かしこまらないときにこそできる話があって、そういうものは大抵、理想の行数にはおさまらない。これだって取材ではあるものの、いつものより肩の力を抜いて、メモにとらわれず記事のできあがりも気にせず、ただ話してみたらどんなことを聞けるんだろう。
数字のことやただしさも一度据え置いて。もしかしたら明日明後日には変わっているかもしれない、その人が今日感じている手前のリアルについてを記録していきます。とりとめのないことこそ行間の白にこぼさないように、なるべくそのまま。【XVoices—今日それぞれのリアル】シリーズ、今回は、近年大きな動きみせる気候変動にまつわるリアルを、3回にわたって届けます。
「環境の変化に気づいている女性は多いと思います。でも、それが“気候変動のせい”という認識はないのです」。いつも水を汲みに行っている湖が乾き、少し遠い湖に行かなくてはならなくなった。いつも薪を取りに行く森がなくなり、少し離れた森に出向かなければいけなくなった。それは、途上国の女性たち、たとえば、アフリカの小さな農村で生活する女性たちが、日々、直面している状況だという。
先進国で活動する気候変動のアクティビストたちの声や、危機的状況に陥ったホッキョクグマの姿も、気候変動や環境問題、地球温暖化のリアルだが、自然の変化により生活を変化せざるを得ない発展途上国の人々の暮らしもまた、それらのリアルだ。特に、家の一切の仕事をこなし生活を守る役割をもつ途上国の女性たちが気候変動の被害を受けているということは、見落とされがちだ。
気候変動がもたらす途上国の女性たちのリアリティを知るため、今回話を聞いたのは、アフリカを拠点にしたエネルギー・スタートアップ「ソーラー・シスター」。2009年に、米国人とインド人の女性二人組が創立。電力供給が足らず、日常のエネルギー源のほとんどを有害な燃料に頼っているサブサハラ(サハラ砂漠より南の地域)にて、クリーンで再生可能なエネルギーを提供することを目的とする。おもに力を入れるのが「気候変動によって影響を受けた、“エネルギーが乏しいコミュニティ”」への提供だ。また、このクリーンエネルギーに代替するためのプロダクトの提供・販売を、現地の女性たちに託し、“ビジネス”として担ってもらう。つまり、農村地帯、貧困地域の女性たちを“クリーンエネルギー*起業家”としてトレーニングし、起業やビジネスを通して、彼女たちが経済的に自立することも目指す。気候変動に左右される生活のリアルを、ソーラーシスターの活動についてとともに、同社のナイジェリア支部プログラムディレクターであるオラシンボ氏に聞いた。
*二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)などの有害物質を排出しない、または排出量の少ないエネルギー源。
HEAPS(以下、H): アフリカ諸国、たとえば、あなたが住んでいるナイジェリアでは、気候変動や環境問題の影響でどんな被害があるのでしょう?
Olasimbo Sojinrin(以下、O):ナイジェリアの東部では、洪水が頻繁に起きるようになりました。洪水により、破壊されてしまった農場やコミュニティもあります。また、干ばつによる砂漠化が進んでいる地域もあります。サハラ砂漠の近い北部では、木の伐採が相次ぎ、森林破壊が進んでいますね。
H:森林減少は、炭素排出量を増やし気候変動を加速化させるという主張や、森林破壊によって、樹木に蓄えられていた二酸化炭素が大気中に放出され、気候変動へと繋がるという見解もありますよね。他に、日々感じる環境の変化はありますか。
O:気温が上がったことです。暑い季節が、ますます暑くなったと感じています。特に農業に従事している人々は、変化に気づくでしょう。雨季と乾季があるナイジェリアでは、雨季に種を撒き、乾季に収穫をするのですが、気候変動が原因で、この時期がずれることや、いままでに比べて期間が短くなってしまうという問題に直面しています。
H:降水量の多い雨季が短くなれば、育つ作物も育たなくなり、収穫量も減る。このような環境の変化、そして人為的な環境破壊は、貧困地域の女性たちの生活には具体的にどんな影響を及ぼしているのでしょう?
O:生活に必要な水や薪木を調達するために、いままでより遠くまで行かなくてはならなくなりました。遠出をしなければならなくなると、他の家事をする時間や家族と費やす時間が少なくなります。というのも、アフリカのコミュニティでは、水や薪木の調達は、女性や若い女性たちの仕事です。料理などの家事も彼女たちがすること。
H:これらの地域において、男性より女性の方が気候変動の影響を受けやすいのは、社会的・文化的な背景があると。
O:それに、多くの男性たちは(気候の変化により作物の収穫量が減り、そのぶん収入を増やすため)、都市部に出稼ぎをしています。そのため、農村地帯に残された女性たちが家を守る。気候変動による環境の変化に直面することが多いのは、女性たちなのです。
H:実際に現地の女性たちを見ていて感じる、彼女たちがもつ苦労はどんなものでしょう。
O:水や薪木をとるために、数時間歩いて行く必要があるということは、つまり、それだけ女性たちの「安全面」の問題点が浮上してきます。外を出歩く時間が長くなれば、女性を狙った暴行などの被害に巻き込まれる確率も高くなる。自らの安全面に不安を感じる女性たちを見てきました。
H: 実際に毎日の生活で環境の変化を経験している農村地帯の女性たちに、自分たちは「気候変動や環境問題の被害を受けている」という認識はある?
O:彼女たちは、「気候変動」という言葉は知らないかもしれません。でも、環境の変化は、日々肌で感じていると思います。
H:ソーラーシスターは、気候変動の影響を受けやすい「エネルギーに乏しいコミュニティ」にクリーンな再生可能エネルギーを届けることで、現地の女性を助けています。この「エネルギーの乏しいコミュニティ」というのは、どういう状況ですか?
O:農村地帯では、電力が十分に普及していないため、家庭のエネルギー源としていまだに有害で危険な燃料を使っています。灯油ですね。灯油は、料理や電気など、家庭内での使用に本来使われるべきではないのですが、家庭の電力として普及しています。この灯油が原因で、家の火災がおこってしまったり、料理中の煙から出た炭素を吸い込んでしまったりと、取り扱うのが危険な燃料でもあるんです。
H:当然、この危険なエネルギー源を取り扱うのは、家事一般を取り仕切る女性たち。
O:先ほども話したように、森林破壊や干ばつなどによって、料理や灯りなど生活に必要なリソース(薪木、水)へのアクセスが制限されてしまいます。エネルギーが乏しい=気候変動による影響をもろに受けてしまう、ということなのです。
H:ソーラーシスターは、それらエネルギー不足のコミュニティに、どのようにしてクリーンエネルギーを提供しているのですか?
O:太陽光発電で稼働するランプや懐中電灯、扇風機、ラジオなどの家電電子機器や、通常の半分以下の燃料(薪木や木炭)で使用することができる料理用コンロ、汚水をも飲料水に変えてしまう家庭用浄水器などのプロダクトを提供しています。
H:それらプロダクトを通して、現地の女性たちにビジネスチャンスをあたえているということですが、仕組みについても教えてください。
O:独自の「ソーラーシスター・ビジネス」をおこなっています。農村地帯の女性たちに、これらのクリーンエネルギー関連プロダクトのビジネスに関わってもらうのです。まずはプログラムに参加する女性たちをリクルートすることからはじめます。一年にわたって毎月、クリーンエネルギー、再生可能エネルギー、気候変動などについての教育トレーニング、そして起業についてのメンターシップをおこなう。トレーニング後は、それぞれ自分たちのビジネスを立ち上げ、クリーンエネルギープロダクトをエネルギー不足のコミュニティに販売してもらいます。マイクロビジネスといったところです。
H:ソーラーシスターに参加している女性たちのコミュニティ、つまり農村地帯の家庭にとってこれらプロダクトは 手の届く価格?
O: 初期投資はありますが、一回プロダクトを買ってしまえば、灯油を毎日買わなくてもいいのです。長い目で見れば、エネルギーにかかるコストを節約できることができます。「最初は出費があるかもしれないが、長期的には出費を節約できる」ということを、村の女性たちに教えています。これまで灯油などをはじめとしたエネルギー関連の出費は、世帯所得の3割から4割を占めていましたから。
H:人体にも環境にも悪いエネルギーへのコストが家庭を圧迫していたんですね。ソーラーシスターの活動によって、女性の生活が向上したエピソードがウェブサイトにいくつか書かれています。たくさんの子どもを抱えるナイジェリアやタンザニアの農家の女性たちが、クリーンエネルギーの製品を地元コミュニティに販売し得た収入で生計を立てたり、教育費や家の維持費へと回すことができたり。オラシンボさんが実際に感じた、クリーンエネルギーによる農村の生活の変化は?
O:夜に農村を訪ねると顕著です。以前は家や外の屋台などは灯油のランプを吊り下げていましたが、いまみんなの自宅にともるのは、太陽光発電で稼働するソーラーランプです。また、その昔は、薪木などの燃料を調達するために、週3回は遠くまで出向かなければいけませんでした。いまは、週1回行けばいいんです。
H:ソーラーパワーや低燃費の家電が、環境の変化に左右される女性たちの生活を少しずつ変えているのですね。
O:幼い女の子たちが、燃料調達のお手伝いがすることも、ずっと減ったといいますよ。エネルギーについての教育も進んでいて、「クリーンなエネルギー=自分たちの安全」という認識が高まっています。
Interview with Olasimbo Sojinrin of Solar Sister
All images via Solar Sister
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine