なににつけても「サステナブル」と語気が強められる現代で、リサイクルではなくその一歩先をいく「アップサイクル(*)」に注目が集まる、というのはごく自然なことだろう。
*従来から行なわれてきた“素材の原料化と再利用”のリサイクル(再循環)とは異なり、廃物や使わなくなったものをデザインや違った視点を用いることで、元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すこと。
ただし、アップサイクルは発想とデザインに頼るところが大きく、その実現にはもちろんそれを具現化する技術が必要となる。つまりアップサイクルには、発想のデザイナー/作家と製造の技術者、この連携プレーが必須となるわけだ。今回紹介する一枚板から作られる一切無駄の出ない椅子「スカラベ」も、その連携が光るアップサイクルの好例。文字通り、製造過程で一切ムダを出さない椅子だ。
家具づくりにおいては木材を加工する過程で当然それなりの廃棄物が生まれる。金属などであれば溶かすなどしてリサイクルできるが、木材の廃棄物はその点で比較的扱いづらい。そこで、そもそも制作過程で廃棄物を生まない造形はどうか、と考えた。
その製造にあたるのは町工場集団カロエ。群馬県高崎市の木工所、鉄工所などそれぞれが突出する技術を持った町工場が連携し、「素晴らしいアイデアであるにも関わらず、技術へのアプローチができずに実現不可能に終わった」作家の発想を連携プレーで実現する製造のプロ集団。今回は造形作家の下山肇(しもやま・はじめ)氏のアイデア、廃棄物ゼロの椅子の制作に踏み切り、スカラベを完成させた。
町工場が持つ優れた加工技術「レーザーカッティング」を採用し、切りぬいたパーツを椅子へ。本来だったら廃棄物となるはずであった抜き型は、シンメトリーのパーツ配置そのままの美しさを残すことで、壁に立てかけたり襖にも使用できるアートピースに。革新的なアイデアと神秘的なデザイン、工場の持つ技術で美しいアップサイクルを実現した。
椅子の名前「Scarab(スカラベ)」は、古代エジプトで「再生復活」の力をもつ太陽神の化身とみなされていた昆虫の呼称。
パーツの配置パターンをその再生性のイメージに見立てて名付けた。
世界に誇れる日本の技術を持ちながらも、中小製造業の多くは大手の下請けとして厳しい条件で疲弊してきた。こうした現状を、製造企業が連携し共創することで「新たなモノが生まれる地域」に変えていく試みを持つカロエ。現在の世界規模のテーマ、アップサイクルを実現していく心強い存在にもなっていくはず。スカラベのアートピースをどう使うかを購入者が自由に考えるのも、アップサイクルの一端だ。
詳しくはコチラから。
—————
Text by Shimpei Nakagawa, Edited by HEAPS
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine