環境アクティビストが活動をやめた理由。気候変動のムーブメントと人種について【XVoices—それぞれのリアル】

ある状況の一人ひとりの、リアルな最近の日々のことを記録していきます。
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かしこまらないときにこそできる話があって、そういうものは大抵、理想の行数にはおさまらない。これだって取材ではあるものの、いつものより肩の力を抜いて、メモにとらわれず記事のできあがりも気にせず、ただ話してみたらどんなことを聞けるんだろう。
数字のことやただしさも一度据え置いて。もしかしたら明日明後日には変わっているかもしれない、その人が今日感じている手前のリアルについてを記録していきます。とりとめのないことこそ行間の白にこぼさないように、なるべくそのまま。【XVoices—今日それぞれのリアル】シリーズ、今回は、近年大きな動きみせる気候変動にまつわるリアルを、3回にわたって届けます。

※※※

「Why I Quit Being a Climate Activist(私が気候変動アクティビストを辞めたワケ)」。そんな衝撃的な見出しで自身の体験と気持ちを綴ったエッセイを寄稿したのが、“元”気候変動アクティビスト、カリン・ルイーズ・エルメス。ドイツ在住、ドイツとフィリピンの両親をもつ大学院生だ。

 彼女が、アクティビストをやめた理由。それは、「気候変動ムーブメントが、圧倒的に“白人中心”だから」。カリンは、国籍はドイツで名前は“白人風”であるものの、肌の色や人種は完全な“白”ではない。気候変動に関する会議に参加した際の「白人主導のプロジェクト参加者だけに発生するギャラ」「『人種の多様性が欠如している』と指摘した際に受けた反発」「フィリピンの親戚が自然災害の被害にあったスピーチを、ヨーロッパの白人の聴衆の心に訴えるよう何度も繰り返させられたこと」に疑問を感じ、白人中心のムーブメントに疲れ、活動をやめたという。

 このような「気候変動は白人中心」を主張するのは、カリンだけではない。ニューヨークを拠点に気候変動のアクティビズムをおこなうアジア系アメリカ人のシンシア・リャンも、気候変動のユースムーブメント「Fridays For Future(未来のための金曜日)」のミーティングに参加した際に「アジア系メンバーは1、2人しかいなく、あとは中産階級の白人メンバーだった」「有色人種のコミュニティが見舞われている環境問題の影響については、軽く触れただけだった」などの違和感をもったと話している。

 2018年に当時15歳のグレタ・トゥーンベリがスウェーデンではじめた「気候変動ストライキ」が、いまでは世界中のユースが中心となるムーブメントへ。その一つの側面で「ムーブメントに人種の多様性が欠如している」と悩む有色人種の気候変動アクティビストたちがいる。「気候変動ムーブメントから離脱した」というカリンに、彼女の体験とその体験をベースに経験した個人的な感情を、電話を繋いで聞いた。



カリン・ルイーズ・エルメス。

HEAPS(以下、H):こんにちは!あれ、顔が映ってないかも。

Karin(以下、K):iPadからやっているからかな、なぜかカメラが機能してない。ちょっと待ってね。

H:はーい。

K:んー…ダメかも。

H:オーケー、電話にしましょう。ではあらためて。いまは、ドイツ・ベルリンの大学院でアメリカ研究を専攻しているとのこと。ドイツとフィリピンのバックグラウンドをもち、これまで、インドネシアやパプアニューギニア、ハワイ、フィリピンにも住んだことがある。いまは離脱してしまいましたが、気候変動のアクティビズムに目覚めたきっかけを教えてください。

K:父が海洋生物学者だから、子どもながらに環境問題や気候変動という話題にもともと触れていたんです。あと、インフラが整っていないパプアニューギニアに育ったことや、フィリピンに住んでいたときに経験した台風なども影響しています。気候変動は、ずっと自分のなかで存在していたトピックだった。

