米スターバックス、逆転狙う一手は「制服ゆる化」。従業員が「脱・スタバの人」でローカル・カフェを目指す?

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言われてみれば、「緑のエプロン」の下は、たいてい黒の無地シャツだった。下はカーキか黒の無地のコットンパンツだったか。
カウンターごしのスターバックス店員が、何を着ているのか。正直これまで意識して見たことはなかった。それは、どの店舗でも、同じエプロン、同じ様な服装、全員が「店員」という均一な存在だったからだと思う。

スタバ店員がヒップスター化?「self-expression(自己表現)」はじめます。

 今年7月、米コーヒーチェーン大手スターバックス(以下、スタバ)が発表した従業員の「新ドレスコード」。
「あなたらしいスタイルで、あなたらしく働くことを応援します」という従業員へのメッセージからはじまるそれは、PDF15ページにもわたる。

 イメージ写真が示す「あなたらしいスタイル」というのが、どうも某人気サードウェーブコーヒー店のバリスタのような、中折れ帽やボウタイをした俗に言われる「ヒップスター」である点にはツッコミを入れたくなるが、大手チェーン店としては新しい試みである。

 それまで、エプロンの下は、黒、白、カーキの無地のアイテムのみ。マンハッタンやブルックリンの店舗で最もよく見かけたのは「黒シャツにカーキの綿パン」といった、ユニクロ(ではないかもしれないが)スタイルだったと記憶する。

 改定後は、チェックやストライプ柄のシャツ、デニムの着用可能になるほか、帽子やネクタイ、スカーフといった小物の着用も「可」となる。その他のアクセサリーは「モデスト(控えめな)であれば」が条件。口内ピアスは不可だが、小さな鼻ピアスは可、など規定は細かい。ちなみに、タトゥーは顔と首以外の部分に入っているものなら隠さなくていいが、性的、猥せつ的なもの、人種差別的なもの等は不可とのこと。
(以下、PDFより)

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同じ格好をしたロボットより、ローカルの人間から買いたい。

 スタバで働く店員は、性別も年齢もバラバラ。特に、マンハッタンのような大都市にあるスタバでは、学生、ミュージシャン、アーティスト、子持ち、いろいろな人が働く。だが、同じような服装に制服のエプロンを重ねた途端、みな一様に「スタバらしい店員」に生まれかわるから不思議だ。
 均一な店員。統一感。それが消費者に、ある種の「安心感」や「特別感」を与えたいのだと思っていたが…。

「できるだけ作り手の顔が見えるこだわりの○○を選択する」「あの人から買いたい」と、消費者がブランドとの間に「パーソナルな交流」を求めるようになって久しい。毎日のコーヒーも、同じ格好をした“ロボット”から買うより、「らしさ」溢れる人間から買いたいと。

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 スタバ店員の「self-expression(自己表現)」を応援する新ドレスコード。それは従業員のためだけでなく、こうした新たな消費者の欲求に応えるために生まれたもの、という見方もできる。

 米紙ワシントン・ポストは、「ドレスコード改定後は、各店舗が、よりその土地や地元らしさを醸す様になるだろう」と論じている。たとえば、ニューヨークシティと、米国中西部のカレッジタウン、マイアミビーチでは、スタバ店員たちの年齢や人種、文化も異なる。同紙は、その違いが着こなしや接客スタイルに反映されるとし、今後スターバックスは、チェーン店でありながらも、より地域密着型の空間に変わっていくだろうと予想する。確かに、店員が「スターバックスの人」ではなく「地元の人」という印象に変われば、消費者との間にパーソナルな交流は、築きやすくなるかもしれない。

時代は「More Personal(もっと自分らしく)」

 優れたカスタマー・エクスペリエンスの創出とパーソナルな交流を実現するには、マニュアル通りのことしかできないロボット人間ではなく、臨機応変な対応ができるクリエイティブな人材が必要になる。
 これまでにもスタバは、ヘルスベネフィット(医療給付)や週20時間以上勤務する米国内従業員に対し、オンラインでの大学学位取得のための授業料負担や財政支援を行うなど、ほかのリテールにはない魅力的な特典を儲けてきた。そして、今度はドレスコードの緩和。

これは、
「“特典”をもらう=企業の奴隷になる、ってことでしょ?(=クールじゃない)」と考える人々、主に若者を振り向かせるために打った「次の一手」のようにも感じる。

 近年、才能ある若い人材の獲得には「ドレスコードの緩和」が有効になっていくのではないか、という見方は強い。その根拠によく挙げられるのがミレニアルズの「スーツや制服ではなく、クローゼットの中にある自分らしい服で働くことを好む」という意識調査の結果。
 スターバックスは、頻繁に学生や若い人材を雇うことでも知られている。それだけに、今回のドレスコード緩和が、人材獲得や企業成長にどう影響するのかに注目している企業は少なくない。

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 かつて存在したスタバでコーヒーを買うことへの「高揚感」はいったいどこへ? と時々思う。SNS上に「スタバで一息つく私/俺」をアップするニューヨーカーはもう皆無に等しい。付加価値のついた上質でこだわりのサードウェーブコーヒーが広まって以来、消費者のスタバに対する意識は変わった。「チェーン店=イケテナイ」は言い過ぎかもしれないが、格下げされた印象だ。
 チェーン店をチェーン店たらしめる要因だった「均一な店員」が、「self-expression(自己表現)」をしはじめたらどうなるのか。進化するスタバから、今後も目が離せない。

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Text by Chiyo Yamauchi

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