はじめまして、の挨拶しようとした次の瞬間、「お久しぶりです、元気にしてました?」。慌てて「は」の口のままへらぁっと笑顔をのっける(焦)。社会人になれば一気に広がる人の輪とともに、この人誰だ・名前なんだっけ症候群に陥る機会も正比例していく。「あれ、見覚えある人が近づいてくる…。まずい、思い出さなきゃ、ナニさんだっけ…」と巡らすも間に合わずに声をかけられたら最後、もう逃げられない。
万人あるある「えーっと、誰だっけ(心の声)?」をイラストで綴ったのがコミックジン『Adventures in Faceblindness(アドベンチャー・イン・フェイスブラインドネス:ダレコレ冒険記(意訳)』。タイトルにあるフェイスブラインドネスとは、失顔症のこと。自分や他人の顔を認知・識別できなくなる医学的症状で、数年前ブラッド・ピットが「ぼくは失顔症」と告白したことで聞き覚えがある人もいるかもしれない。
「うーんっと、私は失顔症ではないんだけど、人の顔を覚えるのが本当に苦手で。相手を不快にさせるんじゃないかと不安になるし、過去に顔を覚えてなくて人を怒らせたこともあるわ」とは、このジンの作者でブルックリン在住イラストレーターのミシェルちゃん。“失顔症”ではないけれど、顔を覚えるのが苦手という人は、筆者も含め多いと思う。
コチラ、電車で再会した男が誰だかなかなか思い出せないレイチェルのお話。
男:「ヘイ、レイチェル!こんなとこで会うなんて。元気してた?」
女:「あ、こんにちは!(誰だっけ?)」
男:「偶然だね〜」
女:「ハハ。こちら、(連れの友だちを紹介して)ローレンよ(お願い、自己紹介して名乗って!)」
男:「はじめまして、ローレン。ジョンです」
女:「(ジョンって、誰ー!?)」
その後、この偶然の再会から急展開でプロポーズされるまでの間、レイチェルは「ジョンって、どこで出会ったんだっけ…ティンダーくんだっけ? 過去にかかってたセラピスト? 大家さんの甥っ子? それともバーテンダー?」と悶々。誰か思い出せないのにプロポーズまで話が進む、というありえねえぜ状態のユーモアコミックだ。
“顔を覚えられないエキスパート”のミシェルちゃんだから、誰だか思い出せない危機を避ける術を持ちあわせているだろうと聞いたところ、「毎日たくさんの人と会うし、顔なんていちいち覚えられない。忘れちゃうことはしょうがないよ」とあっさり。ではその状況をいかにやり過ごすのかと問えば、「一緒にいる友だちを紹介して、彼らが自己紹介しているのをこっそり聞いて名前をゲット。でもほとんどの場合、正直に覚えてないことを話すわ」
下手にごまかして空まわるより、「ミシェルちゃんの言う通り、開き直って正直に覚えてないと伝えるのが一番かも?」「いや、それじゃいかんだろう(特に仕事の場合)」と自問自答。そして今日も「ごめんなさい、誰ですかー!?(心の声)」を繰り返すのであった。
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All images via Michele Rosenthal
Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine