青二才、十七人目「SNS の中毒性にとらわれた作品作りではなくて。いまは、目の前の300人にいいと思ってもらえるものを作りたい」

【連載】日本のゆとりが訊く。世界の新生態系ミレニアルズとZ世代は「青二才」のあれこれ。青二才シリーズ、十七人目。
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「最近の若いのは…」これ、いわれ続けて数千年。歴史をたどれば古代エジプトにまで遡るらしい。
みんな、元「最近の若者は……」だったわけで。誰もが一度は通る、青二才。
現在、青二才真っ只中なのは、世間から何かと揶揄される「ゆとり・さとり」。
米国では「ミレニアルズ」と称される世代の一端だが、彼らもンまあパンチ、効いてます。
というわけで、ゆとり世代ど真ん中でスクスク育った日本産の青二才が、夏の冷やし中華はじめましたくらいの感じではじめます。
お悩み、失敗談、お仕事の話から恋愛事情まで、プライベートに突っ込んで世界各地の青二才たちにいろいろ訊くシリーズ。

***

かつてなく順調に進む青二才の連載に、恐怖すら覚えている編集部です(いや、本来こうあるべきなんだが)。十七人目は、フロリダ出身・ニューヨーク在住のクリエイター、ハリス・マーコウィッツ(Harris Markowitz)、28歳。「聞いたことある」と思った君は、きっとヒープス愛読者(に違いない)。3年前の夏、すでに彼を取材していたんです、はい。
スナップチャット全盛期だった2016年前後、「スナップチャット・フィルムメーカー」という肩書きを作って名乗り、大注目を集めたハリス。スナップチャット上のブランドや企業のアカウントを強化するため、コカ・コーラやリフトなどの大企業を顧客に、広告主向けの動画コンテンツを制作。その活躍ぶりは、ショーティー・アワード(Shorty Award)の「スナップチャット・オブ・ザ・イヤー」でセレブらと肩を並べてファイナリストに選ばれたり、ニューヨークタイムズ紙にも掲載されるほどだった。 しかしその後、インスタグラムがスナップチャットのストーリー機能を取り入れたために、スナップチャットに回復の見込みはなく、取材当時はすでにこの仕事に見切をつけたと話していた。

ふと彼の近況が気になりインスタグラムを覗いてみると、フィードには「村上隆の『お花』をモチーフにした絵文字コラージュ」や「ミッキーマウスを形どった薔薇細工」「1600万円で落札され話題になったバナナアートのパロディ作品」や「サイコロで作った『イヴ・サンローラン』のロゴ」といった投稿が。そこに動画コンテンツは一切ない。近況を聞きたいと連絡すると、二つ返事で「Let’s do it(話そう)‼︎」。zoom取材です。いきましょう、「青二才・クリエイター、ハリス・マーコウィッツのあれこれ」。

十七人目「SNS の中毒性にとらわれた作品作りではなくて。いまは、目の前の300人にいいと思ってもらえるものを作りたい」

HEAPS(以下、H):背景がプールに椰子の木。まだまだ自宅隔離中のニューヨークですが、一足早めに常夏感出てますね。

Harris Markowitz(以下、M):いいでしょう? ニューヨークが都市閉鎖する直前に、地元のフロリダに帰省したんだ。3月初旬頃から、状況は深刻化するんじゃないかと思っていたからね。で、見事予想的中。だからいまもフロリダで家族と暮らしている。

H:ってことはプールも椰子の木も本物っ(zoomの設定背景だとばかり…)!毎日、フロリダの実家で何してるんです?

M:庭でゴルフしたり、自転車で近所を走ったり、プールで泳いだり。ちょうど先月、姉が出産したんだ。だから姪っ子と遊んだりも。家族との時間を楽しんでるよ。

H:有意義に過ごしているようで何より。さて、3年前の取材時。20代前半で大活躍していた「スナップチャット・フィルムメーカー」の話しを聞きましたが、その時すでにその仕事に見切りをつけていたと話していました。まず、辞めた経緯が知りたい。

M:2016年の後半頃から、スナップチャットはこの先長くないだろうなと、なんとなく予想していた。あくまで僕個人の予想だったし、誰かに話したりはしなかったけど。

H:なぜ予想できた?

