マニアによる“ニッチ狙い”だったはずの「レコード定期購読」。デジタル世代も「好きです」なワケ

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クリアすぎる無味乾燥のデジタル音楽とは一線を画すとかなんとか。レコードの魅力を語りだしたら止まらない、そんなアナログレコード好きがはじめたレコードビジネス「レコード定期購読サービス」がジワジワと注目を集めている。マニアだもの、決してマスを狙ったサービスではなかった。だが、デジタル世代ならではの予期せぬニーズにハマっていき、創業時点では12人(ほとんど知り合い)から世界約40ヶ国に2万5千人以上の会員を保持するまでに成長したものも。

会員制のレコードクラブ

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「ぼくらの世代は、自分で選ぶより、誰かが選んでくれたものを聴きたいというレコードファンも多いんですよ」。そう話すのはレコード定期購読サービスをはじめたミレニアルズたちだ。

 レコード市場が拡大していることは間違いない。一度は街から姿を消したレコードショップが復活したりなんて話もチラホラ。往年のレコードマニアやコレクターはもちろん、レコードよりCDやデジタル配信に慣れ親しんだ若い世代を巻き込むことで、ファンの裾野が広がっている。
 だが、みんなはどうやってレコード買っているのだろうか。実店舗に足を運び、膨大なストックの中から時間をかけて掘り出しているのか。はたまた、オンラインでワンクリックで買っているのか。
   
 ここ数年の間にレコードに興味を持ったという人たちの間で、何度か「(レコードを)定期購入しています」という声を耳にした。いわば会員制のレコードクラブらしい。2013年頃から、

・「バイナル・ムーン(Vinyl Moon)」
・「バイナル・ミー・プリーズ(Vinyl Me Please)」
・「バイナル(Vinyl )」
・「シングルス・クラブ(Singles Club)」

など、なんだか名前の似たレコードの定期購入サービスが続出している。

 金額やシステムに差異はあるものの、基本的にはどれも会員になると月に一度(もしくは年に数回)、キュレーターが選んだレコードが自宅やオフィスなど指定場所に届くサービスである。中には、レコードとその曲に合うコーヒー豆やクラフトビール、カクテルのレシピなどをペアリングするものも。
  

何が届くかは、開けてみてからのお楽しみって「そんなものにお金払う?」

 2013年にサービスを開始した「バイナル・ミー・プリーズ(Vinyl Me Please)」の共同創設者のタイラー・バーストウとマット・フィードラーは、学生時代は「もっぱらナップスターのお世話になっていた」というミレニアル世代だ。
 レコード定期購入サービスをはじめたのは「音楽好きが集まってそれぞれ自分が好きなレコードを持ち寄って熱く語る…みたいなオールドスクールなレコードクラブを探していたが、ググってもみつからなかったから」。お互い「当時の仕事があまり好きでなかった」こともあり「起業してみよう」と思い立った。

 アイデアはこうだ。彼らがセレクトしたレコードを会員に配って、その音楽についてオンライン上やオフ会で語り合うというもの。だが、そのアイデアに対しての周りの反応は「散々だった」。

「人は、欲しいものしか欲しくない。定期購入でお金を払うならなおさらだ」
「音楽の好みは人それぞれ。一重にレコード好きといっても、フォークやカントリーが好きな人が、ヒップホップやテクノのレコードを受け取って幸せだと思うか?」
「私はあんたたちのことを知っているから、あんたたちの音楽のセンスを信頼しているけれど、他の人にそう思わせるは難しいんじゃないの? 有名DJでもないわけだし…」

 それでも、13年1月の創業時点ではたったの12人(しかもほとんど知り合い)だった会員数は、口コミで50人になり、100人になり、13年末には約300人まで増えた。いまでは世界約40ヶ国に2万5千人以上の会員を保持するまでに成長している。

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アルゴリズムよりも「誰かが選んでくれた音楽を聴きたい」

「毎月、何が届くかわからない」レコード定期購入サービスが支持を得ている理由について、彼らは「自分で選ぶよりも、誰かが選んでくれた音楽を聞きたい、というユーザーの欲求にはまったからではないか」と話す。
オンラインサイトにも、レコードショップにも、そこには膨大な数のレコードが溢れかえっている。その中から買うべきものを選ぶのは「結構なストレスだと思う。ぼくらもレコード屋に行って、結局何も買わずに帰ることが多々あった」。
 そういった消費者の選ぶストレスを軽減するためにアルゴリズムによる “おすすめ”があるのだと思うが、「それよりも、同じレコード好きの人間が自分のために選んでくれたものの方がうれしいですよね。目指すのは、音楽のパーソナルスタイリストです」。
 
 毎月の選曲からアナログレコードのプレス、パッケージ製作まで完全オリジナルであり、手にできるのは会員だけ。会員たちの「毎月届くちょっとした楽しみ」がしっかり演出されている。また、今月はなぜそのレコードを選んだのか、新曲であればなぜその作品をレコードにする意味があると思ったのかについて「手紙」をしたためているという。こういった希少性や独自性が、会員との「パーソナルなつながり」を構築することになるのは言うまでもなく、近年の量より質を求めるカジュアル・リッチの価値観にもフィットしており、新たなラグジュアリー体験として再発見されている。

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カクテルとのペアリング。

届けているのはレコード、だけでなく…

 約2万5千人の会員たちは、それぞれの自宅やオフィスで届いたレコードに針を乗せ、最後まで聞き終わったら掲示板で感想を伝え合う。「このレコードが好きなら、この曲も気に入ると思うよ」と、一枚のレコードを通して、会員同士の会話も知識も自然に広がっていく。

 会員はレコード文化が根づいている国、つまり、イギリスやアメリカ、ドイツ、日本などの国籍の人が多いそうだが、レコードショップの数が少なく、入手困難な国の会員のリアクションは毎回、熱がこもっているそうだ。「国外の会員費は毎月42ドル(米国内の月会員費は29ドル、約3,200円)ですが、たとえば、先日はロシア在住の会員から『この国でこの曲のレコードを手に入れようと思ったら、送料込みで100ドルはくだらない!』という感謝のメッセージをもらいました」。

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クリスマス・ボックス。

 

 彼らはレコード愛好家ではあるが、決してアンチデジタルではない。「スポティファイのような音楽のストリーミング配信サービスも使っているし、好きなアーティストが新しいアルバムを出せばダウンロードもする」。デジタル配信のおかげで日々、様々な音楽に無料同然で触れられるようになったからこそ「ぜひレコードで聴いてみたい!」「レコードという手触りのあるモノとして所有したい」という作品により多く出会えているのではないかと話す。
 
 音楽はデジタルファイル化され、非物質になってから久しい。音楽を無料で日常的に消費している若い世代の音楽ファンにとって、レコードはアナログ回帰というよりも、新しいメディアとして発見されているのだろう。イージー&コンビニエントな環境で育った世代には、手間のかかる操作がかえって新鮮、というのもあるかもしれない。しかし、アナログレコードの定期購入サービスが消費者に支持されている一番の要因は、「バイナル・ミー・プリーズ」のような、どこか牧歌的な企業姿勢にある気がする。サービスに対してお金を費やしてくれている人、つまり会員でありファンたちに毎月届けているのは、一枚のレコードだけではない。手間暇をかけた「あなたは大切な方です」というメッセージだったりするのではないかと。 

「ファンによるファンのための“レコードクラブ”なので、運営するぼくらとメンバーは対等であるべきだと思う。同じレコードファンとしてね」。資本主義のシステムにそぐわぬポリシーを守るため、創業時から投資は受けず「ぼくらの貯金だけで」運営しているそうだ。

@vinylmeplease

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All images via Vinyl Me, Please
Text by Chiyo Yamauchi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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