H:フィリピンでおこった台風では、実際に親戚が被害を受けたそうですね。

K:はい、2013年にフィリピンを直撃した台風ハイエン*の被害に。私自身ハワイに住んでいたときも、ハリケーンがたくさん直撃して恐怖と不安を味わいました。

*近年のフィリピン災害史上最大級。死者は6000名以上、行方不明は1700名以上に及んだ。

H:どんな活動をしてきたのでしょうか。

K:ちょうど5年前にベルリンに引っ越してきたときに、ダコタ・アクセス・パイプライン反対運動*に参加したのが、初めての活動です。ベルリンに住むアメリカの先住民やいろんな人と出会ったきっかけで、ベルリンでもスピーチをおこないました。

*2016年におこった、米ノースダコタ州からイリノイ州を結ぶ石油パイプライン建設に対する反対運動。環境や先住民コミュニティへの悪影響が指摘された。

H:あとは、気候変動のアクティビストとして、フィリピンの親戚が自然災害の被害にあったことについてワークショップなどでスピーチしたこともあるそうですね。気候変動ムーブメントが「白人中心」だと、どういうときに感じはじめたのですか?

K:ドイツで(環境関連の)会議に参加したことを通して、ある非営利の環境団体のドイツ支部と関わることになり、その後、彼らのサポートチームに加入しないか依頼がきました。でも、この団体、メンバーがほとんどが白人で。

H:ほう。

K:それに、最初25人くらいいたメンバーも最後には5、6人になってしまって。みんなフルタイムの仕事がきちんとある人たちが参加者だったからです。

H:環境問題に本格的な活動として取り組むのも、経済的に余裕がないとできない。つまりカリンが体験したのは、経済的に余裕のある白人層が、このような非営利団体の中心メンバーになっている、ということですね。

K:そうです。そして、この団体のある正式なポジションに空きがあったから、応募してみたこともあるのですが、それに対しての返事は一向になし。なのに、しばらくしてそのポジションに就いた白人男性からツイッターを通して連絡がきた。「気候変動とフェミニズムとレイシズムに関するポッドキャストをはじめないか?」って。この団体は国際的には「インクルーシブで多様性」というのを世間体で見せているけど、少なくともドイツ支部では白人ばかりで、空きのあるポジションには白人の男性を雇っている。

H:なるほど。

K:あとは、この団体からワークショップのお知らせが来たとき。黒人の女性とアジア系の女性にもお知らせが来たのね。書いてあったのは「このワークショップについて、あなたの連絡網でも拡散してください」と。この“連絡網”というのは、明らかに“あなたが属する有色人種の民族グループのネットワーク”です。そこに拡散して、そのお友だちを招待してくださいね、ということです。他にも、この団体のワークショップに参加した際には支払いについても疑問を持ちました。他のスタッフには支払いがなされるのに、私にはなにも出なかったんです。

H:カリンは、気候変動ムーブメントにおける、非白人のアクティビストや参加者、ストーリーの扱いに疑問があるということや、「トークニズム(体裁主義、形だけの平等主義)」についても話していました。たとえば、

・国連の気候変動会議にて、先住民の参加者がいる場合。主催側は彼らに発言の場をあたえようと形だけのサポートはするが、実際にメディアに出て話すのは、別の(いつも同じ)人。

・ダボス世界経済フォーラムのユースパネルに参加したあるウガンダのアクティビストは、写真から自分がクロップされていたことに気づいた。

など。

K:“インクルーシブさを見せる”ことが目的で、根底からシリアスに考えていないように思います。さっきの、有色人種の女性たちが招待されたワークショップの話だけど、黒人の女性がそのワークショップの紹介ビデオに出ていたのですが、あたかも“彼女が(自主的に)参加する”という体の演出をされていました。このワークショップを民族的に多様に見せるために、です。

H:カリン自身も、「フィリピンの自然災害についてのスピーチ」を頼まれることはイベントに“(民族的に)多様な声”を見せるのが必要だからだ、と感じたのですよね。

K:こういうムーブメントやスピーチのオーディエンスの大多数は、白人か西洋諸国の人たちです。となれば、彼らが共感できるものが必要になってくる。そこでドイツとフィリピンの血をもつ私みたいな“中間の立場”(白人でもあり非白人でもある)の出番だと考えているのだと思います。

H:先ほど、経済的に余裕がある層がよりム活動に注力できる、といったような話がありましたが。

K:たいていの気候変動アクティビストたちは、奨学金がもらえている子たちだから、アクティビズムに没頭できる心の余裕がある。そうなると、社会階層と学歴も関係してきますよね。

H:きちんと奨学金などのシステムが整っているような教育機関に入れるだけの経済力に恵まれているほうが、お金の心配なしに活動にも献身的になれる、ということですね。

K:ドイツの学校って、社会階層や人種によってはっきりタイプが分かれていて、一番上層階級の学校は、大学までエスカレーター式です。通っているのは、白人のミドルクラスのドイツ人の子どもたちね。フライデーズ・フォー・フューチャーに参加する子たちは、たいていこのような上層の学校の子たち。移民の子どもたちは、一人も参加していなかった。もっと大きな目で見ると、気候変動を知ることができるのは、発展しているここ北半球に住む私たちのような人間です。もちろん、気候変動の影響での被害は、気候変動を知らずとも身にしみて感じています。

H:参加できるのもまた一つの特権である、と。なるほど、米国だとさまざまな移民や人種の子たちが参加しているけど、ドイツだと事情が違うようですね。社会階層、人種・民族関係なく小さいころから環境問題に触れる機会を均等にあたえることが、今後の課題となりそうです。「気候変動ムーブメントは白人中心」という寄稿に、反響はありましたか。

K:この記事に関しては、批判も多かった。「なんで白人の血が入っているのに不満を言っているの?」とか。これは活動中にも、人種差別について話をしようにも「その話をするには、あなたの肌の色はあかるい(十分にダークじゃない)」といわれることもありました。

H:“見た目が曖昧”であることで、活動に苦労したとも話していましたね。

K:ドイツの名前が入っているから有色人種として評価されないことがあります。ドイツで多様性を求めている仕事に応募しても、書類選考で名前で落とされるのと同じです。2017年の気候変動の会議に参加する際には、フィリピン人のスタッフと行きました。

H:やめる決断にいたるまで、譲れなかったことはどんなことだった?

K:利用されている、と実感することです。ドイツでは、白人の方たちが、有色人種の体験談を自分の手柄のようにしている、それが許しがたかった。もちろん真っ当に活動をしている人も多くいますが、特に団体の人事部などは、その人自身の利益のためにやっているのだと感じる人も多かったです。たとえば先ほど話したポッドキャストもそうです。

H:肝心な人事には返答せず、コンテンツづくりの力は借りたい、と。

K:自分たちのプロジェクトのために、私の知識を使いたいのだろうと感じてしまいました。加えて、金銭的な搾取です。私たちの経験談を真剣に受け止めてくれるのか、それとも利用するだけなのか、人によって違います。また、植民地主義についてあまり話されていないことも気になりますね。

H:それも、ドイツでは白人の活動家が団体の上層により多いからというループなのでしょうかね。

K:植民地利用された土地が気候変動に陥っていることを、有色人種である活動家が発信できるプラットフォームがもっとちゃんとあればいいのに、と思います。ある媒体が南半球出身のアクティビストを取り上げたとしても、決まっていつも特定のアフリカの人をフィーチャー、というのもあります。それから、ここ昨今のメディアでは、デモ運動において「よりおもしろいプラカードを持っている人」を取り上げたり、映していることを見かけます。シリアスなマイノリティの意見を発しているプラカードは取り上げられない。メッセージの重要性よりも、どこかたのしさ半分になっていることも残念に思っていました。

H:そんなフラストレーションが溜まって、活動をストップするに至りました。

K:そう。先ほど話した、名前で落とされてしまうことなども含めて、あまり自分の努力が認められずただ精神が削られていくと感じてしまった。気候変動関連の団体からのメールの返事や電話に出ないようにして、フェードアウトしました。

H:いまも活動は休止中?

K:(昨年の)2月、気候変動関連のイベントに出演しました。5人のパネリストすべてが有色人種の女性たちだったからです。主催者も黒人女性でした。それから、パネルのトピックも興味あるものだったので、こういう活動には参画したいと思いました。気候変動について知る機会をあたえられた私は、気候変動に立ち向かうのか、立ち向かわないのか、どう立ち向かうのかを自分で考えて選択します。

Interview with Karin Louise Hermes

All images via Karin Louise Hermes
Text by HEAPS, editorial assistant: Hannah Tamaoki
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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