眼に映る文字、その見え方はさまざま「“普通の読み方”は一つじゃない」並ぶテキストの色も文字間も自由に、自分用に読む

スタートアップの活動や新しいプロジェクトから読みとく、バラエティにとんだいま。HEAPSの(だいたい)週1レポート
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新しいプロジェクトからは、バラエティにとんだいまが見えてくる。ふつふつと醸成されはじめたニーズへの迅速な一手、世界各地の独自のやり方が光る課題へのアプローチ、表立って見えていない社会の隙間にある暮らしへの応え、時代の感性をありのままに表現しようとする振る舞いから生まれるものたち。
投資額や売り上げの数字ではなく、時代と社会とその文化への接続を尺度に。新しいプロジェクトとその背景と考察を通していまをのぞこう、HEAPSの(だいたい)週1のスタートアップ記事をどうぞ。

※※※

読むのが苦手、書かれた文章を理解することが難しい。

「普通に読む」の普通とはなんだろう。書かれた文字をスムースに追い理解していくこととすると、視力の悪い人がメガネやコンタクトで自分の視力を補正して「普通に読む」ように、書かれた文字をが苦手な人には、それを追いやすいように自分用に調整していく。

「難読症」を助けるのは、あるアプリだ。

「“普通の読み方”は、本当は一つではないはずです」

 読み書きが苦手で教科書が読めない。視力は良く、知能に問題があるわけではないのに、読み書きが遅い、読み間違えてしまう。この状態を「難読症(ディスレクシア、読み書き障害)」と呼ぶ。

 俳優のトム・クルーズやキアヌ・リーブス、監督のスティーヴン・スピルバーグも難読症をもっていたことで知られている(スピルバーグはいまでも脚本を“読む”時間、2倍長くかかるという)。

 文字とその音を読む「音韻処理」という脳機能の発達が未熟であることが原因とされているが、義務教育において、まだまだ統一された書き文字の教科書から学ぶことが多い子どもたちにとってとんでもない足かせとなる。

 症状の具体例としては、小文字のbとd、数字の9と6が混同して見えたり、文字がにじんだりぼやけたり、一つひとつの文字は認識できても単語として意味を捉えられなかったりするなど、さまざま。世界の難読症人口は未知数であるが、米国では、5パーセントから15パーセントの子どもと大人が難読症を抱えているといわれている(北米神経科学学会、2004年)。

 診断が難しいのも苦労の一つ。目に見えるわけではないため、周りの人が気づくことが難しい。診断基準も、

・読むのが遅い。
・学校では読み方を学ぶのに苦労した。
・音読は好きではない。
・見直しをしても、まだ誤字がある。
・長い音節の単語の読み方がわからないことがある。

 など、誰でも1つは当てはまりそうな悩みだ。人によって度合いも異なるため、難読症かどうか自分で診断するのも難しい。そのため、難読症をもつ子どもは「頭が悪いから読めないんだ…」と悩んだり、教師によっては難読症の生徒を「注意不足、努力不足」と判断してしまうことも多いという。大人になってようやく自分が難読症だと認識する人も少なくない。

 難読症の学習方法はいまのところ、音声読み上げソフトを使うのが主流だが、長文を聞いて学ぶのも限界がある。そんな状況への一助にと開発されたのが、クロアチア発(2019)のアプリ「オモグル(Omoguru)」だ。

「“普通の読み方”は、本当は一つではないはず」という信念のもと、教科書や書籍の文章を自分が一番読みやすいように、デザインをカスタマイズできるアプリを開発した。「文字が反転して見える」「文字がただの塊に見えて内容が入ってこない」などの症状を解決するという。

 読みたい教科書や書籍をアプリ内でデータ検索するか、自分が持っているものを写真を撮ってデジタルスキャンしてスタート。そのあと、スキャンされた文章を調節でき、その方法はさまざま。

 文字の字間や行間、太さ調節、フォント、文字色と背景色の変更など基本的な調整はもちろん、リズムをつけて読めるよう、数文字ごとに自動的に赤と青で色わけしたり、混同しやすい小文字のbやdの丸い部分だけ色を変えて注意を促したり。さらには、一行ずつスポットライトを当て、いまどこの行を読んでいるか見失わないようにしたりなど、カスタマイズ方法がいっぱいだ。読み方も、スクロール式・スワイプ式と選べるから、究極の自分好みの読み方ができる。また、オモグル・オリジナルフォントの「OmoType」は難読症フレンドリーなフォントとして、通常より速く読みやすく設計されている。

 細部までディスレクシアのためにこだわりを持ってつくられたこのアプリは「難読症ってほどじゃないと思うけど、文字を読むことがちょっとしたストレス」という人にも便利そうだ。



アプリは、いわば“メガネ”のようなもの

「難読症は、障壁(difficult)ではなく、個性(differences)です。難読症をもつ者は異なる考え方をもち、世界を異なる角度で見ているだけなんです」

 難読症を“障害にしている”のは、読み書きが不自由なくできるマジョリティを中心につくられた世界だ。メガネを当たり前にかける世界では、ちょっとくらい目が悪くたってそれは障害とは呼ばれない。iPadなどのデジタルデバイスを導入する学校や、コロナ禍の影響でオンライン授業をおこなう学校が世界で増えてきた。これからはデジタル教材の時代だ。オモグルのようなアプリがメガネのように普及すれば、ちょっと文字を読んだり書いたりするのが苦手な人がそれを「障壁」だと感じることは、きっと少なくなっていく。

■障害という表記について:表記ではなく社会そのものをアップデートする必要があるという認識のもと、障害という表記を文中で使用しています。また、障害とは一定の個人に由来するのではなく、あらゆる個人が存在し共存しようとする“社会”にあり、それをあらゆる個人らが歩み寄り変えていく必要がある、という考えを弊誌は持ちます。

—————
Eyecatch Graphic by Midori Hongo
All Image via Omoguru
Text by Rin Takagi
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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