たとえばテニスボール。スポーツウェアとは違う、スポーツ用具の事情

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
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新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

そういえば、競技用のボールって昔から変わっていない、かも。

くすんだグレーのテニスボールをみてふと思う

 使用済みのペットボトルをリサイクルし、レギンスなどを製造するスポーツウェアブランド『Girlfriend Collective(ガールフレンド・コレクティブ)』。大手スポーツブランド『Adidas』は、リサイクル素材でつくられたランニングシューズ。スポーツに関するプロダクトにおけるサステナブル化のイメージがあるが、それらは例にあげた通り専ら“ウェア”。
「そういえば、スポーツ“用品”のほうって、どうなんだっけ」と思ったのは、テニスボールといえばのラインのない、くすんだグレーのテニスボール「Loop.(ループ)」を見つけたときだ。

 ドイツで設計されたテニスボール「Loop.」は、テニスラケットのストリング(ナイロン製)をリサイクルした素材のみでつくっていることをアピールしている。なんのこっちゃ、だが、「ひとつの素材でつくられているため、リサイクル可能である」ことをうたっている。
 つまりそれは、これまで使っていたテニスボールはリサイクルが難しい、ということ。一般的なスポーツ用具の多くは、ゴムや皮、ナイロンなどの複合素材を含むことが多く、それによってリサイクルが非常に困難になっている。
 テニスボールの多くは、ゴム、ナイロン(もしくは、ウール)を原料に使用。年間で3億2,500万個のテニスボールがアジアを中心に製造され、世界中で2万トンのゴムがテニスボールからのゴミとして検出されているらしい。2万トンといわれてもピンとこないが、アジアゾウ(およそ5トン)4,000頭分といわれると…とんでもない量であることはなんとなくわかる。

 定番の黄色いテニスボールは、ナイロンやウール性のフェルト生地で覆われているのに対し、「Loop.」は素材一種であるためにグレー、というわけだ。

公式の試合で使うのは難しそうだけど…

 競技に使われる道具において、機能性への重視や、従来のものと差異が使用へのリスクになることからも、代替品へのハードルの高さへの想像は難くない。
 気になる「Loop.」の機能性はどうだろうか。「積層造形(3Dデータから層の上に層を積み重ねる製造方法)を用いているから、ボールは正確な規則性を保っており、パフォーマンス能力は遜色なし。全側面でのボールの跳ね返り、飛行、衝撃の吸収はとても優秀」と設計者のキラは話している。

 一般的なボールは空気圧でボールの張りを保っているのに対し、「Loop.」は空気圧を一切使用しない構造になっている。そのため、ボールをどれだけ使用しても空気が抜ける心配は無用だ。

 使用済み「Loop.」を原料にまた新しい「Loop.」を生み出すことも可能だという。「Loop.」は「労働環境」についても言及している。スポーツ用のボールの多くは、おもにパキスタン、中国、タイ、ベトナムなどの工場で手作業で製造されているが、それらの工場の労働形態は、長時間労働・低所得・未成年の労働などの理由で近年問題視されている。「Loop.」は3Dプリンターひとつで製造できることから、従業員の稼働を最低限に抑えている。海外からの長距離郵送を避け、移動で発生する排気ガスの削減も可能だ。

 ボールなど、競技そのものに差し障る代替品の使用は「競技人個人の選択」で変えていけるウェアとはまた違った難しさがあると思う。が、“グレーのテニスボール”という存在から、まずは気づけることも多い。

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Text by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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