マッケェンチーズ!呪文のように、魔法のように。胃袋を掴み、恋をも生むアメリカのソウルフード。A級ドラマのおいC、B級フード

シティの真ん中からこんにちは。ニュース、エンタメ、SNS、行き交う人から漏れるイキな英ボキャを知らせるHEAPS(ヒープス)のAZボキャブラリーズ。
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シリーズ「A級ドラマのおいC、B級フード」。人気海外テレビドラマの劇中に登場するB級フード(おやつも含む)と、それにまつわる英語を全4回にわたって紹介する。

小津安二郎監督の名作『秋刀魚の味』のトンカツや、マフィア映画『グッドフェローズ』のミートボールトマトソース煮込みなど、映画に登場する“映画飯”というものはたびたび紹介される。今回のシリーズでは、ちょっと変化球で、映画の代わりに「テレビドラマ」、飯の代わりに「B級フード(か、おやつ)」。“ドラマB級食”について、ときにシリアスに、ときにコミカルに、ときに愛をこめて言及する登場人物たちのセリフをかじってみたい。

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マカロニ・アンド・チーズ。マック・アンド・チーズ。マッケェーンチーズ。茹でたやわらかいマカロニに、塩味の効いたチーズソースを絡めたグラタン料理。アメリカ人が愛してやまないのがマッケェーンチーズ。この言い方は耳にさわるので、今回はすべてマック&チーズ(Mac&Cheese)表記で。チーズはチェダーチーズが一番いいですよ。ベーコンと玉ねぎを投下、なんて贅沢をしても構いません。日本ではあまり馴染みなし飯だと思うが、アメリカ人には必ず「ぼくわたしのマック&チーズ」があるでしょう。

ぼくわたしのマック&チーズ事例①「お母さんの得意飯」。アメリカのお母さんたちにとってマック&チーズは、好感度の高い料理だと思う。まずは、そこまで作るのが難しくない(それは凝ろうとすればするほど難しいが)。そして、必ず子どもたちに感謝される(アメリカの子どもたちはマック&チーズが大好物だ)。学校給食でも定番メニュー。

ぼくわたしのマック&チーズ事例②「つけあわせ飯」。フライドチキンのつけあわせとしてよく出てくる。日本のお皿でいったらマカロニサラダやコールスロー?

ぼくわたしのマック&チーズ事例③「だらしな飯」。土曜の夜、零時を回ったころ、だらだら観ていた映画(やドラマ)を止めて、「ちょっとお腹すいたな〜。なにかないかな…あ、インスタントのマック&チーズ(プリンのカップみたいのに入っている)がある。これでいいや」といって、再生ボタンを押して、パジャマ姿でぼさっと食べる飯。

アメリカのソウルフード、国民飯、ともいえるマック&チーズだが、元はといえば、高級料理だったらしい。一説には、アメリカ第3代大統領トーマス・ジェファーソンがフランス滞在中にイタリアのパスタに感銘を受け、マカロニ製造マシーンを作りマカロニを生成。そこにチーズを投入(ここがアメリカ的だな)、上流階級のパーティーでも振舞った。しかし、転機となったのが1929年の世界大恐慌。食料配給制となり、それでも腹を満たすため、みな配給チーズと安価なマカロニでマック&チーズをつくったそうな。

子どもから大人までの“みんなの飯”マック&チーズ。テレビドラマの登場人物たちもまるで空気を吐くかのごとく「マッケェーンチーズ」を言っています。

1、フレンズのジョーイ、勢い余って失言「I’m never gonna eat macaroni and cheese again!(金輪際、マック&チーズは食べない!)」

海外ドラマの代名詞的作品の一つ『フレンズ』。ニューヨークに住む「社会に出てもなかなか大人になれない」男女6人の恋愛や友情、仕事、毎日の暮らしを笑いで包み込んだ、シットコム(シチュエーションコメディ)だ。主人公たちは、女性陣はお嬢さま気質のレイチェル、しっかり者でおっかさんタイプのモニカ、不思議系ヒッピー女フィービー、男性陣は、女たらしのジョーイ、冗談好きのチャンドラー、インテリのロス。ブラピの元妻ジェニファー・アニストンがレイチェル役を演じたことが有名だ。1994年から2004年まで10年にわたり放映され、当初は1話につきおよそ2万2000ドル(約237万円)だった各キャストのギャラは、終盤では100万ドル(当時の日本円で約1億2000万円)まで上昇(驚愕)。

放映終了から15年経ったいまでも、フレンズのファンたちはネット上で「フレンズのベストシーン〇〇選」を繰り広げている。昨年の「フレンズ25周年」には、各所でフレンズ祭りが開催され、「大学生のときに寮のルームメートとみんなで一緒にみたわ。懐かしい」という往年のファンから、「どのドラマよりも好き」という若者世代の新規ファンがフレンズの世界を噛みしめたという。ちなみにレイチェルのヘアスタイルは「レイチェルカット」として当時全世界の女性の憧れだった。

『フレンズ』でも、マック&チーズが出てくる。しかし、実際のマック&チーズは出てこない。架空のテレビドラマ『マック&チーズ(Mac and C.H.E.E.S.E.)』のマック役をどうしてもゲットしたいジョーイが、こう熱く語るのだ。

It’s just, I want this part so much, you know? If I don’t get this part, I’m never gonna eat macaroni and cheese again! No, I didn’t say that! That doesn’t count. (ただこの役どうしてもやりたいんだよ。もしできないなら、金輪際、マック&チーズは食べないことにする。 いや、いまの発言は撤回だ)

勢いよく宣言したのに、やっぱりマカロニ&チーズを食べられないなんて無理だなんてジョーイ、そんなにマック&チーズが好きなら無理に宣言しなくてもよかったのに。ちなみに見事マック役をゲットしたのだが、みんなからの評価は散々で、ドラマ自体も不人気で打ち切りになった。

2、料理下手な主婦へ辛辣な「I just refused to believe that anybody can screw up macaroni and cheese.(マック&チーズを失敗する人なんているわけない)」

ウィステリア通り(架空)に住む郊外主婦たちの“崖っぷち”な毎日を、時にコメディタッチで、時にミステリーたっぷりに描いたドラマ『デスパレートな妻たち』、略して『デス妻』。1人の主婦メアリー・アリスの自殺からはじまるというスタートから暗雲が立ち込めたプロットには、揃いも揃ってクセのある登場人物が出てくる。絵本作家でシングルマザーのスーザン、マーサ・スチュワートばりの完璧主婦ブリー、元キャリアウーマンのリネット、玉の輿にのった元モデルのガブリエルが主な4人の主婦たち。そこに、それぞれの夫や子どもたち、古株のご近所さん(マクラスキーさん)、新しく引っ越してきた怪しげな住人らがいい味をきかせる。

エピソードは毎回かなりドロドロだ。浮気や痴話喧嘩はもちろんのこと、放火やひき逃げ、殺人、遺体発見など、笑えない本格サスペンスもあり。中毒性が高いドラマで、見はじめたら止まらない。個人的には中学時代の週末はデスパレートな妻たちウォッチ、と決め込んでいたくらいはまっていた。あれだけ見たのに思い出せるシーンはこれだけ。マクラスキーさんの友人で、竜巻に巻き込まれて死んでしまったアイダの遺灰を、リネットが遺言どおり野球場に撒く(警察が来ても逃げながら)シーンだ。今回紹介するマック&チーズのシーンは、残念ながら忘れてしまっていた。第一話の冒頭にあったらしい。

メアリー・アリスの葬式のあと、みんなで持ち寄りパーティーをする。料理が苦手なスーザンは、マック&チーズを持ってきた。それを、ウィステリア通りに引っ越して来たばかりのイケメン配管工のマイクが食べようとする。そこで作った張本人が「私だったら、それ食べないわ」。なんで? とマイク。なおも口に運ぼうとする。「待って待って、自殺願望でもあるの?」と必死に食べさせないようにするスーザン。そこでマイクはこう言う。

No, I just refused to believe that anybody can screw up macaroni and cheese.(いや、ないけど。ただマック&チーズを失敗する人なんているとは思えないからね)

一口食べて、後悔したマイク。「なんてことだ…。どうやったら、焦げてるのに生焼けのような感じになるんだ」。料理が苦手でも作れるマック&チーズですら失敗するスーザンです(正直、マック&チーズがそれほど簡単メニューではないと思うのは筆者だけだろうか)。のちに交際をはじめることになったスーザンとマイク、マック&チーズが2人を結んだのだろうか。

3、熱血消防士、救急隊員のお昼はアッツアツの「Chicken Mac and Cheese.(チキン入りマック&チーズ)」

マック&チーズが恋愛のきっかけになったドラマをもう一つ。シカゴ消防局51分署に所属する消防士や救急隊員たちの人命救助を描いたレスキュードラマ『シカゴ・ファイア』。2012年からスタートし、早8シーズン目に突入した。人気医療ドラマ『Dr.HOUSE』のジェシー・スペンサーや、レディーガガの元婚約者として話題になったテイラー・キニーなどが若き消防士たちを演じている。

シカゴ・ファイアの魅力には大きく2つある。まずは製作陣。製作総指揮には、刑事法廷ドラマの金字塔『LAW & ORDER / ロー・アンド・オーダー』シリーズのヒットメーカー、ディック・ウルフ。脚本には、『ワイルド・スピードX2』などで実力を見せつけた脚本家コンビ、デレク・ハースとマイケル・ブラント。テレビと映画のプロ級のプロたちのタッグで、大掛かりなアクションと詳細な人間ドラマを実現している。もう一つの魅力は、地元にこだわった製作。ハリウッドドラマは、たいていハリウッドのセットなどで撮影することが多いが、シカゴ・ファイアは舞台であるシカゴで撮影されている。劇中の消防署内の料理シーンも、実際のシカゴ消防局の分署の厨房を使用するなど徹底的なコミュニティ愛。これも、ロー・アンド・オーダーで全編にわたって舞台であるニューヨークでの撮影にこだわった(また市長など地元の有名人をカメオ出演させたほど)ディック・ウルフの手法が活かされてのことだ。

炎のように熱い彼らの仕事魂と人間ドラマが醍醐味のドラマだが、劇中に出てくるアッツアツのものが、電子レンジから出てきたばかりの「タッパーに入ったマック&チーズ」。女性救急救命士のドーソンが、お昼に用意していたものだ。彼女に片思いする消防隊の候補生ミルズがすかさず、「それナニ?」。

That is my leftovers. Chicken Mac and Cheese.(これ、残り物。チキン入りマック&チーズ)

「どこで買ったん?」と聞くミルズにドーソンは、「ばかたれ、私が作ったんじゃ」と自慢げ。「おばあちゃん直伝のレシピよ」。

レシピは秘密、と頑なだったが、後日ミルズが当てることになった。実家のダイナーを手伝っていたこともあり料理の腕があるミルズ、どんどん当てていく。「チキン、ベーコン、レッドペッパー、スイートオニオン、バター、オイル、オリーブオイル、グリュイエールチーズ…」。そして隠し味まで当ててしまった。それはなんと「ナツメグ」。ここから2人の距離は縮まった…。ミルズがすべて教えてくれたシカゴっ子のマック&チーズ、今週末にでも作ってみたらいかが。

次回のA級ドラマのおいC、B級フードは、
箱から食べるの、憧れたね
「チャイニーズフードのテイクアウト」。

マイナーだがドラマ好きには堪らない母娘のドラマや、
オタク男子とキュートな女子のコメディドラマ
に出てくるB級中のB級フードを箸でつまむ。

Eye Catch Illustration by Kana Motojima
Mac&Cheese Collage by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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