M:決定的な確信があったわけじゃないよ。でも、スナップチャットのストーリー機能がインスタグラムにも搭載(2016年夏)され、同じく動画共有サービス「Vine(ヴァイン)がサービス終了を発表(2016年冬)。その二つが大きかった。機能を模倣されたスナップチャットは、然しながらプラットフォームの改善に積極的ではなかったし、フォロワーへの配慮に欠けている印象だった。第一、そもそも僕はこの世に一生人気であり続けるものは存在しないと思っている。

H:そういえば、スナップチャットが18年におこなったデザインリニューアルは大不評でしたね。デザインを戻せと120万を超える署名が集まった。この辺りから、急激にスナップチャットの存在感が薄くなった気がする。

M:それからは、自分の中で動画に対する好奇心や制作意欲が次第に薄れ、こんな気持ちで仕事に取り組みたくないと感じるようになった。もう僕のスナップチャットアカウントも、当時立ち上げた動画コンテンツを制作するプロダクションスタジオも、もう閉じてしまったよ。

H:えっ、スタジオもなくなった。ということは、もう一切スナップチャット関連の仕事をやってない?

M:うん。スタジオを閉めるのは難しい決断だったけど、見切りをつけたのはいいタイミングだったと思ってる。スナップチャット・フィルムメーカーという一つの枠に収まるのは嫌だったしね。ストップモーションやグラフィックデザイン、コラージュといった他のプラットフォームで自分の創造性を広げたいと考えていたところだったから。過去の栄光にすがるんじゃなく、ゼロから興味のあることに挑戦したかった。

H:3年前の取材時も、最も関心を寄せるのはストップモーション動画だと話していたけど、いまもやってる?

M:まだやってるよ。でも、没頭してたのは最初の2年間くらいかな。当初、3秒の動画を撮るのに丸1日かかってた。

H:その昔、ラッパーのタイラー・ザ・クリエイターがストップモーション動画を作る企画のなかで「忍耐が必要」と言っていました。そしてウェス・アンダーソン監督のストップモーション映画『犬ヶ島』は、スタッフ670人が445日をかけ撮影。制作年数は4年かかったと。

M:本当に忍耐が必要な作業だよ、ストップモーション動画は。当時、ブランド広告を作成するビデオ制作会社「ヴィジュアル・カントリー」で働いていたんだけど、上達するまでの過程の長さに打ちのめされたのを覚えている。

H:ストップモーション動画制作では、スナップチャット・フィルムメーカーの活動は役立ちました?

M:もちろん。スナップチャット・フィルムメーカー時代は企画考案から撮影、編集から編集後の業務まですべてを一人で担当していたから、そのノウハウは確実に役立った。スナップチャットではライブ配信もしていたから本番に強くなっていたし、失敗回避のため前準備をしっかりおこなう癖もついたし。

H:ビジネスの風向きが変わったら潔く手を引き、興味のあることにゼロから挑戦。これ、ハリスの強みだと思う。というのも、こういった決断って簡単ではないしリスクだって伴う。その決断力と実行力はすごい。

M:でもね、サクッと行動しているように見えるけど、実は水面下でしっかりタイミングを見計らっていたんだよ。

H:と、言うと?

M:スナップチャット・フィルムメーカーを辞める前は、次に挑戦したいことについての知識をユーチューブでしっかり学んでいた。そして「いまだ!」と思ったタイミングで乗り換える。僕の周りのクリエイティブだってそう。本職を持って貯金しつつ、サイドプロジェクトを遂行する。写真をやっている友人なら、平日はオフィスで働いて週末にマタニティ写真を撮ったりね。そしてタイミングを見計らい、うまくそちらに移行する。

H:これまでの知識と技術を活かして、他のソーシャルメディアに参入しようとは思わなかった?

M:それはなかった。承認欲求が溢れるソーシャルメディアに対する情熱がなくなっていたんだよね。フィルムメーカーをやめる直前は、週末になるとスマホからソーシャルメディア系アプリを削除して過ごしていたくらい。

H:ソーシャルメディア業界の第一線で働いたゆえ、ソーシャルメディアに疲弊してしまった。

M:『デジタル・ミニマリズム』という本、読んだことある?

H:ないです。

M:インスタグラム、ツイッター、フェイスブックのエンジニアとの取材を通して書かれているんだけど、彼らはソーシャルメディアはスロットマシーンのように、あらかじめ中毒性が生まれるようデザインしていると語っている。僕は余計に、そんな中毒性にとらわれた作品作りではなくて、ただ自分のいいと思うものを作りたいと思うようになって。

H:スナップチャット・フィルムメーカー引退直後は、どう過ごしていたの?

M:インスタグラムでずっとフォローしていたロサンゼルスを拠点に活動する現代アーティスト「The Most Famous Artist(最も有名なアーティスト)」こと、マティー・モにアシスタントの求人はないか連絡したんだ。ラッキーなことに「ちょうど人を探している」と返事があって。その翌日にはロサンゼルス行きの航空券を買ったよ。

H:あら偶然。ヒープスでも、マティーを取材して取りあげています。異端の現代アーティストですよね。

M:フリマで古臭い無名の油絵を買って、その上からスプレーでアートを描き足して、新しい作品を作り上げたりね。6、7年前に彼の「アートをどうインスタグラムで販売するか」についての取材記事を見て以来、ファンだったんだ。ロサンゼルスでは友人宅で寝泊まりして、4ヶ月間彼の元で働いた。

H:4ヶ月も。

M:ずっと、自分のアート作品を販売することに興味があったんだ。でもその手法をググるもなかなかいい記事はヒットせず、ユーチューブでもピンと来るチュートリアル動画が見つからなかった。だから実際に実践しているマティーの元で学ぶことにしたわけ。いまでは親友であり兄弟みたいな関係。

H:ハリスのインスタには「村上隆の『お花』をモチーフにした絵文字コラージュ」や「ミッキーマウスを形どった薔薇細工」、「1600万円で落札され話題になったバナナアートのパロディ作品」や「サイコロで作った『イヴ・サンローラン』のロゴ」だったり、さまざまなアート作品が投稿されている。中には「SOLD(売れた)」作品もいくつか。現在の活動に肩書きをつけるとしたら?

M:うーん、クリエーターかな。

H:薔薇細工、ハリスの作品の中でも目立ちますね。

M:花でアート作品を作る花屋兼アーティスト、ミスター・フラワー・ファンタスティックに影響されてね。アマゾンで薔薇の造花を注文して、作りはじめた。当時ははすでにスタジオを引き払っていたから、自宅アパートの室内でできる手軽さもよかったんだ。

H:スナップチャット動画制作では、企業やブランドのテーマやディレクションありきで作品を作っていたけど、いまは全部自分でコンセプトやデザインを決められる。同じ制作でも全然違うと思う。どうです、楽しんでます?

M:楽しんでいると同時に、いまの自分が制作できるものには限界があるとも感じている。僕は大学でアートを専攻していたわけでも、アーティストとしてのバックグランドもないからね。制作自体はもちろん好きなんだけど、自分の作ったものがどうも好きになれず、目を背けたくなることだってある。そして次は何ができるかと、目移りすることも多い。

H:だからインスタグラムに投稿される作品の幅も広いんだ。いまもすでに、何か違うことにも興味を持ちはじめている?

M:いまはいろんなアートに挑戦して、まだまだ自分を模索中という感じ。ニューヨークの自宅アパートに未完成の作品があるから、まずはそれを仕上げたい。いつニューヨークに戻れるか未定だけどね。

H:現在パンデミックを追い風に、ティックトック登録者が急増中。フィルムメーカー時代に培ったノウハウを活かし、ティックトックでビデオを投稿しようとは思わない?

M:実は、シークレットアカウント持ってるんだ。

H:えっ。

M:アカウント名は「Peep This Video(ピープ・ディス・ビデオ。“このビデオ、のぞき見してみ”)」。フォロワーは1万人以上いる。これは自分の動画は一切投稿せず、人気動画や僕がいいなと思った動画をリポストするだけのアーカイブアカウント。

H:フィルムメーカーとして仕事を獲得するためのアカウントではない?

M:ではないね。どのくらいフォロワーが伸びるのか、興味本位で実験的に初めてみたんだ。確かにいま、ティックトックは大流行している。でも、あと何年、人々は息の合ったダンスを見ることに夢中でいられると思う? やはり先は長くないと僕は思うよ。

H:ティックトックのフォロワーは1万人以上、対して、昨年末からはじめたインスタグラムのフォロワーは338人、ユーチューブのサブスクライバーは183人。スナップチャット・フィルムメーカー時代から比べたら少ない。この時代に生きるクリエイティブとして、SNSフォロワーが多いとなにかと役立つこともあるといわれるけど、特に執着してない?

M:インスタグラムは別アカウントをはしらせていたんだ、フォロワーは8,000人ほどいたかな。

H:ほぅ。

M:でもそのアカウント、フェイクやボットが多くて削除した。僕はセレブみたいに1億人のフォロワーのいいねをもらうより、目の前の300人にいいと思ってもらえる方が作品の質の向上に繋がると思ってる。これからは自分が納得できて、ファンを魅了できる作品作りに専念していきたい。自分のペースでコツコツとね。

***
Aonisai 017:

ハリス・マーコウィッツ(Harris Markowitz)
1992年生まれ。
大学卒業後、ソーシャルメディアマーケティングの会社を2、3社渡り歩き、23歳でブランド・プランナーとしてツイッターに就職。
その後ツイッターを辞めて独立。24歳のとき、スナップチャット・フィルムメーカーとして注目を集め、ソーシャルメディア向けのクリエイティブな動画コンテンツを制作する「シリアル・プロダクション」を立ち上げた。
現在はクラフトを中心に、クリエイターとして幅広く活動中。

@harris.markowitz

All Images via Harris Markowitz
Text by Yu Takamichi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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