10代と暴動。人種と音楽のムーブメント〈RAR〉、当時の証言と映像でたどる『白い暴動』監督インタビュー

レンタル配信もスタートした映画『白い暴動』。「混沌とした世の中でこそ、自身で考え、声をあげることの大切さを知ってもらいたい」
Share
Tweet

「学校で起こるほとんどのケンカは、人種差別が原因なんだ。たんなる嫉妬や嫌悪じゃなくて」

レポーターが差し出したマイクに向かって一人の学生がそう話す。人種差別や階級主義に覆われた70年代の英国で、「Love Music, Hate Racism(音楽を愛せよ、人種差別を憎めよ)」を掲げて人種差別撤廃のために動いた団体がある。SNSなき時代、アングラ紙や音楽誌、街中のポスターや人種ごった混ぜのライブを媒介に、互いが巻き込み巻き込まれて大きなムーブメントとなる。その最中、多くの10代の姿もあった。

「有色人種たちの子どもたちにとっては恐ろしい時代だったと思います」

「白い暴動」という言葉にピンと来たら、パンク好きだろう。ロンドンパンクバンド、ザ・クラッシュの代表曲のタイトルだ。そして今年、「白い暴動」は“映画のタイトル”としても世に放たれる。BBCで複数のドキュメンタリーを手がけてきたルビカ・シャーが監督を務めた社会派音楽ドキュメンタリー映画『白い暴動』として。同映画は、日本でも今月に封切りされた(詳しくは記事末尾で)。

 1970年代後半の英国にて、人種差別への抗議活動をおこなった団体「ロック・アゲインスト・レイシズム(RAR)」の歴史と活動を、当時のメンバーの証言や、デモやフェスティバルの様子を捉えた写真・映像とともに辿った作品だ。

(RARについて詳しくは、▶︎「ステージとフロアの上でぶち壊した「音楽と人種の壁」パンクとレゲエ、白と黒が混ざり合った音楽ムーブメント、あの5年間(1)」)。


Photograph by Syd Shelton

Photograph by Ray Stevenson

 RARは、76年から81年のあいだ、新聞の発行や反人種差別を掲げるバンドのライブ開催などを通して、草の根で人種差別反対運動をおこなってきた。

 当時の英国では、極右組織「ナショナル・フロント(イギリス国民戦線、NF)」が勢力を伸ばし、国民的ミュージシャンのエリック・クラプトンやデヴィッド・ボウイが人種差別発言やファシズムへの同調を公言。カリブ系移民が多いロンドンのノッティングヒル地区で、人種対立が深刻化し移民の祭典「ノッティング・ヒル・カーニバル」で暴動が勃発。アジア系移民が多い地区では、差別主義者の白人の若者が、アジア系ティーネージャーを殺害する事件も起きた。

「人種差別は、大人だけでなく若者たちをも攻撃する、そして引き裂くための道具として、極右たちによって濫用(らんよう)されました」と、シャー監督。自身もロンドンのアジア系移民の家庭に生まれ、人種差別に直面した両親をもつ。「多くのティーンネージャーたちが右翼のプロパガンダに影響を受け、人種差別主義者たちは有色人種たちに暴力をふるいました。有色人種たちの子どもたちにとっては恐ろしい時代だったと思います。悪口のような軽いものからひどい暴力まで、人種差別的な攻撃を日常的に受ける恐れがありましたから」。


パンクバンドのファンも二極化。社会や政治の流れに翻弄される若者たち

 当時、若者たちにカルト的な信者を増やしていたのが、ザ・クラッシュだった。彼らが歌う内容は、失業や若者の孤立感について。そして公言する。「俺たちは、反ファシズム*、反暴力、そして反人種差別主義だ」。ザ・クラッシュや彼らと同じ考えをもつミュージシャンたちは「若者たちが一様に抱えるフラストレーションを代弁しました。パンクは、当時の若者の“言語”でしたから」。

 しかし、若者に人気のパンクバンドのなかには、不覚にも「ファシスト」たちを惹きつけてしまったバンドもあった。たとえば、白人パンクバンドの「シャム69」。彼らのファンには、人種差別主義者の若者たちもいたという。同映画のなかの当時の映像でも、極右組織NFの集会や行進に参加する若者の姿が見受けられる。

*ファシズム:民主主義や平等、合理主義を否定する権威主義の考え。市民の自由や人権を無視する主義を掲げ、反対派を弾圧する独裁主義・全体主義の思想、政治体制や運動を指す。

 その裏にあったのは、若者たちをう取り込もうと精を出すNFの活動だ。「NFは、メンバー集めのため、学校へと赴き、学生たちを勧誘していたと聞きます。右翼の思想が若者たちに魅力的に聞こえるように、NFはファンジンも出版していました。これらに影響を受けた若者もいましたね。それから、親や友人の政治的思想の影響を受ける人も」。NFは、学校の前で自分たちの新聞を配り、通りでもティーンたちをリクルートをしていたという。


 それに対し、同映画のなかでは「NFの考え方には反対している。学校で勧誘するのをやめさせたい」という学生の意見もある。「NFと闘う方法をみんなで話し合いましょう。黒人も白人も関係ない」というビラをばらまく、反ナチの学生の会もあった。

 人種差別的な思想や煽りが、さまざまな知識や価値観を吸収して自我や感性を形成する過程にいる若者を強引に巻き込めば、人種差別に反対する若いクリエイターが結集し音楽好きの若者たちとともに、人種差別撤廃のためにRARを推し進めていく。


