そんなふうには描けない。そこから生まれる“僕の宇宙”。シンプル、カラフル、イマジネーション、大人になって自由に描く生彩

「このイラストだからこそ人とは違う方向に進めるってこともあると思うんだ」
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最近のCGやハイクオリティーのアニメーションとは対照的な、のっぺりぺったりなカラフルなアニメーションに、思わず目をとめてじっくり見入ってしまった。懐かしい気がするけど、どこか新しい。このなんだか子どものお絵描きみたいな感じ、どっかで見たことあるんだよな…としばし考えて、昔のwindowsのペイントソフトのマウスで描いたピースを思いだす。最近のIGのストーリーで指で描いたやつっぽくもある。

よく見ればアニメーションは精い。ほぼ丸と点で構成されているぽゆんとしたぎこちないキャラクターは、しかし回転するディメンションをぐるぐると動き回ってゆく。いつまで見てても飽きない不思議なバランス感。かわいさと巧みさ、チープさと緻密さ。


『Curious World of Animals (2021)』

現実とファンタジーが混ざったような不思議な世界。ようこそ、アニメーター、ダンテ・サパリャ(Dante Zaballa)のゆるくも精細で活気溢れるお絵かきの世界へ。

みんなみたいには描けない。さて、自分のスタイルでいってみよう

「アニメーションのレッスンで先生にディズニーのキャラクターの絵を描けって言われたけど、あんなふうに描くこと、僕にはできなかった」。そう話すのはアルゼンチン人アニメーターのダンテ・サパリャ(Dante Zaballa)、36歳。現在はブルックリンを拠点に活動中。ダンテが制作するアニメーションはどれも子どものお絵かきの延長のような見かけをしている。太いフォントに、少しぎこちない仕上がり。原色っぽい色使い。

棒人間をまあるくしたキャラクターの、顔や表情はほぼ丸と点で構成されている。妙に惹かれるのは、このお絵描きっぽい絵たちが、饒舌なアニメーションとして再生される点にもある。かつてみたWindowsのペイントソフトで描いたペッタリとしたものたちが、快活にディメンションを動いてく姿に、痛快さも湧いてくる。


『Miranda! – El arte de recuperarte (2022)』

ダンテは、一コマ、一コマを手描きし、ひとつのアニメーションを完成させてゆく。時には、紙とクレヨンと絵具ですべて手描きのアニメーションを作り上げることもある。

これまでにClarksやNIKEなどのブランドともコラボアニメーションを制作してきた。NIKEとのコラボアニメーションでは世界で活躍する有名スポーツ選手たちが続々登場し、選手たちが人間からアニメーションに変化していく姿は見ていて楽しい。彼特有の色使いや、絵のタッチ、躍動感のある動きがなんだか愛おしく、嬉しくなってくる。


独学でアニメーションを学んできた。あまり自分のイラストに自信を持っていなかったと話すダンテだが、アニメーションに対する好奇心や愛は人一倍。いまでは「自身のアニメーションスタイルを受け入れた」といい、スタイルに磨きをかけている。

かわいい、楽しい、嬉しい、愛おしい、不思議、なんだかたまらない。

そんなシンプルな感情が湧いてくるダンテのアニメーションは、ダンテの「楽しくって、遊び心があって、観る人を驚かせるようなものを作りたい」という明快なモチベーションから生まれている。アニメーションのストーリーは「シンプル。紙に書き留めたとしても、一枚に収まる程度」。

取材にお邪魔した日、ダンテの部屋の壁に飾ってある彼作のイラストに「素敵だね!」と言うと「そうかな?」とニヤっとするダンテ。終始ニコニコ、ニヤニヤのダンテからは、なんだかゆる〜い雰囲気が漂っていた。アニメーター、ダンテの「みんなみたいには描けない」から生まれた、自分の絵の世界を直感でつくっていくアニメーションの制作裏、苦悩、楽しみかたについてを聞いてみた。


Dante Zaballa。取材時。

HEAPS(以下、H):さて。お絵描き、といえばの記憶は?

D:いつも父と母のパフォーマンスが終わるのをステージ裏で待っていた。よくお絵描きをして時間を潰していたのを覚えている。

H:ご両親はアーティストだったそうで。お母さんは、ポエム作家。お父さんは、俳優・ロックミュージシャン。子どもの頃からクリエイティブなものがすきだった?

D:アニメをたくさん見て、それを真似して描いてみたりしてた。悟空(ドラゴンボール)とか。あと、恐竜を緑色で描くのが好きだった。緑色がお気に入りの色なんだ。

H:恐竜はやっぱり緑だよね、トイストーリーのあいつみたいな感じ。本格的にアニメーターを目指したのはいつ頃?

D:大学でグラフィックデザインを専攻しはじめたとき。グラフィックデザインをはじめるたと同時に、なんだか遊び心がなくてつまらなく感じて、大学を辞めてアニメーションを独学で勉強しはじめることにしたんだ。僕の通っていた大学にはアニメーション専攻は無く、他の大学の学費は高かったから。

H:どんな感じで独学で勉強したんだろう、オンラインでクラスをとってみたり?

D:そうだね。オンラインで勉強したり、アニメーターの人に会って、その人から学んだり。僕の地元のヒーローはガブリエル・H・フェルマネリ(Gabriel H Fermanelli)。彼は尊敬するアニメーターのひとりで、よく僕の作品のフィードバックをくれたりもする。彼の家に行って、いろいろ教わった。

H:いつもどんな感じのプロセスでアニメーションを作るか教えて。

D:まずは、ペンと紙を使って、キャラクターを下書き。それから、コンピューターを開いて、各シーンのスタイルフレーム(アニメーションを制作に取り掛かる前に、用意するシーンごとの静止画)の制作に取り掛かる。すべてのシーンのスタイルフレームが完成したら、一コマずつ地道に描いていくんだ。アニメーションのオチとかは特に決めていない。いつも直感で描く。


H:どのアニメーションも明るくて、楽しいストーリーのものが多いよね。まず、ストーリーはいつもどのように生みだす?

D:ストーリーはね、深く考えすぎないようにしている。台本や絵コンテを用意するのって僕にとってはものすごくつまらない作業なんだ。
昔、台本を用意して制作に挑んだことがあったんだけれど、気づけば台本捨てちゃってた(笑)。いままでやってきたプロジェクトはどれもシンプルなストーリーばかりだよ。ストーリーを紙に書き留めたとしても、一枚の紙に収まる程度。これからもこのやり方だと思う。


H:いいね、シンプルだ。直感で作っていくとなると…元になるようなインスピレーションはどこから?

D:インスピレーションは、いつも現実から湧いてくる。自分の目で見たもの、もしくは自分が撮った写真や動画をみて描く。海にいるときは、海の絵が描きたくなる。大体いつも現実の世界からはじまって、でも気づけば僕のマインドがイマジネーションの世界にたどり着く(笑)

H:ダンテの作品をみているとなんだかMicrosoftのペイントソフトを思い出す…。丸い太いペンで描いたみたいなあの感じ。

D:実はね、それ僕が初めて使ったイラストツールだよ! あの質感、あの形、あのシンプルな感じ。色味はいかにもコンピューターの原色みたいなやつだよね。そうだね、うんうん(笑)


H:だから、あの感じが動いているとなんか感動するんだよね(笑)。いま、アニメーション制作をするときは何のツールを使っているの?

D:デジタルで作業をしはじめてからはアドビ・アニメイト(Adobe Animate)しか使ったことがない。あんまりアドビのペンの感じとか正直好きじゃないんだよね。ペンは荒いし、色は微妙だし。それでも、使い続けて、いまは慣れたからまあ問題なくなってきたんだけど。

H:紙に手描きでアニメーションを制作することもあるらしいね。

D:アクリル絵の具にクレヨンに鉛筆、それと紙で描いていくよ。これも大体は即興で描く。ひとつの絵を描いたら、乾くまで待つ。乾いたら、また新しい紙をさっきの紙の上に置いて、ライトテーブルの上で透かしながら次のコマを描く。すべてのコマが描けたら、スキャンして、Adobeのアフター・エフェクトで写真を繋げて構成する。

H:地道な作業だ。

D:すごく時間がかかるけれど、紙での作業は楽しい。道具に触れながら作業ができるし、スクリーンはあまり見なくていい。それにやり直しが効かないところも好き。もしなんか失敗したとしても、それはそれで仕方ないよねって。
最近は、コンピューターでの制作をやりすぎている気がする。最後に、手描きでアニメーションを作ったのは、2019年。アルゼンチン人シンガーソングライター、フアナ・モリーナ (Juana Molina)の楽曲『Paraguaya Punk(パラグアイ・パンク)』のミュージックビデオを作成したときだ。

H:ダンテのアニメーションはとても個性的で、遊び心が豊か。まるで子どものお絵かきの延長みたいにシンプルなキャラクターはとても愛嬌がある。

D:僕は、自分をイラストレーターだと思ったことはないんだ。学校のクラスで絵の描き方は習ったけれど、僕は遠近法とかもあんまりわからない。それに、人の手をどう描けばいいのかもわからない。初めてアニメーションのレッスンに行ったとき、「練習でディズニーのキャラクターを描いてみろ」って言われたんだ。でも、ディズニーのキャラクターはどれも複雑でしょう。僕はみんなみたいには絶対に描けないと思った。

H:そこで挫折しなかった。どのようにしていまのイラストスタイルにたどり着いたの?

D:友だちが助けてくれたんだ。僕のアーティスト友だちのイーゴリ・マロッタ(Ygor Marotta)は大きなキャンバスに、 とてもカラフルで表現力溢れる絵を描くんだ。彼が「君のやり方でいい。君のイラストはそのままで美しい」って言ってくれた。それで、自分のイラストに自信をもてるきっかけになって…。それからは自分にしかできないやり方で描くようになったよ。もし、自分のイラストスキルを不便に感じたとしても、このイラストだからこそ人とは違う方向に進めるってこともあると思うんだ。


H:そうだね。私はダンテの作品が大好きです。どれもシンプルながらも、動きがとてもいきいきしていて、いい。シンプルなイラストと、このいきいきした動きとあの3D感がたまらないよ! 特に、短編アニメーション『My trip to Japan(2018)』は傑作。ダンテのイラストの世界にどんどん入り込んでいく感じ。

D:質感の表し方とかをすごく考えるんだ。背景がどんな感じなのかとかも。旅行の際、旅行用カメラを持って行くのが好きなんだ。絵のなかに入り込んで僕が案内しているみたいでしょ。3Dのようにみせるのがすごく好きなんだ。だから、できるだけ空間には力を入れる。


『My trip to Japan(2018)』

H:現実の場所を描いたシーンなのもわかりつつ、ダンテのファンタジー要素が盛り盛りで楽しい。

D:登場人物はなんだかぐわんぐわん揺れてて、なんだか不思議な感じでしょ。現実的ではないけれど、これもこれでいいでしょ(笑)?

H:とても。たくさんの看板が飛び出てくるところとか、警備員のオッチャンが案内しているシーンとか、特にぐわんぐわんする。あと、ダンテの色使いが気になる。本来の色の概念にとらわれずに、人間の肌を水色に塗ったり、山をオレンジに塗ったり。

D:夢を見ているかのような、トリップしたかのような感じに見せているんだ。空の色は青じゃなくて、紫に塗りたい。異世界にきたみたいな感じにしたいんだよ。見る人が「この人、白人だね」とかそういうことを考える次元じゃなくて…人だったたらもうピカッとしたイエローに塗る。そしたらもう、シンプソンズみたい、でしょ。アニメーションは、自分が見ている世界をつくる、自分の宇宙をつくりだすこと。



H:現実に非現実を混ぜているところ、好きだなあ。音声も入っていて、これもまたなんだか妙に抜けてていいんですよね。

D:イラストレーターの友達、フアン・モリネ(Juan Molinet)と一緒に日本に行ったんだけどね、彼がまたいいキャラしててね〜。よく話すし、話しかたが面白いでしょ。旅中はずっと彼を録音していたんだ。それで、最後に彼にこう告げた「旅中ずっと録音していたよ。一緒にアニメーションを作ろうよ」って。それで、念願の日本旅行に行けた記念の短編アニメーションになったんだ。

H:お気に入りのシーンは? 私はスナックで抱き合って歌ってた老人カップルが好き。

D:僕もそのシーンをいま考えていた。あの日、バーはどこも閉まっていて、1箇所音楽が聞こえる場所があったんだ。ドアを開けてみたら2人が部屋の真んなかで抱き合いながら、マイクで歌ってたんだよ。周りの人たちはその2人をじーっとみているんだよ。そしたら、彼らと目があって、ドアを閉めて走って逃げちゃった(笑)

H:(笑)。現在はスタイルも確立してフリーランスとして売れっ子だけど、大きなアニメーション制作会社で働こうと思ったことはない?

D:子どもの頃はピクサーで働きたいって夢があった。大きい会社で働いて映画を作りたいとも思っていたし。でもさ、大きな会社っていろんな部署ごとに分けられているし、その部署のなかでも役職ごとに分かれている。僕はひとつのことをやるんじゃなくって、もっと、ひろーい視野でものごとを見るのが好きなんだ。上司からお願いされたことをやるんじゃなくて、自分の感覚、自分の時間で作業をする。これが僕にとっては大きな喜びなんだ。


H:これから、どんな作品をつくっていきたい?

D:流動性のある、遊び心のあるアニメーションを作りたい。楽しくって、遊び心があって、観る人を驚かせるような。

Interview with Dante Zaballa



***
取材は、ダンテの仕事をする自宅にて。
アニメーションへの音づけなども自身で行うという彼に、いろいろと見せてもらった。































Photos by Kohei Kawashima
Text by Ayano Mori and HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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