花屋の売れ残りで「染める」。自宅のキッチンで生まれる花の手染めブランド「Natural Dye(ナチュラル・ダイ)」

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花屋さんの売れ残った花は、どうなるのか。
パーティーや結婚式を彩った花はその後、どうなるのか。

「その花、捨てるのでしたら、いただけませんか」

地元の花屋から売れ残った花を回収し、それらを染料に、自宅のキッチンで染め物を行っているのは、ブルックリン在住の染め物アーティストCara Marie Piazza(カラ・マリエ・ピアッザ。以下、カラ)。

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「ブルックリン」で、「リクレイム」フラワーで。期待を裏切らないビジュアル

 生地の上にドライフラワーを散らし、クルクルと巻き込んで棒状にし、糸で縛る作業は、簡素静寂の境地。「無音」に耐えきれず、私は思わず「ティーセレモニーのような、瞑想的な作業だね」と、適当なことを口走ってしまった。すると、「そう、wabi-sabi(わびさび)ね!」と、カラは向日葵のような笑顔を返してくれた。

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 ブルックリンにあるカラの自宅兼アトリエ。扉を開けると、室内は上品なホワイトセージの香りに包まれていた。草や花など自然界にある天然染料を使って手染めする「Natural Dye(ナチュラル・ダイ)」。「自宅のキッチンスペースで行っている」という彼女の「わびさび」は、一挙一動が絵になる。
 というのも、インテリア、使う道後、身につけるもの、そしても、作るモノ、すべてが調和しており、抜群にセンスが良い。「Natural Dye(ナチュラル・ダイ)」という言葉がイメージさせる直球のナチュラル系、ニューエイジ系に傾倒していないのもポイント。なんというか、パサパサしていない。

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サステイナブルなモノづくりも、ダサけりゃ響かない。

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 使用する材料はオールナチュラルで、すべてハンドメイド。サステナブルな手染めブランド『calyx(ケイリックス)』を15年末に立ち上げて以来、彼女への仕事の依頼は右肩上がりに伸びている。特に「思い出とともに、ブーケも一生モノにしませんか?」とはじめた、結婚式で会場を彩った生花を、オリジナルの着物(はおりもの)に染色するアイデアが好評を得ているのだとか。

 ただ、「成長の要因はエココンシャスにあり」かと思いきや、そうではないらしい。ファッションデザイナーやクライアントが彼女を選ぶ理由は、「私がエココンシャスなものづくりをしているからではなく、あくまでも、デザインを気に入ってもらえたから」。
 どんなに環境に優しいものを作ったところで、「デザインがイマイチでは、より多くの人の心に響かない」ときっぱり。

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 彼女のエココンシャスなモノづくりは、クライアントや消費者にとって「副産物みたいなもの」。誰だって環境に良いことには関わりたい。100パーセントとはいかずとも、間接的にでもかかわれるのであれば、その方がいいよね、といったところか。ただ「それはそれでいい」という。「個人の意識が変わること、スモールステップって大切だから」

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罪深き、モノづくり?

 そもそも彼女が「ナチュラル・ダイ」を選んだのは、「これなら、モノづくりをやっても罪悪感を覚えずにすむ、と思ったから」だという。リクレイムフラワーを使うようになったのも「罪悪感を覚えなくてすむから」と。
「作りたいモノを作れば作るほど、環境破壊に加担してしまうことに、ジレンマを感じていた」と、カラはいう。

 糸や生地を染める際に使われる合成化学染料は、水質汚染を引き起こす。「それに生物のホルモンの働きを狂わせる、ホルムアルデヒドや有毒性の金属などの発癌物質が含まれています」。そのことを知って以来、彼女は化学染料を使うこと、また、消費することへの背徳感が加速したという。
 当時、大学でテキスタイルを学んでいた彼女は、とある授業で、草や花など自然界にある天然染料を使って染める、いわば、化学染料が開発される前の天然染色方法に出会った。「これなら罪悪感なしに、モノづくりができる!」。彼女の中で、折り合いがついた瞬間だった。

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楽しくなければ、サステナブルじゃない

 生まれも育ちもマンハッタン。自他共に認める“シティ・ガール”は、「いまでこそ、私はサステナビリティとか、環境とか、服は古着しか買わない、とか言っているけれど、決して意識の高いヒッピー育ちではないし、所詮、都会生活が大好きなシティ・ガール。お洒落するのもパーティーも大好き。禁欲は性に合わないわ」と、屈託なく笑う。 

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 環境破壊につながること知ってしまった以上、知らないふりをするのは心が痛い。だから、「私は自分にできること、つまり、化学染料を使わない、ということをやっているだけ」。“環境の人”でも、“エッジーな思想を持つ人”でもない、と強調する。また、ナチュラル・ダイをやるなら、田舎の暮らしの方が適している。けれど都会生活の方が好きなら、そこは我慢しない方がいい、というのが彼女の考え方。「楽しくないと続けられないし、サステナブルじゃない」という。

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 モノが溢れた豊かな現代、極論、環境保全の視点に立てば、モノなんて作らない方がいいのかもしれない。けれど、作りたい、というのが人の常。ならば「できるだけ、自然環境に迷惑がかからならないよう努めます」という宣言し、配慮のあるモノづくりなら「やってもいいよね?」

 と、自然に聞いてみたところで、水も草木も、うんともすんとも言わないのだが、なんだろう、罪悪感からスッと解放される。「宿題やるからテレビゲームやっていいよね?」「ピーマン食べるから、あとでアイスクリーム食べていいよね?」にも似た、蓋を開けてみたら、プラマイゼロなのだが、環境にも自分にも優しい着地点。まずは、自分もプロマイゼロからはじめてみたいと思う。

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calyx
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Instagram@caramariepiazza
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Photos by Hayato Takahashi
Text by Chiyo Yamauchi

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