アングラ紙、ポスター、音楽誌の広告。二次元から、無数の若者たちの目に

「RARはパンクでした」。RARは、パンクバンドなどを撮っていたフォトグラファーのレッド・ソーンダズが「『人種差別に対して闘おう』と呼びかける声明文を複数の音楽誌に送りつけた」ことからはじまった。
 ソーンダズが中心となって、ミュージシャンやフォトグラファー、デザイナー、アーティスト、ライター、印刷所のスタッフが有志で集まる。「彼らの多くは、RAR結成前から繋がっていました。アートスクールや印刷所などですでに知り合っていたので。また、ロンドンには、同じような思想をもった人たちに出会えるパブやクラブもあったらしいですね」。事務所はロンドン。そこには、全国からRARを支持する若者たちの声が手紙として届く。「RARのバッジを送ってください」「15歳のレゲエ好きの白人男性です」「偏見をもつヤツには反吐が出る」「私の恋人は黒人男性ですが、なにを言われても気にしません」。

 RARが若き同志たちを集めることができた“武器”が、自費出版で発行したインディペンデント・アングラ機関紙『テンポラリー・ホーディング』だ。当時、パンクのグラフィックデザインを手がけていたデザイナーがデザインを請け負ったとなれば、セックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』のアルバムジャケットごとく、文字や写真がカット&ペーストで乱れる。


テンポラリー・ホーディングの制作チーム。

RAR創立者のレッド・ソーンダズ。

 同紙には、RARが主催したライブのレポートや、ジョニー・ロットン(元セックス・ピストルズ、PIL)や、ザ・クラッシュ、ギャング・オブ・フォーなどRARに賛同するミュージシャンたちに「いまの政治情勢についてどう思うか」を直撃したインタビュー、ミュージシャンからの「嫌がらせに負けるな」というエール、バンドたちの写真をコラージュした見開き、反ナチ学生同盟の紹介に、全国各地で開催したRAR主催ライブのガイドライン。

「『テンポラリー・ホーディング』のビジュアルや音楽、政治、生活に関する記事は、目を見張るものがあります。こんなことをしている新聞、当時はありませんでしたから!」。同紙はライブ会場やデモの開催地で販売され、多くの若者たちの手に渡った。

 若者の目をたのしませながらも、人種差別反対を強く訴えるRAR。より多くの若者たちに自分たちの活動を広めようと、当時、若者たちの人気を誇っていた音楽雑誌『NME』と『メロディーメーカー』へ団体の声明文や情報を送り、載せてもらった。「当時、音楽誌は、RARがリーチしたいオーディエンスにリーチしている媒体でした」。

 現代の若者の情報拡散ツールであるソーシャルメディアは、当然のことながら当時は存在しない。同映画のなかでソーンダズは「我々のようなアンダーグラウンドの団体は、ロンドンをポスターで埋め尽くした」という。そこには、「権力を持つのは金持ち連中だけ」「街をうろつく俺たちは反抗する勇気もない」「教えられたことをただやっているだけ」「白い暴動、暴動を起こしたい」と叫ぶ、ザ・クラッシュの『白い暴動』の歌詞が印刷されていた。



何十万人もの若者の耳に届いた、そして今年も届くRARの髄

「黒人と白人の団結を!」。RARが主催したライブのフロアには、白人と黒人、あらゆる人種の若者たちが集まる。それはステージの上でもいえること。スティール・パルスやミスティ・イン・ルーツなど黒人のレゲエバンドから、スティッフ・リトル・フィンガーズ、バズコックなど白人のパンクバンド、“英国初のアジア系メンバーを含むパンクバンド”と呼ばれたエイリアン・カルチャーまで、若いメンバーで構成されるバンドたちが、「白人=パンク、黒人=レゲエ」のでたらめ方程式をぶち壊そうとした。

 そして、1978年4月30日。RARは、ロンドンのトラファルガー広場から人種差別がはびこる地区イーストエンドまで、パンクスからドレッドヘアまで約10万人による大規模な行進を成功させる。フィナーレのヴィクトリア公園でのコンサートには、ザ・クラッシュらバンドが、若者たちの鬱憤と焦燥と怒りと希望、そして人種差別への反骨を叫んだ。そしてその叫びは、2020年も、スクリーンを通して、世界中の若者へと届く。


Photograph by Syd Shelton


Photograph by Ray Stevenson

「RARの存在は、いまの英国の若い世代にはあまり知られていません」とシャー監督は言う。「ですので、この映画を英国で公開するのがたのしみです。RARの草の根精神を捉えたこの映画を通して、いまの若者たちへ『君たちもムーブメントを起こすことができる』という手引書を渡したいですね」

Interview with Rubika Shah


ルビカ・シャー監督。

『白い暴動』

オフィシャルウェブサイト

4月3日(金)より公開
※現在レンタル配信も実施中。詳しくは下部へ。

出演:レッド・ソーンダズ、ロジャー・ハドル、ケイト・ウェブ、ザ・クラッシュ、トム・ロビンソン、シャム69、スティール・パルス他

監督:ルビカ・シャー(『Let‘s Dance: Bowie Down Under』※短編)

2019|イギリス|英語|84分
原題:WHITE RIOT|日本語字幕:堀上香|字幕監修:ピーター・バラカン
配給:ツイン

※コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言発出により全国の上映劇場が休館。作品の鑑賞が難しくなったことを受け、4月17日(金)から各動画配信サービスでレンタル配信中。

■期間:4月17日~5月15日
■配信プラットフォーム

アップリンク・クラウド、Amazonプライムビデオ、GYAO!ストア、クランクイン!ビデオ、COCORO VIDEO(ココロビデオ)、 TSUTAYA TV 、DMM動画、dTV、ひかりTV、ビデオマーケット、ビデックスJP、ムービーフルplus、music.jp、U-NEXT、 RakutenTV 他。

※配信開始日、価格は配信サービスによって異なる場合あり。詳しくは各配信サービスへ。








—————
Eyecatch Image: Photograph by Syd Shelton
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load