アプリで実現、都市のご近所「下町づき合い」。ポートランドの損得勘定ナシで続くコミュニティづくり

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アメリカの若者の間で広がりを見せている「ペイ・イット・フォワード」ムーブメント。その一環として、ポートランド近郊で急速にメンバーを増やしている「The Rooster(ルースター)」というコミュニティサービスがある。これまでと大きく違う点は、金銭の介入がなく、善意で成り立っている、というところだ。

Team photo

裏庭から大声で呼びかけられるような、ご近所づき合い

 近年、よく耳にする「ペイ・イット・フォワード」ムーブメント 。日本語で「恩送り」とも呼ばれ、受けた親切を別の人につないでいく、“優しさの輪を広げる運動”のこと。たとえば、コーヒーショップで誰かが次の人のコーヒー代も一緒に支払うと、おごってもらった次の人が、その次の人の分を支払う。そんな善意の連鎖が生まれていると、よくニュースになっている。

「ルースター」も、ペイ・イット・フォワードムーブメントをモットーに2014年、カリフォルニア州ベイエリア発のコミュニティの相互援助サービスだ。翌年にはオレゴン州ポートランド近郊にもサービスを拡大。既に4万人以上が参加する。

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こんなに!

「絵を壁にかけるために電動ドリルをちょっとだけ借りたい」「庭の巨木になったリンゴをお裾分けしたい」とか、「うちの迷子の子犬を見かけたら連絡してほしい」なんていうことをルースターのサイト上で、メンバーであるご近所さんに声をかけてみよう。すると、手を貸せる人が返事をしてくれる、という仕組みだ。

 先で述べたが、何といっても「ペイ・イット・フォーワード」をモットーにしながらも、金銭のやりとりをしない、という、他のコミュニティ系サービスと決定的に異なるルールがある。

早速メンバーになってみた

 どうせなら、と自宅のあるサウス・ウエストポートランド地区のルースター・コミュニティにメンバー登録してみた。掲示板には、毎日いくつものオファーや依頼がアップされている。

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こんな感じ。

 いらなくなった洗濯機やキャビネット、ウエディングドレス、ピアノ、庭の柿といったものから、ヘアカットや算数、プログラミング言語を教えるよ、といったオファー。おしゃべりするお友だちやジョギング仲間、引っ越しの手伝いや飼えなくなったペットの里親を求めるポストもある。ハロウィンの時には、老人ホームの職員から、子どもたちと「トリック&トリート」しに来てね、といった訪問を依頼する声もあった。
 
 自分のできることがあれば、直接メンバーとメールをやり取りし、詳細を詰めていく。その自分のできること、で近隣のとのおつきあいがあちこちではじまっていく。

砂漠の村でのようなおつき合い

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 ルースターのファウンダーでCEOのタリが生まれ育ったのは、イスラエルの人口たった2000人という砂漠の村。誰もが顔見知りという地域コミュニティの価値を、アメリカに移住してからも常に意識していたという。
「友情や善意で繋がる小さなコミュニティに、ずーっと、“執着”してきたの」と笑う彼女に、せっかくなので話しを聞いてみた。

H(HEAPS、以下H):イスラエルの小さな村では、普通に行われているんだろうけど、ルースターの核「見返りを期待しないで、人のために、自分ができることをする」という考え方は、大都市でも受け入れられている?

T(Tali Saar、以下T):イスラエルだけじゃなくて、世界の文化を見ても、できることをする、あるものを分ける、という考え方があるでしょう? アフリカの部族なんかが有名よ。それは田舎に限ったことじゃないと思うの。都会でも、人はやっぱり一人じゃ生きていけない。人と関わること、コミュニティの一員となることへの根源的なニーズがあると思う。

カリフォルニアで「ルースター」のようなサービスをはじめようかってときに、夫がメーリングリストをコーディングして、参加希望者を募ったの。SNS上で友だちの友だち…という具合に広がって、3ヶ月で1000人もの登録があった。驚くほどニーズがあるとわかって、すごく勇気づけられたわ。

ちなみに最初のポストは、夫と私の祝日のポットラック(持ち寄り)ディナーへ誘うものだったの。カリフォルニアに引っ越したばかりで友だちもいないし、近所づき合いもなかったんだけど…会ったこともない8人が我が家に集まった。楽しい時間を過ごして、これをきっかけに友だちができたわ!

H:こういう金銭ではなく、人の優しさをベースにした“贈り合う”経済、「ギフト経済」へ関心を持つのは、やっぱり若いミレニアル世代が中心?

T:運営チームは30代前半で、確かに中心になっているけれど、ルースターに登録している人の年代は幅広いわ。家族が増えているの、特にママが多いわね。

H:なぜルースターでは、「無料」にこだわっているの?

T:たとえば、要らなくなったものがあるとするじゃない? 売ることもできるけど、それで得るいくらかのお金よりも、欲しいって人にあげて、「嬉しい」「ありがとう」「大切にする!」と、使ってもらうことの方が価値があると思うから。
エコだし、気持ちも豊かになるし、人ともビジネス以外の形で知り合えるでしょう?

H:年代によって「ルースター」の受け止め方に違いなどあったり?

T:言われてみれば、あるかも!

「昔ながらの」近所付き合いの記憶がある人たちは、失ってしまったコミュニティ感を取りもどせるんだ!と、歓迎しているみたい。

一方で、そんな近所付き合いをしたことがない若者たちも、ルースターに賛同してくれている。ネットの普及で実際の人付き合いが少なくなり、孤立してしまったと感じる人が増えているから。

H:なるほど。「ギフト経済」は、これからの社会の姿になり得るかな?

T:私の周りでは、ルースターへの賛同の声もすごく多いし、その方向へ向かっている気はする。
「カウチサーフィン」※って知ってる? Airbnbがポピュラーになる前の話だけど、夫とこのサービスを使って、ホテルではなく誰かの家に泊めてもらって旅行していたの。だから、旅先では必ず地元の人に出会って、友情を築くことができた。見知らぬ誰かに無償で自分の家を解放して、地元のことを教えてあげたいって人がいる。もちろん、その地元の声を聞きたいという人がいて関係が生まれる。テクノロジーが、そんな人たちをつなげる時代よ。

※無償で人の家に泊まりたい人と泊めてあげたい人をつなぐサービス

H:理想的な社会かもしれないけど、難しいとは思わない?

T:うん、まあね。でも少なくとも、大企業より地元密着型のスモールビジネスを見直したい、という動きは、各地でおこっていると思う。Airbnbやウーバー、リフトみたいに、個人が自分の家や車を解放して、自由に時間を使ってお金を稼ぐ「シェアリング・エコノミー」がトレンドだし、これからも増えていくんじゃないかな。

H:ルースターをはじめて良かったと思えた出来事、特別な一つを教えて。

T:ポートランドのユーザーの話でね。料理が大好きな30代の女性なんだけど、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患ってしまったの。彼女は、ポートランドに引っ越したばかりで知り合いもいなかった。それで、ルースターを通して「無料お料理教室開催!ALSのせいで体が不自由になってきて、できないこともあるけれど、一緒に料理とおしゃべりを楽しみたい方、連絡してください!」って呼びかけたの。たった2日で50人が集まったんだって。彼女たちは、クッキング・クラブを作り、素敵な友情を育んでいるわ。

H:いい話!ルースターが広がっていくといいですね。

お金では買えないのが友情。裏庭で雄鶏(ルースター)がなくように声を上げれば、近所の誰かが気軽に手を差し伸べるような、温かい人とのつながりを育むことを目指している。

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Photos Via The Rooster
Text by Rika Higashi

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