“飲まない”は、つまらなくない。デート相手も趣味友だちも「飲まない人」と出会いたい〈アルコールフリー×ソーシャルアプリ〉

「Live Sober. Love Sober. (アルコール抜きで生きよう。アルコール抜きを愛そう)」
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“ノンアルコールドリンク”の台頭に“ノンアルコールバー”の出現など、「飲まない」選択が市民権を得たいま。恋のお相手から趣味の合う友だち探しまで、「飲まない」を焦点に人を繋げるアプリに注目が集まる。目指すは「アルコールフリーでも、たのしい」の一歩先、「アルコールフリーって、たのしい」という体験を広げることだという。

〈デーティングアプリ × ミートアップ〉?「飲まない」人たちを繋ぐアプリ

「酒を飲まないなんて、人生のたのしみの半分を失っているようなもの」。なのだろうか。こういった発言が、いよいよ化石化しだした昨今、「飲まない」人たちを繋ぐアプリが脚光を集めている。

 2018年に創立された米国発のアプリ「ルースィッド(Loosid)」は、「飲まない(sober、ソーバー)」をキーワードにした、出会いと集いのプラットフォームだ。デートの相手から共通の趣味を持つ友だちやコミュニティ、また、旅行のパートナー探しまで、幅広く「アルコールフリーの出会い」をユーザーに提供する。いわば、〈デーティングアプリ〉と共通の趣味や目的のもとに集まるプラットフォーム〈ミートアップ(Meetup)〉を兼ね備えた、飲まない人のためのソーシャルアプリだといえる。

 出会い方は既存のマッチングアプリと同様で、名前と居住地などを含めた自己紹介プロフィールを作成して登録し、マッチすれば出会えるというもの。異なる点は、なぜこのアプリを使いたいと思ったか、つまり、なぜ飲まない人と繋がりたいのか、への回答をすること。「Recovery(アルコール依存症克服)」「Curious(好奇心から)」「Other(その他)」を選択する。アルゴリズムが提案する候補者をスワイプし、マッチしたらメッセージの交換を開始する。

 自分の居住エリアに住むメンバーに友だち申請すると(フェイスブックと同じ要領)、アプリ上でチャットできる「フレンド」機能も。マッチした人たちが逢瀬を重ねやすいように、モクテル(ノンアルコールのカクテル)などのノンアルコールドリンクで飲まない人を歓迎する全米のレストランやバー、ベニューをリストアップした「ブーズレス(アルコールなし)ガイド」なるものも提供している。
 そのほか「コミュニティチャット」機能では、飲まないライフスタイルに興味のある人に向けたスレッドや、メディテーションやマインドフルネスに興味のある人に向けたもの、アルコール依存症克服を希望する人に向けのものがある。


(出典:Loosid Official Website

 
 共同創立者のMJ・ゴットリープ氏は、アプリを運営する目的を「『飲まない』という選択に対するスティグマの打破」だと話す。日本と同様に、米国にも「飲めない」=「つまらない、ノリが悪い」「人生のたのしみの半分を失っている」といったスティグマが存在してきたという。たとえば、「え、飲めないの?」と言われたら、「飲めないんですよー」と申し訳なさそうな顔をする。これがデフォルトの社会では、ソーシャルの場では飲むのが当たり前だと思っている人が強者。飲む人たちの「飲めないの?」は、下戸や飲まない人にとっては、ただの質問ではなく、“こちらの基準に合わせられないのか” という「圧力」にも度々なり得る。

 飲まないことを「恥ずかしく感じたり、申し訳なく思う必要はない」とゴットリープ氏。いわく「米国人の約3分の1は飲まない」「約8,000万人が飲まないライフスタイルを実践している」そう。飲まない選択の背景には、健康のためや宗教的、道徳的な理由のほか、飲んでいないときのクリアな思考状態の方が好きだから、というものあるそうだ。

「飲まなくてもたのしい」から「飲まないってたのしい」へ

 ここでルースイッドが明言するのは「飲まない選択は、必ずしも禁欲的なものではない」ということ。これまでに作られて来た“飲まない人”を繋ぐアプリは、アルコールや薬物依存症と闘う人たちを繋ぐ、という目的のものだった。ルースイッドもそのカテゴリに括られることが少なくないために、わざわざそう強調している。

 他のアプリとの違いとして、ゴットリープ氏はこう語る。「ルースィッド」はアルコールーフリーという依存症と闘う人にとっての安全な環境(セーフスペース)を提供し、克服を手助けする点では他のアプリと共通する。が、さらに広義に、より多くのユーザーの“飲まないライフスタイル”を充実させているのが新しい点だ、と。飲まないライフスタイルを実践する者同士のデートや友だち探しの機能を通して、『飲まないってたのしい』と感じられる体験を提供している。


@loosidapp

 アルコールフリーを「若者のトレンド」として扱うマーケターやメディアが急増する風潮には、賛否両論ある。「依存と必死で闘う人たちの存在や、アルコールの根本的な問題が見えにくくなる」と警告を鳴らす人たちも少なくない。健康のためや好奇心から「飲まない」選択をする人と、依存を断ち切るために「飲まない」生活を自分に課している人では、「アルコールフリー」の重みは大きく異なる。もっとも、後者にとって「飲まない」選択は気軽にできるものではなく、しなくてはならない死活問題。
 依存症、もしくはそれと隣り合わせの人たちにとって、視界にアルコールが入らないアルコールフリーの環境は、文字通りの「セーフゾーン(安全な場所)」だ。米国では、成人のうち12.7パーセントがアルコール依存症と診断されており、その割合は、実に8人に1人。診断を受けていない依存症の人もいることを考慮すれば、その数はもっと膨らむ。アルコール依存を克服したゴットリープ氏も自身の経験から、過去のインタビューでこの「セーフゾーン」の重要性については、同意を示してきた。
 だからこそ「アルコールを飲まない人」と「アルコールのない場所で集うためのアプリ」を開発したわけだが、ゴールは「依存症克服の手助け」だけではなく、上述の通り「飲まないことへのスティグマの打破」であり、「アルコールフリーはたのしい」を広めることだという。目指しているのは、「飲まなくてもたのしい」の一歩先の「飲まないってたのしい」。この意識が広がれば、アルコールフリーに関心を持つ人はさらに増えることが予想され、そうなれば、飲食店をはじめ、人が集まるソーシャルの場でもノンアルコールのオプションは増える。結果として、依存と闘う人たちにとっても外の世界が出かけやすい場所になるだろう。

 そんな近い未来を想定し、願望も込めてゴットリープ氏はこう言い切る。飲まない人、もしくは飲まないライフスタイルに興味のある人を対象としているとはいえ、排他的でも、禁欲的でも、ニッチなコミュニティを目指しているわけでもなく、これは「インクルーシブなアプリです」と。

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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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