潰れるインディ・レコード店の一方で盛り上がる、NYCの“中古レコード店”。それぞれが取ったレコード・ビジネス生き残りの術

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半世紀近くつづこうが、名店と呼ばれようが、時が来ればのれんを下げるしかあるまい。
閉店が相次ぐのは、アメリカのインディ・レコード店だ。

しかし、その一方で盛り上がりを見せるはニューヨークの“中古レコード店”。インディ・レコード屋が生き残る術はあるのか?

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 2016年5月に、ニューヨークのレコードといえば、の名店・アザー・ミュージックが6月に閉店するという衝撃ニュースが音楽ファンの中で流れた。

※アザーミュージックは、1995年に、タワーレコードの向かいに、タワーにない「他の=other(アザー)」ミュージックを扱うという名目でオープンした。1995年のこと。

 2006年にタワーレコードがクローズした後も、アザー・ミュージックは独自のインディ・セレクションで、世界中の音楽ファンに支えられていた。行くたびに店に溢れるお客さん、CDをこれでもかと抱える人を見てきたし、インストア・イべントも沢山人が入っていたし。うまく回ってるのだな、と思っていたのに。

 その衝撃ニュースのさらに1ヶ月後、今度は1970年から続く、サンフランシスコのアクエリアス・レコーズが7月に閉店するというニュースが流れた。
 ポップな雰囲気の強いこのインディ・レコード屋、再発レーベルもやっている新しい経営者に変わるようだ。これまたインディ音楽ファンにとって衝撃的だった。
 そんな衝撃を二度もガツンとくらっては、2016年という年はもう何が起こってもおかしくない気もするが、このニュースは、音楽業界の変化、消費者のお金の使い方を改めて現実的に受け止める良い機会となった。

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 もうCDや新譜だけでは、レコード店は生き残れないのだ。アザーやアクエリアスは、CD・新譜が中心で、新しい音楽や新しいバンドを探している人がお客さんだった。しかし、最近のレコード消費者の傾向は、新しいバンドにそこまで入れ込みはなく、どちらかといえば古い音楽をなんとなく聴く。新しい音楽はネットで漁りすべてダウンロードが当たり前。買うのはCDではなくレコードで、これも古いものときてる。消費者がこうして音楽を消費するんじゃあ新譜レコード屋の経営が成り立たないのも納得だ。

 そこでうまく生き延びているのが中古レコードビジネスとなるわけだ。いくつかその事例を紹介しよう。

床屋とコラボした中古レコード店 Sideman Records

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 レコードがいまでも受け入れられているのは、平たくいえばいつの時代にもレコードオタクがいるからで…。とはいえ、極める人は少ないので、彼らだけを対象にビジネスするのは難しい。だが昨今では、レコードってカッコいい、という、漠然とした風潮がある。
 それを利用して、Sideman Records(サイドマンレコーズ)がターゲットにしたのは、いわゆるフツーの人。床屋とコラボして、床屋の一角に中古レコード店(というかスペース)をオープン。床屋の待ち時間のついで、でレコードを漁る人がターゲットなのだ。

 いわゆる音楽オタクではないけれど、レコードは好き・興味はある、そういえばレコードプレイヤーも持っている、という人たち。床屋に行ったついでにレコードを見て、「おおこの懐かしのレコード!一枚買っちゃおう」とか。レコードを買うことを目的とする人だけを店で待つより、売れる確率は当たり前だが雲泥の差だ。

▶︎コーヒーはもうやった。次は、「バーバー×レコードショップ」だ!床屋の隣ではじまる、中古レコードビジネス「Sideman Records」

レコード屋をフリマに出しちゃう

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 もう一つ、うま〜くやっている中古レコード屋、「Eat Records(イート・レコーズ)」。サイドマンは床屋が一緒になっているが、イート・レコーズは、カフェ・レストランが併設。ブルックリンのグリーンポイントでスタートした2003年当初は、「コーヒーを飲み、ゴハンを食べながら、レコードショッピングが出来る」秘密の場所だった。
 2009年、レコード屋とレストランは枝分かれ、レストランはその2年後に閉店したがレコード屋はいまも元気に経営中。枝分かれした際、お店を新たにオープンするのではなく、「フリーマーケットに出店する」というアイデアが良かったようだ。


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 現在も一箇所レギュラーを含め、不定期で別のマーケットにも出店している。機会があればどこへでも行く。観光客や人通りの多いマーケット内なので、洋服を見ているお母さんを待っているお父さんがついつい買って行ったりと、ニッチな消費者に偶然恵まれる機会が多いのだ。
 ダウンロードでなく、目に見えるものを買いたいという物欲を満たしているのがレコードだ。お部屋の飾りにもなる中古レコードビジネスは誰が予想しただろう、いまの時代にマッチしているのだ(さらに、このヴァイナル・ブームが余剰効果、最近彼はロサンゼルスにも出向いてフリーマーケットに出店する忙しさ)。
 

あえて激戦区に出店もあり? つながりで生き残るレコード店

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 ブルックリンのグリーンポイントという地区は、キャプチャード・トラックス、コープ87、アカデミー・アネックスなど、中古レコード屋の宝庫だ。アカデミー・アネックスはウィリアムスバーグからの移転組、その他はまだオープンして3年足らずでビジネス例とまではいかないが、確かな生き残りのアイデアがある。ここのエリア、お客さんはルートを辿るように「お店をハシゴする」。集まっているから、行きやすいし、店員も友人同士なのか互いの店を推薦し合うのだ。つまり、お客の数も店の数だけ増えていく…という。アリだと思う。

 サイドマンはインターネットを駆使して世界中何処からでも中古レコードを買える前進する中古レコードビジネスだが、イート・レコーズはウェブサイトすらない。
 生き残りの術はそれぞれだが、どちらにしても「新しいものが良い」という時代が去ったことを受け入れ、両方をうまく取り込み、各々が自分なりに楽しめるようなものにしようという気概がある。

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 あらゆる音楽に囲まれている現代社会。インターネット、ソーシャルメディア、ラジオなどから、瞬間に好きな音楽が聴ける、特に新しい音楽は。
 それなのに特別なレコード贔屓でもないのにレコード屋に足を運ぶのは、そこでしか聴けないものがあり、感じられないものがあるからだろう。ラジオやネットの側では感じられない何かが、その店にプラスで何かがある。床屋があったり、カフェがあったり、スタッフの選曲が面白かったり。必ずしも音楽と関連づいている必要はなく、さりげなく音楽に、レコードにすっと足を踏み入れさせる、いわばレコード店へのハードルを下げる工夫が必要なのだ。音楽と自分たちにできる「何か」を見つけること、共存させることが、現代のレコード屋の生きる道だろう。

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Text by Yoko Sawai Edited by HEAPS
Photos by Tetora Poe

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