70年代黄金期ぶり。帰ってきた〈ロードトリップブーム〉オールドスクールな車の旅がなぜいま米国で再び?

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ひと昔前まで「マイカーでドライブ」は、若者の夢であった。アメリカ大陸を縦断するロードトリップは誰もが一度は夢見るロマンで、デヴィッド・ボウイもザ・ドアーズも愛読したビート作家ジャック・ケルアックの小説『路上』は、車やヒッチハイクの放浪の旅に憧れる若者のバイブルだった(さらにロードムービー『パリ、テキサス』、個人的にはおじいちゃんちんたらトラクターひとり旅の『ストレイト・ストーリー』をよりお薦めする)。
いつからか「若者=車離れ」が定説となりつつある現代だが、ここ最近、ロードトリップへと出発する若者たちが舞い戻ってきたと耳にした。アメリカを旅する若者の半数が、車でやってくるらしい。

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Photo by Benjamin Zanatta

今年、米旅行者の半数以上が「ロードトリップ」

 近年、若者の関心はもっぱらアウトドアだ。飯にもギアにもこだわるキャンプブームに、ラップトップと最低限のものだけを詰め込みバンで旅に出るバンライフ。そこにきて、アメリカではいまロードトリップがアクセル全開でヒットザロード真っ最中である。

 ロードトリップとは長距離運転の車の旅のことで、トラベルマーケティング会社MMGYグローバルの調査によれば、2017年度の米国の旅人口のおよそ39パーセントが車での旅であった。2016年の22パーセントに比べると、17パーセント増と確実にロードトリップ人口は増えている。またアメリカ自動車協会が、今年旅行予定のある8,800万人(うち44パーセントがミレニアルズ世代)を対象に行ったアンケートでは、64パーセントがロードトリップを計画していると回答。さらに、インスタグラムで「#roadtrip」と検索すれば、3,812万の投稿がヒットし、キャンプやバンライフさながら、ロードトリップを謳歌する若者たちの姿がこれでもかと写る。

「多くのミレニアルズ世代が、ロードトリップの価値を再発見しはじめています」。そう話すのは、ロードトリップの達人で、ロードトリップ関連書籍も出版しているリチャード・ラタイ。「特に、メモリアルデー(5月の最終月曜日で、アメリカではこの日が夏のはじまりとされる)以降のロードトリップは増加する一方です」

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Photo by rawpixel

70年代のロードトリップ黄金期以来のリバイバル

 ロードトリップについて、まずは1920年代に流行した「オートキャンピング」がある。ロードトリップとキャンプを掛け合わせたものだ。「宿泊施設不足が理由でした。道中にモーテルもほとんどなく、数少ないホテルは都会に集中していましたから、道路沿いに泊まれる場所がない。みな、テント泊や車中泊でした」。戦後、1950年代後期からアメリカでは高速道路の建設がはじまり、ロードトリップは1960年代から70年代にかけて黄金期を迎える。達人自身も黄金期の70年代の幼少期は、家族と一緒にロードトリップをした覚えがあるという。「一方で、1970年代から安価な航空券が出回りはじめ空の旅も増え、結果、1980年代後半から1990年には飛行機の旅が主流になり、ロードトリップ黄金期は終焉することになったのです

 そこにきて、2010年代のロードトリップリバイバルだ。要因は「車の旅の方が、飛行機の旅に比べて経済的だからです」。達人がいうには、「航空券が依然高い」。往復チケットは大体4万円弱(平均)、飛行機の旅が主流になりだした20年前に比べて、安くなるどころか120パーセント増しで高くなっている*。

*1995年度の288ドル(約3万1,924円)に比べ、2017年度第四半期の平均国内航空券価格(往復)は347ドル(約3万8,000円)、アメリカ交通統計局調べ。原因は航空燃料費や空港使用料の高騰。

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Photo by Jannes Glas

「それから最近では、飛行機の遅延やキャンセルも多いですね。機内では小さな席に詰めこまれ、(国内線では)機内食もついてこないことが多いので、追加すれば別途お金がかかる。アメニティも昔ほど豊富ではありませんし」。ひとり旅であれば、航空券の約4万円も有料の機内食1,000円もさほど痛い出費ではないかもしれない。しかし、これがたとえば家族5人旅なら20万円以上の出費だ。空港への移動や目的地への移動にカーサービスやレンタカーを使用するとなれば、出費はどんどん上乗せされていく。
「そしてなにより、飛行機の旅では面倒なことも多いですね。空港には、フライトの数時間前には到着していなければならないし、その後には行列のセキュリティチェックが待っている。車で空港に来たとしたら、駐車料金だってかかります。それに比べてロードトリップなら、出発時間も自由だし、道中に行ってみたいスポットやご飯処があればいつでも寄ることができる。旅人が自身の旅の主導権を握ることができるのが、ロードトリップの一番のメリットです

マイカーなくても、レンタルでOK

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Photo by ROBERT ALEXANDER WILSON

 若い世代のあいだでロードトリップ人気ということだが、車離れといわれている彼らはどこで車を調達してくるのだろう。「マイカーを持っていない若者たちは、レンタカーです。それに、もし自分の車を持っていたとしても、何百、何千マイルの道のりで車も消耗するので、自分の車ではなくレンタルするという人もいます」。さらに達人曰く、ロードトリップに一週間はかけるひと世代前に比べ、ミレニアルズ世代は「週末旅や3、4日間の比較的短い旅を好むという傾向があります」。

 某米大手レンタカー会社で、5人乗りのステーションワゴンを5日間借りるとすると、およそ約4万円だ。ここにレンタカー保険を追加すると、ざっと約6万5,000円くらい。これを5人で割れば、一人当たり約1万3,000円か。航空券だけで4万円弱かかるのに比べれば、格段に安い。

車中でも各々が暇つぶし

 現代のロードトリップの特徴として、達人が挙げたのが「テクノロジーが変えたロードトリップの安全性」だ。「テクノロジーが発達した現代のロードトリップは、以前よりずっと安全になりました。その昔、車には緊急用の無線を積んでいてそれでも助けが来ない場合はヒッチハイクをしたり、何マイルも歩いて助けを求めたり。いまはスマホがあるから、緊急時には助けもすぐに呼べますし、搭載されている正確な地図やGPSシステムのおかげで、その先の道路情報なども把握できますね

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Photo by Collin Hardy

 さらに「車中の過ごし方の概念」も変わったという。「昔のロードトリップでは、車中にカーステレオが1つしかないため、聴く音楽もラジオも1つ。嫌でも1つのエンターテーメントをみんなで共有しなければなりませんでした。でも現代のロードトリップでは、各々のスマホやiPadという“はけ口”がある。みんなでエンタメを共有したいときは共有し、各々の時間を過ごしたいときは自分の観たい&聴きたいものを自分のデジタルデバイスで楽しむと、オプションが増えました」。運転に集中しなければならない運転手は悲しいが、ロードトリップなるもの、乗客は最初から最後まで車窓をたのしむことは難しい。旅といういささかストレスフルな環境でエナジー補給をするためにも、自分の時間をスマホに求める自由さは、現代ロードトリップの醍醐味だといえるのかもしれない。

日本でも車でもロードトリップは流行るか?

 さてロードトリップの聖地・アメリカのことを話してきたが、ヨーロッパや日本ではどうだろう。「ヨーロッパでは、昔から根付くロードトリップ文化があります。それにEUになってからは、国と国の行き来も容易になり、ますます車の旅が人気になった気がしますね」。また最近では、日本人の若い女性観光客のあいだでアメリカでのロードトリップに挑戦するのもトレンドらしい。オートバイで日本列島縦断などとはよく聞くが、車で「目的地をもたず、さすらいロードトリップ」が流行るか見ものだ。

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Photo by Terry Jaskiw

 アンテロープキャニオンの渓谷やグランドキャニオンの夕日、砂漠に突如現れる人工のカラフルな山サルベーションマウンテンにルート66で寄ったアメリカンレトロなダイナー…など、若者が集うソーシャルメディアには、“#roadtrip”でも“#ロードトリップ”でも「旅より写真がメインじゃないか?」と思わず感じてしまうほど、非常に写りのかっこいい写真が整列している。写真より目に焼きつけろ! という答えを期待して、達人に聞いてみた。「最近の若者が旅でも写真ばかりなことについてどう思うか? 旅に同行していない家族や友人にも旅の一部をシェアできるすばらしいツールじゃないですか。私も撮りますよ。大賛成です」

Interview with Richard Ratay

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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