止まった30年を進める、SNS上の〈中東のストリート〉紛争と黄金に覆われた僕らのありふれた日常

フィルムカメラが流行っている。手のひらにおさまるサイズで、シャッターを切るまでが早いものが人気だ。スニーカーも自転車もサッカーも関心事。
「中東と聞いて最初に思うのは、危ない、とか、紛争のイメージでしょ? 流行っているものは先進国と同じ、そんな中東もあるのに」。着るものもすることも、外からの中東のイメージはもう30年も止まったままだ、とこぼす。中東のストリートを撮るシェブ・モハ(Cheb Moha)だ。

衣 copy
©︎Cheb Moha

分断された地域のひとかたまりのイメージ

 中東という二文字に押し込めるには窮屈すぎる。西のエジプトから東のイランまで十数ヶ国がまたがる中東*。今日ほどの不定は後にも先にもないといわれるほどに流動的で、いろいろなことが起きすぎている。中東のことはよく知らなくても「IS」「シリア」「空爆」などのワードは、テレビで何度も聞いている。なにか危険で非人道的なことが起きている—それがお茶の間に覗く中東だ。

*欧米諸国と日本では中東という地域の捉え方が異なる場合もある。また、中東諸国の政治・外交・経済における諸外国との関わり方により中東と見なされる範囲は流動的にもなる。

 遡れば第一次世界大戦から、諸外国の軍事介入が続き、オバマからトランプに政権交代した際には中東における対外政策はひっくり返った。終わらない内戦・紛争に、各所からは連日ニュースが降り続ける。目を背けたくなるような光景—それが中東であるのは間違いないが、「人に見られていない中東がある。見られていないから、存在していない中東がある」。モハがフィルムカメラでおさめる、どこか見たことのあるような若者が並ぶ光景もまた、確かに中東だ。ニュースでは届けられない、普通の日々が存在する側面が並ぶ。

on the block #dubai #35mm

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 イラクで生まれ、リビアで生活した後にカナダへ。22歳で中東に戻って以降は、家族のいるカナダへ一度も帰っていない。「一個人である僕と、僕のまわりの友人が見ている中東を写す。これが僕らの中東だ。そのへんのストリートで、ファッションもミュージックもそこにあるものを撮る。いいと思ったものを撮るだけ」というモハの写真は、思わず身に力が入る中東とは異なる。

「これは人に見られていない方の中東。みんなが知っている紛争地帯というも中東もある。あとは、アラブ人と言えばきらびやかな大金持ち。伝統衣装。ひとくくりにはいえない中東だけど、これだっていま、紛れもなく現実に存在している中東だ」。音楽はヒップホップを聴き、日本のアニメを見る。ストリートカルチャーも若者の気になること。ヨウジ・ヤマモトはファッション業界を目指す若者の憧れで、モハは森山大道の写真を知っている。
中東にだってサブカルはあるんだ。よく考えればそりゃそうなんだけど、現代の世界がみる中東からは忘れられている」。モハや友人らはSNSを通じて連携を取り、中東諸国を跨ぎながらクリエイティブチームを作りプロジェクトベースでともに働く。

blue skies from pain #kuwait #35mm

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pangea pangea #35mm

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let's put things to rest #kuwait #peace #35mm

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 自分たちの知っている中東を知らせたい、という肩の力を抜いたモハたちは、この数十年で一つ新しいことをした。「中東のクリエイティブチームでVANS(ヴァンズ)のキャンペーン撮影をしたんだ」。これまでもキャンペーンの撮影自体はあったが、それは中東にモデルとチームを呼び、中東というロケーションで、外からの解釈で作りあげたものだった。それよりも前は、ロケーションですら欧米で、撮影済みのものを店内に貼っただけだった。「中東のカルチャーシーンが利用されはじめたのはいいこと。これって、中東のクリエイティブシーンが育つ種になる。これが、僕らが見ている中東の見通しだ」

SNSが絡んだ中東

 そもそも現在の中東とSNSの関わりは根深い。シリアの内戦をたどれば、2011年チュニジアでの政変がSNSで中東各地に届き、飛び火して「アラブの春」と呼ばれる民主化運動へ。その後、シリアでの運動は革命闘争へと姿を変え、諸外国の軍事介入により国際の「代理戦争」とまで呼ばれるほどにとりわけ激化していく—昨年、ニューヨークで上映されたドキュメンタリー映画『City Of Ghosts(日本でも現在上映中の『ラッカは静かに虐殺されている』)』でもよく物語っているが、IS側と市民ジャーナリストたちがSNSを通して互いの戦いを展開していく(市民ジャーナリストがSNSを通して世界に向けて告発し、ISがそれに対しSNSにて報道したジャーナリストを名指しで報復宣言をする。ISと市民ジャーナリストの“メディア戦争”*である、とも報じられたほどだ)。

*ISは市民から志願兵を募るにあたって、資金を駆使しISの闘争の場面をまるでハリウッド映画のように仕立てあげ、それら動画で少年・青年らを盲信させた。

 SNSで人員を動員し、そのシリア内戦を含めて中東各所で起こる出来事もまたSNSを通して届けられた。シリア・イラクの都市奪還作戦では、ハッシュタグを利用しながらいち早く戦況を展開したのもSNS。発信するのは報道陣と同様に現地の市民もだ。新聞やお茶の間のテレビだけではない。24時間閲覧の止むことがないSNSという世界で存在する中東もまた、紛争と内戦が一面にあった。

 そのSNSで、自分の知っている中東をポストする。「いま、中東で他に何が起こっているのかを見るには、現地に赴くか、それか僕や僕のまわりの友人のSNSをフォローしてみて。ただの日常を撮って載せているだけ。でもいまの中東にまつわるイメージの中では、そのただの日常こそが、オルタナティブに、『もう一つの中東』になる」。ニュースという報道を通して伝えられる中東の姿も真実。だが、「僕のポストする中東をみたらきっとイメージが変わる。だって、いま世界を跨いで誰かと友だちになるには、その人のポストで『気があうかどうか』を見て確かめるでしょ? 同じことだよね」

Broadcasting Palm Trees
Azzam Between Palm Trees
Dark Side copy
©︎Cheb Moha

 洗濯中の誰かを、二人乗りを、格好つける若者を、どの都市にも共通する時代のエッセンスでストリートフォトにする。「中東の特別なストリートフォトって、なにかって? わりとどこの都市とも近いと思うなあ。どこでも撮れるっていうか」。真新しさよりも既視感のある中東という光景は、今日に近いもう一つの中東だ。“他人の中の中東”という止まった時間を、知らない道を散歩するスピードで、ばったり友人に出くわすような気軽さで、シェブ・モハは押し進める。

Interview with Cheb Moha
(取材協力:Resala Tokyo

All Photos by Cheb Moha
Text by Sako Hirano
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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