競わずにヘルプしあう。“危ないスニーカー争奪戦”からは一線を引いて「やさしいスニーカーコミュニティ」をつくる

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
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新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

スニーカーを“安全に買う”って、なかなか難しい。その希少価値ゆえに暴力事件や転売ヤーによる不正取引がしばしばニュースになるなかで「最近スニーカーに興味を持ちはじめた女性のスニーカー好きは、どうやってスニーカーカルチャーをたのしんだらいい?」に取り組むサービスが増えている。

スニーカーカルチャーに潜む危険

「スニーカー収集は男性の趣味」という印象はまだまだある。近年では、シンガーソングライターのリアーナが手掛けるブランド「FENTY(フェンティ)」がプーマとのコラボ厚底スニーカーを発表したり、またジュエリーブランド「Ambush(アンブッシュ)」の女性デザイナーユンがナイキのダンク・ハイとコラボスニーカーを販売するなど、女性とスニーカーカルチャーの動きもある。が、スニーカーカルチャーには、印象だけでなくその構造に、これまでの “男性アスリートをモデルに男性デザイナーに作られ、男性ファンに消費される” サイクルが強く残っている。

 スニーカーカルチャーにおいて女性の活躍が目立つようになり、スニーカーに興味を持つ女性が増えている近年、「安全性」により目を向けられるようになった。そこには、男性中心のカルチャーにくわえ、スニーカーの価値が上がるにつれ問題視されてきた、暴力事件の危険や転売ヤーによる不正取引がある。

 スニーカーの入手方法は、大きくわけて2つ。販売店に直接出向いて購入するか、オンラインで購入するか。前者の場合、レア商品を求め大人数が一ヶ所に集まり長時間並ぶため、暴動事件に繋がる可能性がある。2011年、米国インディアナ州のショッピングモールでは、エア・ジョーダンを求め群衆が入り口を破壊し店内に押し入った。翌年ヒューストンでは、同じくエア・ジョーダンを巡り22歳の青年が射殺。日本でもその昔、エアマックス95を履いた人を襲撃し強奪する「エアマックス狩り」が社会問題になった。

 後者の「オンライン販売」は直接出向くわけではないのでより安全だが、原価に上乗せし転売することで利益を生む「転売ヤー」によるスニーカー独占やボットを使った不正行為が問題視されている。

※オンラインで商品を購入する際のプロセスを、自動化かつ円滑化してくれるプログラムのこと。ボットを使えば通常の何倍もの速さで商品を購入でき、早いもの勝ちの場合はほぼ確実に入手できる。それにより一般人は商品購入が困難に。


 そうした環境でも、女性が安全かつたのしくスニーカーカルチャーを探求できるようにと女性向けにスニーカー情報を発信するショップやサービスは近年続々と増えている。なかでも、今年ローンチした「SoleSavy’s Women’s Sneaker Community (ソール・セイビーズ・ウーマンズ・スニーカー・コミュニティ、以下SSWSC)」は、有料サービスにすることで安全性の確保とスニーカーコミュニティの醸成に力を入れる。

 米国とカナダを中心に展開する女性専用のスニーカープラットフォームとして、スニーカーメディア業界に約10年腰を据えるアンナ・ベディオネスを戦略ディレクターに迎えて発足。18年にバンクーバーでローンチした、スニーカーヘッズが商品を公正かつ小売価格帯で購入するのを手助けするプラットフォーム「SoleSavy(ソール・セイビー)」から、女性特化型のとして派生した。

 月額33ドル(約3,600円)で、入会すると専用のチャットツールであるスラックに招待され、安全にスニーカー情報や商品のリンクが入手できたり、ほかのスニーカー愛好家たちと交流できる。また、専門チームが、新作スニーカーのリリースに先立ってはマンツーマンのセッションを通して購入アドバイスをくれる、相談にのってもらえるなどのサービスも。

“コレクション以上”の繋がり

 先述したが、女性向けにスニーカー情報を発信するサービスは他にも登場している。エア・ジョーダンとのコラボ商品を女性サイズで展開し、さらに女性限定で先行発売したアトランタ発のブティック「A Ma Maniére(ア・マ・マニエール)」。“女性のための安全なスペース”を掲げ、インスタグラムにて女性限定でスニーカー販売情報を提供する「if_i_cant_wear_snkrs(イフ・アイ・キャント・ウェアー・スニーカーズ)」。ヒールの代わりにスニーカーを履きこなす女性にスニーカーコーデを紹介する「Girls Who Dress Like Boys(ガールズ・フー・ドレス・ライク・ボーイズ)」など。

 SSWSCのいいところは、やはり有料であるため安全性が高いこと、そして女性スニーカーヘッズ同士の交流の場があることだろう。長きに渡り収集し続ける玄人コレクターと最近興味を持ちはじめたビギナーが交流できることも含めて「インクルーシブ」なコミュニティづくりに力を入れているという。スラックをもちいたオープンでカジュアルなコミュニケーションを促進し、一つのチームのような環境を作り出している。

 コミュニティメンバーからは「スニーカーコレクションを増やすために入会したけど、コミュニティというそれ以上に大切なものが得られた」「スニーカー好きの、人種も民族も年齢も違う人たちが集まる最高のコミュニティ。ほかにはないんじゃないかな」との声があがっている。

 情報を持つ誰かが一方的に情報を提供するのではなく、情報を共有しあい、互いのスニーカー収集をヘルプしあう。この“ヘルプしあうこと”が繋がりの核になっているのだとすると、これまでにはなかったスニーカーコミュニティが育っていくはずだ。いずれそれは「女性向け」から、同じ姿勢でスニーカーをたのしみたい人たちの居場所になっていく。
 競い合いや危うさから一線を引いた、安全でやさしいスニーカーカルチャー。そんなぬるいものはスニーカーカルチャーじゃないという声もどこからか聞こえてきそうだが、それはそれ。既存の場所を変えるよりも、自分たちの解釈やスタンスで居場所を別につくる方が、はるかに早いことはしばしばあるのだ。

Eyecatch Image Illustration by Kana Motojima
All Images via SoleSavy’s Women’s Sneaker Community
Text by Shunsuke Kanazawa
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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