手持ちのカードは5枚。どう使うかで勝負は変わる。
D.I.Y.での部屋大改造は、ポーカーに少し似ている。訪ねたのは、ブルックリンのボーラムヒル地区で暮らす、Adam Finkelman(アダム・フィン ケルマン)とEvan Garfield(エヴァン・ガーフィールド)の家。寝台列車を思わせるほどの小さい部屋は、ダブルベッド一床分ほどだろうか。好き好んで極小のベッドルームを作り、そのかわり仲間を呼べる大きなスペースを確保。「理想のライフスタイルを手に入れた」と話すアダムとエヴァン。部屋のポテンシャルと、生活のプライオリティを見直し、合致点を探しあてた。彼らが証明した「広さよりアイデア」は、都会暮らしの鉄則だ。さあ、自分史最高の部屋暮らしを実現しよう。
“広々、居心地の良いマイルーム”はいらない
デザイン会社を立ち上げたばかりのアダムと、ミュージシャンのエヴァン。「僕らはいま、経済的に余裕があるわけじゃない。あれこれ手に入れようとするのは禁物。特にニューヨークみたいな生活費のかかる街だとなおさら。けれど、自分の生活スタイルにおいて、何を優先にするのかを明確にして、本当に欲しいものを確実に手に入れていければ、充足感に満ちた生活は可能だと思う」。二人の顔は、実に晴れやかである。
知識ゼロ、材料は拾いモノ
「部屋作りに必要な知識はほとんどインターネットから拾った」という。D.I.Y.素人、かつ低予算でも、どうやら、アイデアと根気次第で作れてしまうようだ。当初、リノベイト期間は「だいたい2ヶ月」と見積もっていたが、「やりはじめると、どんどんこだわりやアイデア、挑戦意欲が湧いてきて」と、結局、いまの完成型にたどり着くまでに約6ヶ月かかった。どれだけ時間がかかっても、アイデアを具現化させていく作業は「楽しかった」と、人に話したくなる思い出話は尽きない。
1:アダムとエヴァンは、大学時代は一緒にバンドを組んでいたという長年の友人同士。二人にとって、家で音楽が演奏できる「音だしOK」の同物件は、 理想そのものだった。「好きなだけリノベイトして、騒いでくれて結構」という大家の寛大な一言に、当初は2LDKの物件を探していたにもかかわらず、
「スペースそのものに大きなポテンシャルを感じて」即決。ちなみに家賃は月2,200ドル(約26万4,000円)。
2:生活のほとんどは、外、もしくはリビングで過ごすことが多い二人にとって、広いベッドルームは不要。「その分、友人を呼べる広い共有スペースが欲しい」と、意見は一致していた。最初は、自分たちが住みやすい空間にすることをメインに考えていた二人。だが、作業を進めていくにつれ、達成感と手間暇かけた愛着から、「せっかくだから、もっと有効活用させたい」という新たな意欲が湧いていった。
3:ベッドルームエリアはアダムが担当。道で拾った廃材や、掲示板を使って、必要な材料を安く揃えた。自作のベッドルームをインターネット上で公開したところ、反響が大きかったことから、今後はさらに「Air bnbもはじめよう」と計画中。宿泊者が滞在中は、彼らはガレージをベッドルームとして使うそうだ。
4:キッチンエリアはエヴァンによるD.I.Y.大工。小物棚など収納機能も抜群で使いやすさも考慮。
元“ただのガレージ”が、金の卵に改築費用については、「貯金を使った」というより「先行投資した」という感覚。スペースを有効活用し、二人は「副収入」を得ている。改築費用は「3ヶ月で回収できた」ほど。とりわけ実益に繋がっているのが、ガレージスペース。防音壁を取り付けたため、自身のバンドの練習場所やパフォーマンスステージとして、また、ダイニング及びパーティースペースとして機能するように。そのため、「今まで払っていたバンドのスタジオレンタル料が浮き、さらにレンタルスペースとして貸し出すことで収入も見込める」という。
料理のスキルを活かし、ケータリング付きのプライベートパーティースペースとして貸し出したり、Feastly(フィーストリー)などのSNSを利用しサパークラブ(食事会)を開催。「レストランでのシェフ経験はないけれど、独自のやり方で趣味と実益を兼ねた仕事ができるって満足度も高い」とエヴァン。自社で行っている廃材で作るインテリア・デザイン・プロジェクト『Yorkwood Furniture Co.』も、このD.I.Y.リノベイト経験によって磨かれた部分が大きい」とアダム。趣味を上手く仕事に還元しているようだ。
Adam Finkelman (アダム・フィンケルマン) 2012年にYorkwood Co.を設立。 廃材を使ったサステイナブルなインテリアのデザインから設計、マネジメントまで幅広く行う。 yorkwoodco.com Evan Garfield(エヴァン・ガーフィールド) ドラマーであり、子どものためのミュージックセラピスト。 料理はあくまで趣味だったが、今の理想のキッチンを手に入れ、シェフとしてFeastlyで本格的にスタート。