モーツァルトやベートーヴェンなどが活躍した音楽の都、オーストリアの首都ウィーンは、美術のシーンが栄えた街でもある。七つの代表的な美術館の一つ、レオポルド美術館は、近代オーストリア美術における奇才画家エゴン・シーレや、革新的な表現を目指したオーストリアを代表するグスタフ・クリムトの作品を多く収蔵する。同館で現在開催中の『VIENNA 1900 Birth of Modernism』は、モダンアートが花開く1900年頃のウィーンの魅力と活気に満ちた時代が舞台だ。

20世紀の変わり目あたりのウィーンには、二極化する思想や経済的格差があふれていた。都市計画のために作られた環状道路と果てしなく続くスラム街。共存する高貴な貴族と自由主義の文化人たち。反ユダヤ主義とシオニズム（ユダヤ人国家建設運動）が混じり、厳格な保守主義と新興のモダニズムが誕生。
それゆえウィーンでは煌めきと卑しさ、夢と現実、自己の解放と新たな出発など、相反する要素を持ち合わせた作品が多く生まれたのである。こうした時代の変化は絵画やグラフィックアートのみならず、文学や音楽、演劇や建築、さらには医学や経済学に至るまで、まざまな分野に影響をあたえた。

同展を飾るのは、先述のエゴン・シーレが自身のヌードを描いた油彩画や、グスタフ・クリムトによる大胆な余白が目を引くポスター、建築家・工芸デザイナーのオットー・プルッチャーの鮮やかな色彩と精巧に作られた持ち手が特徴のワイングラスなど。他にも写真や陶磁器、装飾品や日用品といった約1,300点の作品が、３つの階をまたいで展示されている。

新型コロナウイルスの影響で長らく閉館していた同館だが、マスク着用や社会的距離を徹底し段階的に再開。ヨーロッパへの渡航は当面難しいが、デジタルスクリーンからも、さまざまな理念や感情、時勢に突き動かされたモダニズム誕生を十分にたのしむことはできるだろう。

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Text by Rin Takagi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine