英国文化が好きな人は「Tate(テート)」という言葉につい反応してしまうだろう。1500年から現代までの英国美術と国際的な近・現代美術のナショナルコレクション、約7万点以上の展示をおこなう組織だ。テートがもつ数あるギャラリーのなかの1つ、Tate Liverpool(テート・リヴァプール)でつい数日前まで開催されていた、英国人作家Lucy McKenzie(ルーシー・マッケンジー)の回顧展『Lucy McKenzie』を今週はお届けする。
マッケンジーは「トロンプ・ルイユ(フランス語で「目をだます、錯覚を起こさせる」)」と呼ばれるだまし絵の技法で知られる画家。2011年にはスコットランド人デザイナー、ベカ・リプスコムとともにアトリエE.B.を創立。アトリエE.B.は、ファッションレーベルとしても機能している。英国初の回顧展となる本展では、1997年から現在までにマッケンジーがそのキャリアを通じて関心を寄せてきたテーマに基づいた、大規模なインスタレーションや幻想的なだまし絵、そしてファッションやデザインなどの80点以上の作品が展示される。
過去20年間、マッケンジーは、国際スポーツに関するイコノグラフィー(図像学。絵画や彫刻などにおける神学的意味や美術的表現の由来などを明らかにする学問)から、戦後の壁画がもつ政治性を探求した作品、音楽のサブカルチャーに魅了された作品まで、幅広い歴史的瞬間と文脈から制作をおこなっている。ジェンダー・ポリティクスをテーマとした作品『Curious 1998』は、大衆メディアにおける女性アスリートのエロティシズムを浮き彫りにしている。また、ルーシーの作風がよくわかるのは、『May of Teck 2010』のような大規模なだまし絵のインスタレーション。アトリエE.B.の設立以降、次第にファッションや衣服へと作品の方向がシフトしていき、『Rebecca 2019』では展示されている服の二の次と見られがちな「マネキン」を制作し、高度なスキルが要らないと思われている“ウィンドウ・ドレッシング(ショーウィンドウの飾りつけ)”に対する認識を覆している。
マッケンジーの手にかかれば、身の回りにあるあらゆるテーマが、ちょっと違う目線、いままでもったことがなかった観点から浮き彫りになる。
© Lucy McKenzie. Photo: Courtesy of the artist and Cabinet London
© Lucy McKenzie. Photo courtesy of the artist; Galerie Buchholz, Cologne/Berlin/New York
© Lucy McKenzie. Udo and Anette Brandhorst Collection. Photo: Haydar Koyupinar, Bayerische Staatsgemäldesammlungen, Museum Brandhorst, Munich
Lucy McKenzie, Door 2 2000 © Lucy McKenzie. Courtesy the artist and Galerie Buchholz, Berlin/Cologne/New York
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Text by Ayumi Sugiura
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine