米国初、認証済み「オーガニック・ウォーター」が登場した。魔法の言葉「オーガニック」がついたその水は、どうも売れ行きが良いらしい。が、そのマーケティング方法が波紋を呼んでいる。なぜか。そもそも「水は水素(H)と酸素(O)の化合物。オーガニックなんてありえません」。神格化されたオーガニックの意味を、いまこそ正しく理解しようじゃないか。
そもそもオーガニックとはなんなのか
気づけば、パッケージにデカデカと「オーガニック」と書いてある食品が増えた。昔ながらのブランドも、わざわざ「オーガニック」バージョンを作っている。たとえば、日本でも知られているハインツ(Heinz) のケチャップ。昔からあるレギュラー(とは書いていないが)商品に加えて「オーガニック」バージョンもあり、もちろんレギュラーより高い。こういったことが、いろんな食品ブランドで起こっている。なぜ、起こっているかって「オーガニック」は売れるから。それ以上でも以下でもない。冒頭の話に戻るが、ついにUSDA(米農務省)が認証したオーガニック・ウォーターが登場した。これの何がおかしいのかを理解するために、まずはオーガニックが何かをあらためて考えてみたい。
オーガニック=「“有機”であること」。科学的に有機の「機」は「炭素(カーボン)」を意味する。
1、生物由来であるもの(あらゆる生物が炭素でできている)。
2、炭素(C)を含んでいるもの。
USDAによると、上記の2つを満たしているもので、化学肥料などを使っていないものをオーガニックと呼ぶことができるらしいのだが…。
「H2O」こと水は、水素(H)と酸素(O)の化合物。つまり、炭素(C)が入っておらず「水にオーガニックもクソもない」のである。それなのにアメリカ初のUSDA認証のオーガニック・ウォーター「アサラシ(Asarasi)」は、なぜ「オーガニック」と呼ぶことを許されたのか?
オーガニック認証の「抜け穴」をついたプレー
アサラシの水は、メープルの木から採取されたもの。つまり、生物由来、ということになる。手法はメープルシロップ(樹液)を採取する方法のと同じ。というか、樹液を採取する過程で最終的に捨てられていた水らしい。「メープルの木から採取される樹液のうち、シロップやメープルプロダクト用に使えるのはたったの3パーセントにすぎない。残りの97パーセントの水は、ただ捨てられているんです。もったいないですよね」とは、アサラシの創始者アダム氏(Adam North Lazar)の発言。
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「水がもったいない」ので、「炭酸(炭素)を加えて、ボトルに詰めて、売って、儲けてみようと思いました」—とは言っていないが、そう解釈されても仕方がないだろう。だって、炭酸(炭素)後づけじゃん! それに、水がもったいないっていっても「山に返せばいいだろ?」などなど、つっこみどころが満載。とはいえ、後づけだろうが、木から採った(だけの)水だろうが、USDAは「生物由来で炭素入ってるなら、オーガニックだね!」と認めたわけで、アサラシが「オーガニックウォーター」として販売すること自体に問題はない。
そんなオーガニック認証の「抜け穴」をついたマーケティングの小賢しい頭脳プレーを揶揄する声は大きい。だが、昨年夏の販売開始から「いまのところ、売れ行きは好調」らしいのだ。
アメリカ人の25パーセントは「普通の水より、オーガニックウォーターがいい」
多少金額が高くても、安全で健康で環境に良いものを選びたい。そんなエシカルで健康意識の高い消費者が増えている一方で、「オーガニック」という言葉の意味を正しく理解している人はどのくらいいるのだろうか。アメリカ人の25パーセントは「普通の水より、オーガニックウォーターがいい」と回答したというデータもあり、ここから「なんとなくオーガニックがいいと思っているだけ」「マーケティングに踊らされている消費者が少なくない」といった声があがっている。
アサラシは、メープルの木が備え持つ“天然のフィルター”を通して「自然にろ過されたピュアウォーターだ」と説明しているが、以前、HEAPSで紹介したウォーターソムリエは、「ピュアウォーターならそんなに価値はない(水道水と価値は同等)」と言っていたし、もしも「木そのものに農薬などの不純物が含まれていた場合は大丈夫なのか」という疑問もある。
そんな賢い消費者の疑問を解消するための次のマーケティング手段なのかは定かではないが、このオーガニックに続きそうなのが「太古の昔の(prehistoric、プレヒストリック) 」という形容詞だ。太古の昔の手つかずの水なら化学物質に汚染されている心配はないということらしく、世界で二番目に深くて古い古代湖、タンガニーカ湖から採った水「タンザマジ(Tanzamaji)」の売り出し方が仰々しいったらありゃしない。「太古の昔の水は、普通の水じゃありません。有難い水です!」と言わんばかりだ。しかも、普通の水じゃないからって、500mlのペットボトルより小さくて、値段は一本15ドル。どうかしてるぜ。
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Photos
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine