「トリエンナーレ」という耳慣れない言葉が、一気に多くの耳に届いたのが昨年夏。あいちトリエンナーレ2019の「表現の不自由展・その後」が急遽展示中止の騒ぎに追い込まれたときだ。トリエンナーレとは、3年ごとの国際的な大型芸術祭のことで、2年ごとだと「ビエンナーレ」と呼ぶ。これらの芸術祭は、開催場所によってさまざまな特徴があるのがたのしいところ。たとえば、最も歴史あるイタリア・ヴェネツィアのヴェネツィア・ビエンナーレは国際展示会として世界から有数のアーティストが集まることで有名。もっとローカル密着型なのは、新潟県の越後妻有アートトリエンナーレ。地域の自然や街全体を会場にしており、まちおこしにも一役買っている。
今回紹介するのは、この夏、オーストラリアのシドニーで開催中の『シドニー・ビエンナーレ2020』だ。テーマは「NIRIN」。同ビエンナーレの芸術監督を務めるブルック・アンドリューのルーツである先住民・ウィラジュリ族の言葉で「エッジ」という意味。昨年が「国際先住民族言語の年」だったことを受けての命名だ。
シドニーのビエンナーレの歴史は長い。1973年から50年近く続いており、2018年には開催史上最多となる85万人の来場者記録を達成した。22回目を迎える本展では、98組のアーティストが6つの展示会場にて作品を発表している。たとえば、ガーナ生まれのアーティスト、イブラヒム・マハマの麻袋を使った超大規模なイマーシブ(没入型)作品『No Friend but the Mountains』。展示場所のコカトゥー島(オーストラリア)に眠る、先住民アボリジニたちの重労働と投獄の歴史への思いを掻き立てる。シドニーのアーティスト、バーバラ・マグレディは、植民地化された土地で生きるアボリジニの多様な文化を膨大な量の写真を『Ngiyaningy Maran Yaliwaunga Ngaara-li (Our Ancestors Are Always Watching)』で見せていく。同じくシドニーのアーティスト、トニー・アルバートによるインスタレーション作品『Healing Land, Remembering Country』では、先住民族が作ったカゴや地域の植物などに囲まれながら、先住民族を巻き込む苦い歴史に思いを馳せることができる。
「現代の生活の裏には、解決されていない過去の不安や目に見えない超自然的なものがあります。NIRINではこれを明らかにするとともに、アーティストたちが世界の問題を解決し、癒し、切り放し、変革する力を持っていることを証明しようとしています」
開催期間は9月6日まで。人々が自宅からも鑑賞できるよう、世界初の“バーチャルビエンナーレ”を4月の時点から開催中だ(日本からでも「Google Arts & Culture」にて作品の写真や動画をオンライン上で閲覧可、また公式HPでは、各アーティストの詳細な紹介や、インタビュー動画も)。
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Text by Rin Takagi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine