アフリカのサッカー大国、もう一つのスポーツカルチャー。NBA進出、スタジアム開設〈バスケットボールと都市の動き〉

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
Share
Tweet

新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

今週は、HEAPSには珍しくスポーツの現場から。最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングにおいてアフリカ諸国で第1位のサッカー大国にて、いま俄然「バスケットボール」の熱があがっているのだ。

No.1スポーツはサッカー、実はバスケも昔から…。

 日本チームとも対戦することが多いそのサッカー大国とは、セネガル。その首都ダカール(アフリカ大陸の最西端)では、毎日夕方になると街の通りやビーチに多くのサッカー選手やランナーなどのアスリートが体を鍛えているのが日常風景らしい。

 そこへ近年ではバスケットボールが人気スコアを伸ばしている。国が本腰を入れており、米国の世界最高峰のバスケリーグ・NBAも進出し、選手養成学校を創立。そして、首都近郊では大型スタジアムを建設。スポーツにはなにかと施設と人が必要になる。いまバスケカルチャーを起点に、ローカライズされた経済発展と都市開発が進んでいるようだ。

「セネガルのバスケカルチャーは、いまにはじまったことではありません。男子バスケ、女子バスケ、どちらも昔からありました。もちろん、サッカーがナンバーワン・スポーツですが」とは、セネガル出身の元バスケ選手のアマドウ・ガロ・フォール氏。バスケを通した教育プログラムを創立、国内のバスケ選手育成を20年以上にわたって推し進めてきた、セネガルバスケの第一人者といってもいい。

 フォール氏の言うとおり、セネガルはアフリカ諸国のなかでもバスケに強い。男子代表チームは、アフリカ選手権で優勝を重ね、女子代表チームも世界選手権の常連。それでもサッカーほどの人気を持てなかった理由の一つとして、「バスケットボールは、誰もがアクセスしにくいスポーツといえます。対して私自身も幼いころプレイしていたサッカーは、外に出てすぐそこで簡単にはじめられる。私たちの主な目的は、サッカーと同じくらいバスケをアクセス可能なスポーツにすることです」




アマドウ・ガロ・フォール氏。昨年末、アフリカの男子バスケリーグ「バスケットボール・アフリカ・リーグ」のスカウティングイベントのためニューヨークに来ていた。

NBAも進出。アフリカの才能は、アフリカで育てる

 バスケットボールをもっと開かれたスポーツにしようという主要な動きの一つが、選手要請学校の創立。フォール氏が副会長を務める「NBAアカデミー・アフリカ(以下、アカデミー)」だ。NBAは、あのNBA。バスケの神様マイケル・ジョーダンや今年逝去したスター選手コービー・ブライアント、キャリア17年目を迎えた人気選手レブロン・ジェームズらを擁してきた全米バスケットボール協会のこと。将来有望なアフリカのバスケ選手を育成すべく、2017年にアフリカに進出し、セネガルにアカデミーを開校した。なぜ進出地がセネガルだったのか。バスケ強豪国であることは言うまでもないが、フォール氏はこうも話す。「セネガルはアフリカ大陸のさまざまな場所からもアクセスがいい。ダカールはいろいろな意味で、近年ハブとなっています」。






 アカデミーがあることで「アフリカ大陸にいる若い才能を、アフリカの土壌で育てることができます」。育成後、選手のなかには「米国に渡る人もいれば、アフリカに残る人もいる」そうだ。これまで、30のアフリカの国々から1,100人をスカウトし、養成してきた。

「マイクロソフトやグーグルとあまり変わらないことをしていると思います。最良のエンジニアがほしければ、若い生徒たちに投資をする。私たちも同じことをしている。世界で最高峰のバスケ選手を育てたいのです」。


NBAアカデミー・アフリカの選手たち。
Image via NBA Academy Africa

 アカデミーには、NBAが育ててきたコーチや監督が駐在し、選手たちに一流のバスケスキルを教授する。監督のなかには、伝説的なセネガルの女子バスケ選手アストゥ・ンジャイ・ディアッタ氏もいる。また、バスケのトレーニングだけでなく、教育やリーダーシップ、ヘルス・ウェルネス、ライフスキルなどバスケ以外の育成もおこなわれているのが特徴だ。数学などの科目もある。「ここは通常の学校と同じです。バスケのコート内外どちらでも成功できるチャンスをあたえています」。選手の平均年齢は14歳から18歳。中学・高校生に相当する年齢だ。

「男子、女子、どちらにもバスケをプレーする機会をあたえることで、このスポーツを元気にさせたいと思っています」。現在のアカデミーは男子選手のみだが、今後、女子選手の養成にも乗り出す予定。昨年冬には、アフリカ諸国から選抜した女子選手をトレーニングする短期キャンプをおこなったばかりだ。



Image via NBA Academy Africa

新しい“街”に、スタジアム完成

 昨年、ダカールから30キロほど離れた地区に、1万5,000人を収容する大型スタジアム「ダカール・アリーナ」が完成した。バレーボールやハンドボール、格闘技などの試合を開催することができるマルチな競技場だが、メインはバスケといってもいいかもしれない。このスタジアムは、2015年にセネガルの女子バスケチームがアフリカ大会で優勝した際にマッキー・サル大統領が交わした「約束」で、つまりは、国のバスケ発展のために政府が動いたプロジェクトだからだ。コロナウイルス感染拡大のためキャンセルされてしまったが、今年3月には、BAL(昨年創立されたアフリカの新興バスケリーグ)のオープニング試合がここで開催予定だった。

「このアリーナのまわりには、いま新しい“街”が建設されています。ジャムナジョというエリアです」。ジャムナジョは、ダカール市街と国際空港のあいだに位置する経済特区で、同アリーナのみならず、行政機関や大学などの教育機関、会議場、宿泊施設、住宅の建設など、都市開発が急速に進められている。国際空港と同経済地区、ダカール市街地を結ぶ高速鉄道「ダカール・リージョナル・エクスプレス・トレイン」も建設中(完成かどうかは不明)と、スポーツ観戦や国際会議のための出張など、国外からの訪問客の移動をスムーズにし、経済を活性化する動きがある。



「大きなスポーツイベントは、ツーリズムに貢献します。地元の産業において雇用も生みます」。スポーツイベントがおこなわれれば、宿泊施設に外食産業などが潤う。フォール氏は、自身が以前バスケ留学で住んでいた、米ワシントンD.C.の光景を思い出す。「NBAのアリーナが建設される前、そのエリアはとても意気消沈していた。しかし、いまはインフラストラクチャーが構築され、地下鉄にレストラン、集合住宅などで賑わっています」。

 バスケカルチャーがメキメキと育つことで、ローカルの経済と都市が育つ。「バスケシーンをローカライズしたいんです。そして、シーンをローカルの経済構築に貢献させたい。スポーツは経済成長を促すことができる、とここ数年、話しています」。コロナの影響で変更はあるかもしれないが、1万5,000人が集まるアリーナとその周辺では、2021年に世界水フォーラムが、2022年にユースオリンピック*が開催される予定だ。

*14、15歳〜18歳までのアスリートを対象とした国際総合競技大会

Interview with Amadou Gallo Fall





—————
All Photos by Haruka Taniguchi
Text by Risa Akita, editorial assistant: Kaz Hamaguchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

↓↓↓毎日お知らせ含めて配信中。HEAPS(ヒープス)の公式ツイッター↓↓↓

Share
Tweet
default
 
 
 
 
 

Latest

All articles loaded
No more articles to load