちが政治的な話題を持ち込むことはないのだそうだ。

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©Steve Schapiro

 物質主義とは身を引き、金銭的な豊かさを求めずにシンプルな生活のなかで自分と他人の“至福”を得ることに価値を見出す。その至福を恍惚のダンスで、その瞬間を他のメンバーと分かち合うこと。
 フェスティバルに生まれる共同体での体験や時間を一種の“宗教”とする彼らには、シンボルも宗派もいらないのだ。

現役ヒッピーも健在

 毎年フェスティバルに舞い戻ってくるヒッピーたち、いつもはどんな人たちなんだろう。

「職についている人もいれば、無職の人もいる。都市で暮らす人もいれば、エコビレッジ(持続可能を目指した町やコミュニティ)で自給自足の生活を送る人もいる。いろんな人がいるんだ」とスティーブ。
 ネオヒッピーの親に連れられた小さな子供もいれば、60年代フラワーチルドレンだった高齢の現役ヒッピーたちも。年齢も人種もばらばらなヒッピーたちは互いを受け入れ受け入れられ、至福のときを同じ人生の価値観を持つコミュニティで共有するのだ。

Shangri-La, Minnesota.
©Steve Schapiro

「ヒッピーになることがひとつのライフチョイスである、ということは今も昔も変わらない。決まりきった時間に沿って生活するような生き方から脱却し、自然に沿った生き方を純に追いかけるのだと思う」

 ドラッグがなくても、かつてのロックバンドがいなくてもいい。退廃美がなくても、政治的なアンチテーゼがなくとも、かつてのフラワーチルドレンが刹那に掴もうとしていた「生きることへの喜びや実感」をいま精一杯感じようとしているのがネオヒッピーたちなのだ。

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Text by Risa Akita

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