「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰もが一度は通る、青二才。
現在、青二才真っ只中なのは、世間から何かと揶揄される「ゆとり・さとり」。米国では「ミレニアルズ」「Z世代」と称される世代の一端だが、彼らもンまあパンチ、効いてます。というわけで、ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで世界各地の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。
2020年、青二才シリーズもビデオチャットでわりと多くの取材がすすみ、十九人目。米国からパフォーマンス・アーティストを。ユニークなメイクアップが続々登場する中で、一際目を引くユニークなフェイスペイントがシグネチャーの、マドロナ・レッドホーク(Madrona Redhawk)、19歳。高校を卒業したばかり。
「ネイティブ・アメリカンのフェイスペイントに衝撃を受けて、私もやってみようって!」。ショーニー族である父と、クリーク族である母のもとに生を受け、ネイティブ・アメリカンの血を継ぐマドロナちゃん。自身のルーツの伝統文化であるフェイスペイントに一目惚れして以来、そのインスピレーションをもとに2年前からフェイスペイントや絵具を使ったパフォーマンスアートを開始。「いまの自分の感覚」を注いでツイストし、どんどん進化させている。
パフォーマンスアートをわざわざ文字にするなんて、その美学に反しているようでマドロナに申し訳ない気もするけれど。彼女のスタイルを伝えたいので説明しちゃいます。
・ワッフルメーカーに絵具を塗り、自らを挟む。ワッフルの凸凹模様のついた顔を皿の上にのせ、シロップ。
・顔に太陽を描き、ビル(段ボールで手作り)の周りをグルっとまわる
などなど。
どうでしょう、この独特でシュールな世界観。滑稽な姿にアンニュイな表情がクセになる。彼女の不思議な魅力に、ファッション・ブランド「UNIF(ユニフ)」やヘアー・プロダクト・ブランド「Uberliss(ウーバーリス)」などをはいめ、コラボレーションの依頼は止まない。
取材を申し込むと快諾してくれ、アーティスト活動や日々の生活、ネイティブアメリカンクラブの部長を務めていたという高校生活についてもいろいろ話してくれました。じゃあそろそろいきましょうか、「青二才・パフォーマンス・アーティスト、マドロナ・レッドホークのあれこれ」。
十九人目「いつか“ただ自分のため”だけ、自己満足のためだけになったとしても、フェイスペイントをしていたいと思ってる。もちろんどこかに投稿もし続けるよ」
HEAPS(以下、H):今日は時間をさいてくれてありがとう、よろしくね。
Madrona Redhawk(以下、M):こちらこそ! 超ワクワク。
H:小さい頃はどんな子だった? 昔からアートが好きだったのかな。
M:外で遊ぶことに夢中な子だった。よく父と一緒に自転車に乗ったり、テニスをしたり、とにかく体を動かしてばかりいた。あ、あとビデオゲームも大好きだった。任天堂の『どうぶつの森』にはハマったなぁ。
H:どう森!ロックダウン中に人気が再熱してたね。
M:最近ゲームキューブを買ったんだよね。だから当時のオリジナル版を買って、姉と一緒に遊ぶのがたのしみ。
H:スイッチ版ではなくゲームキューブ版とは、通です。お姉さんとは仲良しなんだね。家族みんなで撮った作品動画もいくつかインスタグラムに投稿していたね。姉の頬についた絵具を母の頬、マドロナの頬、父の頬へと移動させていくのとか。仲良し家族が伝わってくる。
M:昨年、姉が帰省したときに撮影した動画だ、それ! 姉は実家を出ちゃったからいまは父と母と私の3人暮らし。昔から家族揃って映画を観たり、ビデオゲームをしたり、一日中一緒に過ごしてる。この前は『ロード・オブ・ザ・リング』を観たんだ。私にとって家族は大親友で、ナンバー1のファン。親と暮らしているというより、友達と共同生活してる感覚。
H:そんな仲良し一家は、米国の先住民族であるネイティブ・アメリカン(インディアンとも)。
M:私は3分の1がネイティブ・アメリカン。父がショーニー族で母がクリーク族、両親共にネイティブ・アメリカンの血をひいてるって、クールでしょ?
H:うん。高校では、ネイティブ・アメリカンクラブの部長を務めていたらしいね。どんな活動をしていたの?
M:私が部長、親友のミシェルが副部長を務めて。ミシェルはメキシコ人なんだけど、彼女もメキシコの先住民族の血が入っている。大体、週1で集まってネイティブ・アメリカンについて話し合って、部員は私たち2人だけでたまに友だちがふらっと来て参加するって感じ。ネイティブアメリカン月間(2019年は11月だった)は、いろんな部族を象徴する旗を飾ったり、昼食時間にネイティブ・アメリカンの音楽を流したりしてたな。
H:フェイスペイントをはじめたのは、その頃から?
M:ネイティブ・アメリカンのことは小さい頃からよく両親に聞かされていたけど、実際に興味を持って調べはじめたのは2年前。ある日フェイスペイントについて調べていたら、頬に手の形のフェイスペイントを纏ったネイティブ・アメリカンを見つけて。「わぉ。超イケてる、最高にユニークじゃん」って、衝撃だった。それで、私もやってみようって。
H:ネイティブ・アメリカンのフェイスペイントには、強く見せたり擁護する魔法の力があると信じられていて、儀式やダンス、戦闘のときに纏っていたと聞く。自分のルーツをイケてるって思う、あなたもイケてる。
M:私の作品ではね、自分のルーツであるネイティブ・アメリカンの伝統的なフェイスペイントにインスピレーションをもらいつつ、いまっぽい要素を織り交ぜてるんだ。
H:ところで、普段はメイクするの? フェイスペイントじゃなくて、なんていうか、普通の。
M:するよ。でも、フェイスペイントをはじめてから、眉毛は全剃りしてるんだよね。
H:えっ、なぜ。
M:フェイスペイントのアウトラインを描くときに邪魔になるから。眉毛がないだけで、うんとよく仕上がるんだよね。眉毛ってさ、ものすごいスピードで生えてくるって、知ってた?
H:あんまり気にしたことないや。どれくらいのペースで剃ってるの?
M:2日に1回。
H:かなりの頻度。マドロナちゃんは19歳で今年高校を卒業したばかり。卒業式にはフェイスペイントを纏って参加したって聞いたんだけど、まじ?
M:まじ。だって卒業式だよ! いつものメイクじゃつまらない。だから卒業式は大好きなラベンダー色のフェイスペイントで参加したの。学校の子たちは私のフェイスペイントのことを知ってるから驚かなかったけど、保護者はびっくりしてたなあ。
H:フェイスペイントをはじめた時期に、絵具を用いたパフォーマンスアート動画も開始。動画ではいつも「そう来るか」って感じの意外性と驚きがあって好き。たとえば、
・チーズ削り器の側面に絵具を塗り、ほっぺにぺたり
・ワッフルメーカーに絵具を塗り、自らを挟む。ワッフルの凸凹模様の絵具がついた顔を皿の上に乗せ、シロップをぶっかける
・顔に太陽を描き、ビル(段ボールで手作り)の周りをグルっとまわる
・シャワーに絵具を塗ったネットを設置し、勢いよく水が出ると同時に顔面に絵具も噴射
だったり。こういったシュールなアイデアって、どこから湧いてくるんだろう。
M:いつも家の周りを見渡して、動画にしたらおもしろそうなモノを探す。大体いつもアイデアが降りてくるんだけど、そううまくいかないときもある。そういう時は、家の中をぐるぐる2時間くらい歩き回って、アイデアを絞り出すかな。
H:家の中を2時間ぐるぐる(笑)
M:それでも降りてこないときは「ねえ、ちょっと手伝って…」って両親に助けを求む(笑)
H:撮影にはどれらい時間をかけてるの?
M:動画によるなあ。すんなりいけば20分くらいで終わるけど、うまくいかないときは3時間くらいかかって「グアァァァァッ」って唸る。
H:結構体を張ってるよね。シャワーを出すと同時に顔面に絵具も噴射するやつ、目に絵具が入らないのか、見ててヒヤヒヤしたよ。アクリル絵具らしいけど目に入っても問題ないの? ないことないよね。
M:実際、目に入ったりする。でも、口に入るのが一番最悪。絵具ってものすごくマズいって知ってた?
H:知らない。どんな味?
M:めちゃくちゃ不快な味。だから口に入るより目に入る方が全然まし。痛いけど。個人的には、アクリル絵具よりもキラキラのグリッターが目に入らないかの方がよっぽど心配。あんなの入ったら絶対痛いじゃん?
H:想像するだけで痛いよ。
M:あとね、私、敏感肌なんだよね。皮膚を掻いたり強く押しすぎたりすると、赤く腫れて痒くなる。皮膚描記症(人工蕁麻疹)っていう症状らしい。
H:え。顔に絵具ガンガンつけてるけど、大丈夫?
M:だからパフォーマンス動画はなるべく1回で成功させる。それ以上やると顔が赤くなっちゃうかもだから。
H:そんなリスクを負っていたとは。
M:でもこれが私のパフォーマンスアートだから、アーティストの宿命なんじゃないかなって思ってる。
H:制作した動画は、すべてインスタグラムに投稿。
M:もちろん。だって、せっかく「ネイティブ・アメリカンの伝統文化にインスピレーションを受けました」と言ってフェイスペイントをしたところで、誰にも見てもらえなかったら意味ないじゃん? せっかくなら、ちゃんと人の目に止まることがやりたかった。インスタは最高のプラットフォームだと思う。もし私が30年前に生まれていたら、私のアートは、これほど多くの人に見てもらえなかっただろうし。
H:動画をインスタに投稿しはじめて、周囲からの反響はどう?
M:家族や友だちはもちろん、たくさんの人が私の動画を気に入ってくれてると思う。批判的な意見もあるけど、気にしない。それ以上に、私の周りには応援してくれている人がたくさんいるから。「あなたは私の大好きなアーティスト」というコメントもたまに届くんだけど、オーマイガー!ありがとう。そんなの嘘みたい!ってなる(笑)。世の中には数え切れないほどたくさんのアーティストがいる中で、私を選んでくれたなんて感激。
H:フォロワーも増えたよね。
M:もともとインスタのフォロワーは1,000人くらいで、ほとんどが友だちだったんだけど、(パフォーマンスアートの動画を投稿をはじめた)昨年あたりからフォロワーが増えはじめて、ひと月で2,000人になって、そこから猛スピードで増加して、いまに至るよ。
H:いまではフォロワーが9万人以上。ブランドとの案件をやっているのも見ます。ファッションブランド「UNIF(ユニフ)」とのコラボ動画でもそうだったし、ストップモーションがすごくいい。靴がダンスパーティーに行って踊る動画とか、人形が洋服を選んでくれる動画とか。「今回はどんな感じなんだろう」ってワクワクします。
M:ありがとう〜。ストップモーション動画が大好きなんだ!
H:あの独特のぎこちない動きがいい味出してる。
M:小さい頃はよくストップモーションアニメ『ガンビー』やストップモーション映画『コララインとボタン魔女』を観てたんだ。2000年代はストップモーション作品を多く作った気がする。
H:ストップモーション撮影ってめちゃくちゃ時間かかるんじゃない? これも同様に全部1人で?
M:うん、クルーは私1人だけ。三脚にカメラをセットして、100万枚くらい写真を撮る。撮影中は演じたり、モノを動かしたりでドタバタなんだけど、何より一番大変なのが編集。正直苦手分野なんだ(笑)。だから、できるだけシンプルな動画編集ソフトを使ってる。
動画を撮りはじめたばかりの頃、三脚を使わずカメラを片手に持って撮影していたせいで、ライティングがおかしかったりブレてたりと散々で、パフォーマンス動画は愛フォンで撮影してる。インスタのハンズフリー機能にお世話になってるよ。
H:メイクやパフォーマンスに合わせて、服や髪型を変えたりと、いろいろこだわってるもよう。
M:服はね、メイクした後にその辺にあるものを適当に着てる。
H:あら、意外とこだわってなかった(笑)
M:自分のことをファッショニスタとか思ったことないし、わざわざコーディネートを考えたりするタイプでもないんだよね(笑)。なんなら苦手な方だし。「ドレスアップして」って言われても、何を着たらいいかわかんなくて、いつも1時間くらいかかっちゃう。
H:ところでさ、マドロナちゃんの動画にはよく母が登場するよね。特に最近、出演回数が増えた気がする。
M:前までは母が働いて父が家事をしていたんだけど、コロナで母が仕事を失って、父が働くようになったんだ。母と過ごす時間が増えて、せっかくだから撮影に協力してもらってるの。
H:そうだったんだ。2人って喧嘩することはある?
