編集部が選ぶ今月の1冊。見知らぬ惑星で、残された時間は7日間。生きかた、あるいは死にかたを選ぶRPGジン『32%』

最後の7日間をプレイしながら、孤独と死に向き合うゲームジン。
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ちょっと前に手に入れたジンの話。包装が真空パックになっていてイケてる!と思い購入したけど…開けたくない…! 開けられないまま1週間、2週間と過ぎて、気づいたら3ヶ月。肝心な中身のジンを一向に見ることができません。中身を見る用にもう1冊買おうかな。真空パックの罠。

HEAPSでは毎月、2冊のインディペンデントな出版物を取りあげています。1冊は雑誌から、1冊はジンから。いずれも個人たちの独立した精神でつくられる出版物だが、特にジンからの一冊は、時代性、社会性、必要性などの存在意義も問わずに、世界一敷居の低い文芸・ルールが存在しない世界一自由な文芸「ジン(ZINE)」のおもしろさを探っていきます。

さて、今月の一冊はトランプとサイコロを片手に、「ロールプレイングゲームで自分の内面と向き合うジン」。

***

居場所のない惑星で選ぶ。
7日間の過ごしかた
32%

作った人:Ella Lim(エラ・リム)

「遥か彼方の見知らぬ惑星で目を覚ましたあなた。宇宙服のバッテリーは残り32%。このままだとあと7日の命」。そんな設定ではじまるゲームジン『32%』。用意するものは、サイコロとトランプ。読者のあなたが1人でRPG(ロールプレイングゲーム)をすすめていくジンだ。

あたえられる選択肢はふたつ。

①「地球の家族が恋しい。誰もいない惑星から、助けを求めて生き延びる」
②「助けが来る保証はない。降り立った惑星はとても美しい場所なので、残りの人生をここで楽しみ、死を待つ」

二択から選ぶのは、生きかた、あるいは死にかた。未知の状況と32%の猶予と選択で、たのしみながらもきっと自己の内面が漏れ出していく。

———壮大な設定からはじまるRPGジンです。

『32%』のアイデアをどのようにして思いついたかあまりよく覚えてないんだけど、稲妻が走ったように「バッテリーがゼロになっていく」という設定のアイデアが頭に浮かんだことは覚えてる。
“限りあるテクノロジー(酸素ボンベ)”に命を繋がれている、という設定がすごく気に入ったんだよね。

———ゲームをプレイするには、サイコロとトランプを用意すればいいんだよね。

そう。このゲームは、ソロTRPG(テーブルロールプレイングゲーム)からヒントを得て制作したんだ。6面体のサイコロとトランプはわりとどこの家でもあるでしょう? 誰でも簡単にたのしめるといいなあと思ってね。サイコロもトランプも、プレイヤーがRPGのシナリオを作るのに使うんだ。

———舞台は惑星。命の限りの舞台に、砂漠とか海の上ではなく、惑星を選んだのはなんで?

惑星は未知の世界だから、奇妙で不思議で奇抜な環境の設定に最適だった。
まったく知らない惑星で「居場所がない」という状態は、自分そのものを異質に感じることもできるかなあとも思ってね。

———そんな未知の世界で「孤独死と向き合う」というのがこのジンのテーマ。ベースには自身の体験や経験があったりする?

僕自身、孤独死にまつわるような経験はない。このジンでは、「未知の体験」を探究できるようなものにしたいと思ってね。「この状況だったらどうする?」と、みんなに模索してみて欲しい考えや感覚をベースに作ってるんだ。

———読者…プレイヤーと言ったほうがいいのかな? このジンのプレイヤーに感じて欲しいことは?

このゲームをプレイすることで、もし自分が窮地に立たされたとき、どのように順応し、どのようにその状況をうまく切り抜けるかに考えを巡らせてみてほしい。
架空の世界で自分と向き合うような体験をするのが好きな人に向いていると思う。

———レビューを見ると「3時間ぶっ通しで遊んじゃった!」「2日目で死んだけど、またやりたい!」「クオリティーの高いゲーム」など。どこに一番、試行錯誤したんだろう。

何度プレイしても体験が変わるように、シナリオの善し悪しのバランスをとるのが大変だった。たとえば、一度目のプレイではシェルターに遭遇するんだけどそこで破滅してしまう。二度目のゲームでは食べ物を探していてそこからは免れる、とか。毎回違う体験ができるように作ったんだ。

んー、降り立った惑星にもよるだろうね。もし美しい惑星に降り立って、そこが人生最後のときを過ごすのに最適な場所だったら運命を受け入れて死を選ぶかも。でももしその惑星の居心地が悪かったら、必死になって家に帰る術を考えると思う。
でも、惑星の美しさが、孤独や家族の恋しさを埋め合わせることなんて、果たしてできるのかなあ。

Eye Catch Image via Ella Lim
Text by Ayumi Sugiura
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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