今年3月に配信がはじまったNetflixシリーズ『MOXIE!(モキシー〜私たちのムーブメント)』。一人の転校生をきっかけに、変だと思っていること、納得のいかないこと、理不尽だと思うことなど、校内で蔓延する性差別に女子生徒たちを主導に「I’m gonna keep my head up, high(おとなしくしない)』と冊子『MOXIE!』を作って挑んでいくストーリーだ。彼女たちの切って貼ってのとことん手作りの主張いっぱいのジンは、90年代初頭の「ライオット・ガール・ムーブメント」を思い出させる。パンクバンドのライオット・ガールが、バンド活動のみならずジン作りを通してフェミニズムの思想を広げていった。いまも昔もフェミニズムとの相性が良いジンだが、もちろんフェミニストじゃなくたって大歓迎。世界一敷居の低い文芸で、ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」。
さて、今月紹介するのは「ブルーな気分のかたち」がテーマの3冊。それぞれが持つ不安と悲しさ、遣る瀬無さないの記憶や気持ちをジンでかたちにして向き合う。メランコリーでいっぱいになっても、向き合い方を知っていればきっと大丈夫。ところでどうしてブルーなんだろうって調べたら、いろんな諸説が出てきちゃった。気が向いたら調べてみて。
知らない生徒の言葉で小学校退学!?
理不尽だらけの当時を回想する
『Pink Slip』
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超厳しい私立小学校に通っていたが、あることが原因で、5年生のときに退学させられてしまった。小学校を退学なんてある? その当時を回想した『Pink Slip(ピンク・スリップ)』。表紙を飾る不服そうな表情が語る通り、理不尽な過去が綴られている。ジンを広げて裏返すとあの時の「校則違反用紙」が。
———小学校を退学させられたって、まじ?
まじ。私にいじめられてるって言い張る男子がいたらしく、それが原因で。でも実際のところ、私、その男子と話したこともないっていう。ましてや暴力なんてもってのほか。
———え!
知りもしない子がそんなことをしたのかは、15年以上経ったいまも謎。
———それにしても小学生に退学処分って、厳し過ぎない?
日本では小学生に退学処分ってなかなかないと思うけど、米国ではよくある。学校によって退学処分を下す理由は違うし、私が通ってた学校のルールもよくわからない。でも一般的に、他の生徒に危険や悪影響を及ぼす可能性のある生徒を退学処分にするんだと思う。
ちなみにその男子ね、私が退学した翌年に友だちの遊戯王カード(Yu-Gi-Oh!)を盗んで退学になったんだって。
———なんじゃそら! ところで、退学になったその後はどうしたの?
両親は怒り狂うだろうなと思ったけど、父も母も私の話を信じてくれて。結局、他校に転校する羽目になったけどね。友だちに別れを告げるのはすごく辛かったよ。いくつになっても、ゼロからスタートするのって簡単なことではないじゃん?
———うん、大人になったいまでも難しいよ。
ま、いまとなればこの経験があってよかったとも思えるけどね。おかげで成長できたし、新しい道に進むという度胸もついた。
———ところでジンを広げて裏返すと、ピンク色の記入用紙があるね。これ、何?
私が校長室に連れていかれるたびに書かされてた、校則を破ったことを報告する校則違反用紙を再現したもの。やらかした内容を書いて、親に渡してサインをもらわないといけなかったんだ。この紙を渡されると、いつも憂鬱だったな~。いまでもあの紙の匂いは忘れない。
「不安に襲われたら、猫をなでなで」
自閉症作者のアドバイス集『Anxiety』
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うれしい!って気持ちは体いっぱいに満ちて勝手に外にも漏れていく感じがあるけど、不安って “心の中” にある感じがする。なんでだろう。だからなのかなかなか外には出せないもので、1人で抱え込んでしまうこともしばしば。自閉症の作者が作ったのは、不安の原因、不安がもたらす影響、不安の対処法を綴ったジン、その名もド直球に『Anxiety(アングザイアティ、不安の意)』。24ページに渡り、黒ペンで力強く書き殴ってます。
———なんでこのジンを作ろうと?
ロンドンからカリフォルニアに引っ越した日の夜、ベットの中で不安に押しつぶされそうになったんだ。ものすごく怖くて打ちのめされそうだった。ノンストップで不安が押し寄せてくる感じ。そんな気持ちをジンにしたらいいんじゃないかなと思ってさ。
———どんな内容か教えて。
不安とはなにか、そして人にどんな影響をあたえるのかを探ってる。不安を感じたとき、実際に僕がとる行動を例にあげたりして。
———不安なとき、どんなことをするの?
体を揺らしたり、手をひらひら振ったりする。これは自己刺激行動といって、自閉症の人が不安に対処したり感情を調整したりするための行動なんだ。あとはぬいぐるみに寄り添ったり、動物と戯れたり。
不安について話すことって、超重要。でも多くの人はあまり打ち明けたがらない。メンタルヘルスについて話すことはやっぱりどこか恥ずかしいと思っているんだろうね。
———不安を打ち明けるのって、自分の弱みを見せるみたいでなかなか抵抗がある。
みんな一人ひとり違う不安を抱えているでしょ? だからこそ、それぞれが不安について打ち明けるっていうのはいいことだと思うんだ。そうすることで、みんなの不安や孤独感が減少する。
———自分だけじゃなかったんだって安心することもあるもんね。
それに不安や孤独感って、無くなることはないと思うんだ。僕はたくさんの温かい人々に囲まれているときでさえも、どこか疎外感を抱いてしまう。不安ってのは、いつでもついてまわってくるもの。
———そういえば、いたるページに猫がいる。
僕、猫が好きでさ。近くに猫がいると心が落ち着くし、安心感もわいてくる。読んでくれた人が猫の可愛らしさに癒されて、不安にうまく対処できるようにという願いも込めてるんだ。
———たくさん描いてあると、ちょっと怖いね。
「悲しくてもいいんじゃない?」
『how about to sad?』が教えてくれる、悲しみとの向き合いかた
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「悲しいってふつうのこと」。地元を離れるとき、大きな悲しみに襲われた作者。その時感じた悲しみをに綴ったのが『how about to sad?(ハウ・アバウト・トゥ・サッド?)』。実体験や悲しみプレイリストに、おセンチなイラストを添えて。
———悲しみについてのジン。
大学生の頃、地球の裏側に引越さないといけなくなった。それがとても悲しくて。誰かとその悲しみを共有したいという気持ちから、とにかくたくさんの絵を描いた。
悲しむことって、普通のこと(Sadness is normal:サッドネス・イズ・ノーマル)」だからジンのタイトルを『悲しんでみない?』にしたんだ。
———たのしんでみない?のような気軽さで。
悲しみだって、よろこびや怒り、たのしみや憂鬱なんかと同じ感情。だから、いまあなたが悲しんでいるとしてもなにも心配することはない。いま、少しだけ悲しくなる必要があるというだけ。
———うんうん。
悲しみって美しいものでもある。悲しみという感情があるからこそ、美しい詩や音楽、映画が生まれるわけだし。
———このジンではどういったとこにこだわったの?
人間本来の感情、魂の美しさについて語りたくって。あとはね「悲しんでもいいし、悲しんでるときのあなたもいい」って伝えたくて。人って感情に左右されて、自分の本来の美しさを忘れがちでしょ? 目が涙ぐんでようが、疲れていて目の下に隈があろうがいいの。メランコリーにいたって、自分を愛すること、愛せることが大切。
——どうやって悲しみの中にいる自分を愛してあげているんだろう。
そもそも憂鬱に浸るのが嫌いじゃない。憂鬱に浸るおかげでいろんな考えや自分のアイデンティティを見つけられたと思うし。でも、憂鬱に浸ることとうつ病はしっかり区別しないとダメ。うつ病の場合は専門家、家族、パートナーに助けてもらうことをお勧めする。
悲しみに襲われたときは「いまは悲しい時期。悲しむことはふつうのことって」って思うといいよ。かなしいときでも自分を失わないでね。
Eye Catch Image via
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine