CO2排出量を「見る」。仮想世界に“黒い立方体”で可視化された二酸化炭素排出量を、感覚で捉える学習ゲーム

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
Share
Tweet

新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

環境問題に関するデータや報道で、どうもイメージしづらいのが「二酸化炭素排出量〇〇トン」。かなり膨大な量には違いないのだろうが、数値でいわれたとしても二酸化炭素の量を想像するのは、難しい。想像が難しければ、実感をともなった関心を持つことも難しくなる。

もしこれらの数値を、可視化することができたら? ゲーム「Seeing CO2」は、二酸化炭素が可視化された世界を作りだす。プレイヤーは、二酸化炭素を目で見て感じることができるのだ。

大きくて黒い立方体の世界を駆けぬける

「2019年、僕たちは、約350億トンのCO2を大気に放出した。これは実際、僕たちの目にどのように見え、僕たちはどのように感じることができるのだろう」

 学びと遊びの掛け合わせを得意とするニューヨークのデザインスタジオ「エクストラオーディナリー・ファシリティー(Extraordinary Facility)」が開発したのは、オープンワールド*ゲームのプロトタイプ「Seeing CO2」。炭素排出量を学び、その世界で遊ぶゲームだ。

*ひとつなぎの大きな仮想世界を舞台に、プレイヤーが自由に動き回って遊べるレベルデザイン。


 Seeing CO2の世界では、プレイヤーは小さな青いバンに乗って、広大なオープンワールドを自由に移動し、冒険する。すると、なにやら数々の「黒くて大きい立方体」に出会う。この謎の立方体が「二酸化炭素排出量」を可視化したものだ(以下、⬛️)。その大きさを現実世界のサイズ感でとらえるために、(⬛️)の横には現実世界に存在する世界のランドマークがそびえる。

 たとえば「100キロトンのCO2(⬛️)」の隣にはエッフェル塔があり、「10億トンのCO2(⬛️)」の隣にはエベレストがある。10億トンの立方体の一辺(縦)は8.2キロメートル。エベレストの頂上までが約8.8キロメートルなので、そびえる高さはほぼ同じということになる。「100キロトンのCO2」とはエッフェル塔とほとんど同等のサイズ感で、「10億トンのCO2」とはエベレストと、ほぼ同等。果てしないサイズ感なのが伝わってくる。
 10億トンの二酸化炭素を“感じる”ため、(⬛️)をの頂上近くまでバンを走って登らせ、同じ目線から世界を見渡すことが可能だ。

 “大陸”をまたいで、ヨーロッパ最大といわれるポーランドのベウハトゥフ発電所をモデルとした石炭火力発電所にも見に行くことができる。発電所から毎秒ポコポコと排出されているのは「1トンのCO2(⬛️)」だ。
 Seeing CO2の世界には、世界中の国旗を示す柱が連なっており、そこには各国1人あたりのCO2排出量のデータも記載されている。柱は排出量順に並んでいるため、プレイヤーはバンを走らせながら、比較していくことができる。

「ゲームの世界にたまたま存在する、記事や公開情報」

 黒い立方体が二酸化炭素排出量であることを忘れたら、世界旅行をしているようなゲームだが、Seeing CO2を設計したブラウン氏は、Seeing CO2を必ずしも「ゲーム」だとはみなしていないという。

「(ゲームというか)ゲームの世界にたまたま存在する、記事や公開情報という感じですね。 印刷物やアニメーションでそれを表現することもできました。が、ゲームの世界が現代のポップカルチャーを支配していることを考えると、このようなデザインをすることが文化的にもいいのかなと思いました」

 勝ち負けが判定されるゲームや敵を倒していくゲームとは違い、仮想の世界にある現実の環境問題を目で“感じる”というものだ。ゲームで遊ぶというより、ビジュアルの世界を動きまわり「二酸化炭素排出量がどれだけ膨大なものなのか」を感覚で体験するという印象。

 目に見えることのない二酸化炭素の脅威をバーチャル世界のなかで感じる。黒い立方体が転がる世界は、視覚を通してこれからの世界を生きるすべてのプレイヤーに、大きな説得を試みている。

—————
All Images via Extraordinary Facility
Text by Shunsuke Kanazawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

↓↓↓毎日お知らせ含めて配信中。HEAPS(ヒープス)の公式ツイッター↓↓↓

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load