元々は超臆病だった女の子が、NIKEをはじめ他多くのブランドやカンパニーとの“女性アーティスト初コラボレーション”を多く果たし、コラボレーションの女王と呼ばれる将来を得た。いまだ一向に勢いを緩めないアーティスト、クローディア・ゴールド、a.k.a Claw Money(クロウ・マネー)は、男性優位のグラフィティカルチャーで名を刻んできたニューヨークの女性レジェンドと呼び声高いアーティストだ。
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Claw Money(クロウ・マネー)
「女なのにすごいね? グラフィティに限った話じゃない」
ネイルを塗ってつるりとしたかぎ爪のアイコンが表すのは「W」。昔、酔っ払った友だちの兄がつけたというあだ名、Claw(クロウ)からひと文字取った。元々は超臆病で高校までザ・いい子ちゃんだった、というクロウがグラフィティに踏み入ったのは80年代の終わり、20歳の時。ニューヨーク市がグラフィティの取り締まりにいざ本腰を入れはじめた頃だ。特にこれといった決定的な出来事があったわけではなく「街でタギングしてた男の子がスプレーを貸してくれてペッと描いてみた。描いたっていうか、雑な文字の殴り書きね。自分の名前を書いた」
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クロウにおいて、これまでに当てられるスポットは決まって、80-90年代男性優位のグラフィティカルチャーで“のし上がった”こと。それに対して本人は「グラフィティに限ったことじゃないと思うけどね。当時からいまでもどこの側面を切り取っても一緒じゃない? スポーツでもビジネスでも、女性はいつだって、まず劣勢」。ただし、「確かにグラフィティという極端な世界で女である私がやってきたことで、社会に意味を与えることはある。けれど、グラフィティをやってきた過去がすごいでしょうというのではなく、その事実と過去で“いま”何をするのか。こっちが大切と思っているわ」
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彼女に言わせれば、女性グラフィティライター自体はそれこそ70年代からすでに多く存在した。が、人生をかける数が男性よりも圧倒的に少なかった。グラフィティライターとして真剣に扱われないというのと、活動するにあたってレイプなどのリスクがあったからだ。
それでも、「いいこともあったわよ。たとえば、誰も私がグラフィティ描くなんて思ってもないからストリートで疑われることはなかったし、警察に見つかっても男に対してより優しかったし?」。男性優位の中に乗り込むのに女はハンデではなく利点だと、できるだけ利用した。「グラフィティで認識されようとしたら、10や50のタギングじゃダメね。1000はやらないと」。90年代になると、とりわけ交通量の多い場所でカラフルなかぎ爪はユビキタスに点在し目撃され、クロウ・マネーが頭角を表したと知れ渡った。
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女性初コラボが意味するもの
現在でも彼女のグラフィティはニューヨークのあらゆる場所で見つけることができる。以前と違うのは、それがすべて「合法である」という点だ。スターバックスからもオファーを受け、店の外壁にいつものグラフィティにスタバっぽく緑のアクセントを入れて描いた。
2004年の自身初のコラボレーションから今日まで、NIKE、Vans、FILA、Calvin Klein(カルバン・クライン)、NASCAR(ナスカー)、それからMountain Dew(マウンテンデュー)、とコラボレーションを果たしたブランドやカンパニーをあげればキリがない。それらがただのコラボレーションではなく、前例のない功績とされる所以は、その多くが女性アーティストとして初のコレボレーションだからだ。
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その数々のコラボレーションにおいて賞賛され(結果オファーが止まない)る要因として、クロウは自身でこう考える。「私は、グラフィティとファッションを繋ぐConduit(コンジット、導管)。グラフィティとフェミニズムを繋ぐコンジット、ファッションとフェミニズムを繋ぐコンジット。女である私がやってきたことで、社会に新たに打ち出せるメッセージが確実にある」から。クロウ・マネーという女性がグラフィティ界で成し遂げたことを、その珍しさも踏まえてレジェンドとするのであれば、その彼女がいまの社会に打ち出すメッセージもまた、男性のアーティストには持ちえないもの。ブランドやカンパニーにとってもただのコラボレーションではなく明確なメッセージ性を持たせられるということだ。
クロウがグラフィティスタイルを確立した90年代といえば、地下鉄車両へのグラフィティが完全に禁止され、撤廃されたすぐ後のこと。「みんなトレイン・ボムからストリート・ボムへ移行していったんだけど、多くの男性たちはストリートを嫌がった。『ストリートなんかにグラフィティしたって。トレインにやってこそホンモノだろ? 俺はいやだ』って」。
「でも私は、ばんばんストリートにボムした。だって、自分の描きたいメッセージを描けなくなることの方が困ると思ったから。『女としての私という存在、メッセージを伝える為にグラフィティをやった。グラフィティというツールがあったから使った。その後、社会にメッセージを伝えるために今度は合法のアーティストになった。スタイルもスキルもグラフィティで培ったものを使ってね」。
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カニエやリアーナも好むファッションブランドへ
2002年には自身のファッションブランド(CLAW&CO.)を立ち上げた(カニエ・ウェストやリアーナも好んで着る)。 当時からグラフィティアーティストがファッションブランドを展開することは珍しくなかったが、「女性のためのものがなかった」から。はじめた当初は、ストリートで16年間やってきたことを安売りしているような思いもあった。それでも、すぐに心持ちのバランスを掴む。「グラフィティを売り物にしているのではなく、グラフィティで学んだものをビジネスに生かしている。生きてきて培ったスキルを使って新しいものを生み出している」と。
タフでいること、男性と渡り歩くこと、他者をリスペクトすること、現実的で実用的であること、時に無謀であること、自分に自信を持つこと。「そのすべてを、私はグラフィティから掴み取った」。それでも、グラフィティはあくまでも原点にすぎず「固執したことはない」と言い、ロマンや哲学、時に自分勝手な理想よりも他者の目にも見える成果を選ぶ。「そのへんも、女っぽいっちゃあ女っぽいわね」。クロウ・マネーという存在が表すメッセージについても「その時コラボするブランドやカンパニー、その際に相応しいものとして変化していい。たとえそれが、私自身が望んでいるものでないとしても。社会へのインパクトが大事」
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男性の間でより名を知られているというクロウ。そもそもグラフィティに興味を持っている割合と、その男性らからみて女性である彼女が異端な存在として目につくからだ。
もっと世の中の女性に私の存在を知ってほしい、と自身のグラフィティアートを施したコスメラインも展開しはじめた。多くの女性にグラフィティに興味を持ってほしいからではなく、多くの女性にグラフィティという世界にも上りつめた女がいるという事実を知ってほしいから。「女って、ほんとになんでもできるんだから!」
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今年の9月には、これまでで一番大きなプロジェクトが待っているそうだ(情報未解禁)。かぎ爪のアイコンで、女性グラフィティアーティストの存在をアメリカのあらゆる場所に残してきた。その確かな事実をもって、女性ならではの強さを社会に見せ続けたいと話す。そのクロウのネイルはというと少々削れていた(9月を目前に超忙しい!)んだが、取材締めくくりに手でかぎ爪をつくりウィンクして言った「YAY GIRLS!」は見事、鮮やかだった。
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Interview with Claw Money
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Photos by Kohei Kawashima
Text by Tetora Poe
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine