親になったミレニアル世代〈パレニアルズ〉、独創の子育て事情。新たな家族構成、アプリ駆使の育児方法、SNS問題まで

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まあ、よくもこんな造語を思いつくもんだと関心してしまう。ニューヨーク・タイムズが「パレニアルズ」という人種をつくりだした。しかしなんてことはない、彼らの正体は〈ペアレンツ(親)〉+〈ミレニアルズ〉。つまり「パパママになったミレニアルズ」のことである。

ゆとり世代でマイペース、上の世代からは「掴みどころがなくて不思議」「一体なにを考えているのかわからない」とため息をつかれてきたミレニアルズも子どもをもつ歳に。やっぱり彼ら、親としてもこれまでの世代と一風変わっているらしい。彼らの世代特有の工夫しながらの子育てから、子育てにまつわる事情がいろいろと耳に入ってきた。

新生児8割の母親はミレニアルズ

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 親になったミレニアル世代、パレニアルズ。米リサーチセンター・ピュー研究所調べによると、2016年時点で子どもをもつミレニアルズママは米国内に1,700万人以上、新生児のおよそ82パーセントがミレニアルズから生まれている。ちなみに、初子を産む年齢は、2016年は26.6歳*だ。

*1970年は21.4歳、2000年は24.9歳。

 また同研究所の2015年の調査によると「子育てをきちんとできていると思うか」という質問にイエスと答えたパレニアルズは半数以上の52パーセントだった。ジェネレーションX(40代、50代)の43パーセント、ベビーブーマー世代(50代、60代)の41パーセントに比べると、パレニアルズは親業に楽観的なようだ。かつてない子育てに励むといわれる彼ら、一体どんな子育てをしているのか?

「ミルク飲んでくれない」「夜泣きひどい」はグーグル先生かアプリに相談

「うちの子、ミルクを全然飲んでくれない…」「全然泣き止まないんだけど、どうしよう」「信頼できるベビーシッターを探したい」。これまで新米の親たちが悩んではアドバイスを求めるのは、自分の母親や近所のおばさんなど“子育ての先輩たち”だった。一方、パレニアルズの相談窓口はもっぱら「グーグル先生」に「オンラインチャットルーム」だ。

 日本でも、知恵袋やママ限定チャットルーム、育児ブログなどを活用して子育ての悩みの解決をはかるのは年々一般的になっている。米国パレニアルズも、子育ての疑問に直面したときは母親に電話をかけるより前に、とりあえずは手元のスマホで検索。育児専門家曰く「グーグルが新たな“おじいちゃんおばあちゃん”役」だそうだ。

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 それからパレニアルズの必須アイテムといえば、「子育てアプリ」。ある30代前半のパレニアル(母)は、息子が母乳を飲んでくれず、体重が減っていることに悩んでいた。グーグルに駆け込み、授乳アプリ(授乳や搾乳時間や摂取量をログできるアプリ)を探したのだが、どのアプリも男性がデザインした垢抜けないものだったという。そこで彼女は、“シンプルでフラットな使いやすい”デザインの授乳アプリを自作。自作してしまう彼女は例外だが、パレニアルズの前には賑やかな育児アプリ市場が広がっている。赤ちゃんの日々の健康状態や育児記録(授乳、睡眠、オムツ取り替え、身長・体重など)を細かくログできるアプリに、赤ちゃんの“ぐずり期(メンタルリープ、生後20ヶ月までの間に複数回おこる)”に特化し、ぐずる原因や期間を予測してくれるアプリなど、“育児の困った”を具体的な回答でヘルプしてくれる助っ人が幅広く揃う。
 さらに、寝かしつけトレーニングや近くのチャイルドケアサービス、ファミリーフレンドリーなレストランに公園、お店などを検索できる“親用イェルプ”も活躍中。趣味や育児経験などをベースにアルゴリズムで母親同士をマッチングしてくれるアプリ、信頼できるベビーシッター(料金やレビューつき)を探せるアプリ、買い物リストなどを管理できる家族用カレンダーアプリなど、あげればキリがない。.惜しみなくパレニアルズに救いの手を差し伸べるアプリ合戦状態。

“出産前”から止まらない我が子ポスト

 ここで、パレニアルズといえばのもう一つ、デジタル時代に物議を醸す話題「オンラインでの我が子の露出」にも触れたい。さっき食べたご飯でも車内で見つけた変な人でも、とにかくなんでもソーシャルメディアで共有してしまうデジタルネイティブ世代は、予想を裏切らず我が子の写真や動画をソーシャルメディアにアップすることに抵抗がない。米ニュース雑誌タイムとオンラインアンケートサービス・サーベイモンキーの調査によると、これまでソーシャルメディアに我が子の写真を載せたことがないパレニアルズは、わずか19パーセント*。つまり81パーセントが「一度は我が子の写真アップ経験がある」ということだ。

*ジェネレーションXの30パーセント、ベビーブーマーの53パーセントをかなり下回る。

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 パレニアルズは、SNSでの写真や動画アップだけに飽き足らず、出産前の超音波画像をユーチューブにアップしたり、ツイッターで我が子専用のアカウント&ハッシュタグをつくったりするとも聞く。あるパレニアル(母)は「娘のミドルネームは、ツイッターハンドルにしたとき語呂がよくなるように」つけたそうだ。はっきり言わせてもらえば、なんとも軽薄な考えと感覚を持ちあわせた愚かな親ではないか。こんなエクストリームな例もある一方で、我が子のネット露出に懐疑的で慎重な親もいる。ある母親は「子どもの安全」と「ミーム(ネット上のネタ画像)になることを防ぐ」ことを考慮し、我が子の“顔”を写さないよう後ろ姿のショットだけアップしたそうだ(そこまでしても写真をあげたい理由は、ちょっと謎だが…)。

 ネット上に子どもの写真を載せることについては、日本でも「SNS晒されチルドレン」と問題視されている。子どもの写真が流出することにより、変質者に悪用されたり、写真データに付随するExif情報(場合により位置情報も含む)が、誘拐などの犯罪を助長するという懸念。さらには、自分の意思とは関係なく幼少期の無防備な姿が親によって勝手にネットに流されてしまった子どもたちが大人になったとき、親子間でトラブルになるだろう、とSNS晒されチルドレンの将来を危惧する声もある。

「伝統的な家族」は希少な存在に。父さん母さんより“コペアレント”?

「初婚同士の夫婦」と「彼らが授かった子ども」という“伝統的な家族像”が崩れつつあるのも、この世代の結婚だ。ピュー研究所のリサーチでは、1960年には“伝統的な家庭”に生まれてくる子どもたちが73パーセントだったが、1980年になると61パーセントに、2016年には46パーセントにまで落ち込んだことがわかっている。これを平たく言えば、およそ6割の子どもが片親、あるいは籍を入れていないカップル、再婚家庭の元に生まれているということ。またパレニアルズのなかには、パートナー同士で育児を分担することから、マザー、ファザーという呼称を使わず、“コペアレント(共同育児者)”と名乗る親もいる。コペアレントか…。役割を父・母(性別)で決めないという考えはわかるが、コワーキングやコリビング、コファウンダーの調子でこのならびに続けるのはちょっとどうなのか。“母親”や“父親”と呼ぶこと自体をそこまで避ける必要はないと思う。

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 パレニアルズらしいのはなんといっても“親のジェンダー”の自由性だ。アメリカ国勢調査局によると、2015年の時点で、200万人から370万人の子どもたち(18歳以下、全体の子どもの数の2〜5パーセント)がLGBTQの親をもち、そのうち約20万人が同性カップルの手で育てられている。さらに多宗教・多人種国家アメリカでは、2010年以降、10組に4組は異宗教間の結婚で、10人に9人のミレニアルズは、異人種間、もしくは異文化間の結婚にまったく問題がないと考えている。

 ジェンダーの自由に引き続き、家族の役割も広がりを見せる。家庭を持っても働くパレニアルズ(母)は増えている。母親のライフスタイルブランド「Motherly(マザリー)」が5,700人のパレニアルズ(母)を対象に行ったアンケートによると、およそ70パーセントがフルタイム、あるいはパートタイムで働いている。この状況について、ある記事で見つけたパレニアル(母)の発言が的確だった。

「金銭的にも不安定な状況で子どもをもつことは、どこか“スタートアップ”のよう。なんとなく目標には向かっているのだけれど、結果どうなるのかはわからないもの」。、家庭を持って子どもを育てることを一つのライフプロジェクトのように捉えて、わからないことはググり、リサーチし、多くの作業をアプリで合理化し、他者と共同して乗り越えていく。これこそパレニアルズの感覚なのか。

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Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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