M:お互い熱しやすいタイプだから、たまにものすごい大喧嘩になるよ。でも5分後には、「テレビ見よう?」「見る〜」ってなってる(笑)。私たちの関係性って、きっと“たくさんの愛”と“憎たらしさ”みたいなので成り立ってる気がする。母と私は似たもの同士。そのせいか、母は私に謎の対抗心を持ってるんだよね。こないだなんか、レスリングで勝負したよ。
H:母とレスリング。
M:小学生?って感じだよね。しかも、ちょっと前まで母からは「ショーティー(チビ)」って呼ばれてたんだよ。いじめっこみたいでしょ。昨年母の身長を越して、いまは私のほうが背が高いんだ。
H:もうチビとは呼ばれません。そしてもうすぐ、大学生に。進路は決めてるの?
M:歴史が大好きだから、大学では歴史について勉強したい。特に、ローマの歴史に興味があるから、歴史の教授になれたらいいなって思ってる。それか、映画関係の仕事がしたい。別にヒュー・ジャックマンみたいなポジションを狙ってるわけじゃないよ(笑)。ちょっとした役でいい。あ、もしくは撮影クルー。いつも1人で撮影してるから、たくさんのクルーで撮影するっていうのを体験してみたいんだ。
H:アートを専攻しようとは思わなかったの?
M:うーん、学校でアートを勉強するっていうコンセプトに違和感を感じるんだよね。だってアートについての授業って、その教授の主観で物事が語られているじゃない? 私は自分のやり方でやりたい。
H:なるほどねえ。将来どんな人になりたい?
M:悪い人にはなりたくない…。
H:いや、大丈夫、絶対ならない。
M:ありがとう。街で困ってる人を見かけたら、手を差し出せる人でありたい。そしてちゃんとお金を稼げるようになったら、支援を必要とする人へ寄付をしたい。あと、ボランティアも。
H:ほら、すごくいい子。まだ19歳という若さだけど、アーティストとして思うことってある?
M:ソーシャルメディアを通して、世界には若くして成功してる子がたくさんいることを知れた。だから、私も急がなくっちゃ、と思うこともある。パフォーマンス動画を投稿して以来、周囲からの反響は自分でも驚くほど大きくって。そのおかげで、学生でありながらも仕事をするということについて学ぶことができた。本当にラッキーだよね。いまの自分が置かれている状況に、本当に感謝してる。
H:忙しくなったいま、友だちとも遊んでる?
M:前は毎日のように友だちと遊んでいたけど、いまは週2くらいかな。たまにしか会えないからちょっと寂しい。よく親友のミシェルとジェットコースターに乗りまくってたなぁ。私たち、多分ジェットコースター中毒だと思う。
H:近所にアミューズメントでもあるの?
M:ラスベガスには、西海岸で一番高い「ストラトスフィアータワー」があるんだ。その展望台にジェットコースターが設置されている。
H:それ「世界一怖い絶叫マシーン」って聞いたことある。
M:最強に怖かったよ。あとは24時間営業のヴィーガンアイスクリーム屋さんにもよく行ってたし、パンデミック前にはミシェルとお揃いのタトゥーを入れたんだ。私たちは2001年生まれだから「2001」って。
H:アイスクリーム屋が24時間営業なんて最高。眠らない街の特権だね。まだまだ遊び盛りだと思うけど、これからもフェイスペイントは続けていく?
M:もちろん! いつか自分のためだけ、自己満足のためだけになったとしても、フェイスペイントを続けたいと思ってる。もちろんインスタグラムかどこかに投稿もし続けるよ。
H:じゃあ最後に。マドロナちゃんが思うフェイスペイントの美しさで締めてもらおうかな。
M:フェイスペイントは、自分の脳内の考えと心の中の気持ちを可視化するもの。そして、なりたいように変身できること。
ハロウィンのときに仮装でフェイスペイントしたりするのと一緒で、スッピンのときとはまるで違う、特別な気分になれる。私、フェイスペイントがいい感じに仕上がったとき、自分に見惚れちゃって鏡ばっかり見ちゃうんだ。「このフェイスペイント、落としたくないな〜」って。
Aonisai 019: Madrona
マドロナ・レッドホーク(Madrona Redhawk)
2001年生まれ。
ショーニー族である父とクリーク族である母のもとに生を受け、ネイティブ・アメリカンの血を継ぐ。
2年前からフェイスペイントや絵具を使ったパフォーマンスアートを開始。
写真や動画はインスタで公開中。
All Images via Madrona Redhawk
Text by Ayano Mori
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine