香港・台湾・タイ。アジアの民主化運動、互いの抵抗と活動を確かめ合う連帯 #MilkTeaAlliance(5分間の音声テープ回答と読む)

ミルクティー同盟。政治、社会についての主張を、甘い飲み物に託して。
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昨今のアジアの政治と社会情勢の話には、いま「ミルクティー」がつきものだ。

民主化運動が強まるアジアの三つの地域〈タイ・香港・台湾〉の結束を深めているのが、彼らの共通項である「甘い飲み物への愛」だ。オンラインではじまりオフラインでも力をつけてきたムーブメント「#MilkTeaAlliance(ミルクティー同盟)」の、甘くゆるく茶目っ気あるこの“アジアの連帯”に、ぷすりとストローをさしてみる。23歳でノーベル平和賞候補にもなった、民主化運動のアイコンである黄之鋒(ジョシュア・ウォン)にも質問を送ると、音声テープで回答があった。

民主化運動と「#MilkTeaAlliance(ミルクティー同盟)」

 紅茶葉に砂糖やコンデンスミルクをたっぷりくわえた濃厚なオレンジ色の「タイのミルクティー」。日本にも専門店が続々と登場し新しいドリンクブームを引き起こした「台湾のタピオカミルクティー」。英国の植民地だった歴史を背景に、エバミルク(無糖練乳)でコクを出す「香港のミルクティー」。これら三者の甘い飲み物と、民主化運動の動きとは何なのか。まずは、三者を取り巻く情勢を振り返ってみよう。

親中国・親軍への反抗、タイ

2014年の軍事クーデター以来、軍出身のプラユット首相が率いる政権が国を牛耳り、言論統制などが敷かれ、民主主義が脅かされている。さらに政権は「タイにとって一番のパートナー」と称するほどの「中国」寄りで、中国人投資家や中国人旅行客を歓迎する姿勢を見せる。これに対し「極めて政治意識が高くなっている」若者世代を筆頭に、不敬罪の廃止や王室の政治不関与、特権廃止など、親中・親軍の体制を変革する声が上がり、デモや集会を開催。緊迫した状況が続き、昨年から、カンボジアなどの近隣諸国に亡命した数名のタイの民主活動家たちが相次いで何者かに連れ去られ行方不明になっている。

「自分たちは中国人ではない」香港・台湾

香港では、周知のように数年前から民主化を求める抗議行動がおこっている。2014年に起きた中国政府への抗議運動(雨傘革命)から、昨年夏に若者主導で激化した「逃亡犯条例」改正案に抗議するデモまで。政府のトップを決める選挙委員会が中国政府寄りに対する反抗や、もはや現在の若者たちは自分たちを中国人だと思っていないという中国本土からの乖離意識が、香港のいまの世代にある。

台湾はどうだろう。毛沢東率いる共産主義党との内戦に負け、蒋介石をはじめとする政治家が中国本土から逃れた先が、台湾だ。その後、今年7月に逝去した“台湾民主化の父”、李登輝などの政治家が台湾の民主化、近代化を進めた。多くの台湾人、特に若者たちは自分たちのことを中国人ではなく「台湾人」だと認識しているという。

 このように、タイ、香港、台湾は、抱える問題はさまざまだが、反権威主義、中国への抵抗、民主化の促進という共通意識を根底に持ち、お互いへの同情があった。そして今年4月、ミルクティー同盟結成のきっかけとなるある出来事が起こる。タイの人気セレブカップルがお互いのSNS上で、香港や台湾の独立を支援、擁護するような投稿をしたのだ。これに、中国本土のネット市民が激怒し、中国 v.s.タイのネットバトルが繰り広げられ、どこからともなく「#MilkTeaAlliance」というハッシュタグが出現。ツイッターやインスタグラムには、#MilkTeaAllianceとともに、さまざまなイラストなどが溢れるようになった。そのなかでもミルクティー同盟をシンボリックに表すのが、タイミルクティーとタピオカミルクティーとミルクティーで乾杯をするイラストだ。

「ミルクティー同盟は、公式の団体ではありません。政治的な組織というよりかは、ミーム(ネット上のジョーク)といったところです。自発的な一体化といいますか」

 このイラストをSNSに投稿した黄之鋒(ジョシュア・ウォン)だ。昨今の香港の民主化運動のアイコンで、23歳でノーベル平和賞候補にもなった。物理的に離れた三者を民主主義思想のもとに繋いだミルクティー同盟の実態について尋ねてみると、5分の音声テープに早口の回答をつめこんで送ってくれた。

ファンシーキャラ、アニメ風のミームで意気投合

 SNSで「#MilkTeaAlliance」を検索すると、スクロールが延々と続く。ロイター通信によると、今年の8月18日の時点で、#MilkTeaAlliance が使用されているツイートは10万以上にものぼっていたという。さらに「#MilkTeaIsThickerThanBlood(#ミルクティーは血よりも濃し)」とタイ語で書かれた変化球ハッシュタグも登場し、100万ものツイートで拡散されたらしい。

 投稿されているのは、ちょっと懐かしい感じのするほっこりファンシーキャラタッチの3種のミルクティーちゃんたちが手を繋いでいるイラストや、3種のミルクティーを擬人化したアニメ風のイラスト。また「#タイのデモクラシーを守ろう」というメッセージが添えられた日本の漫画キャラタッチの学生たちのイラストや、3者の旗(タイの国旗、台湾旗、民主主義活動家によって使われる香港の旗)を並べたイメージなど。

「#タイのデモクラシーを守ろう」イラストが香港のユーザーによって投稿されていたり、3者の旗の写真がタイのユーザーによってタイ語のコメント付きでポストされていたりと、互いのデモクラシーをネット上で応援している。言語が異なっていても、投稿者が遠く離れていても、ビジュアル(ミーム)を通して、民主主義への意思を確かめ合っているような感じだ。

「構造的な団体であるわけではないので、特にメンバーになる手続きなどもなしです」。ということは、これらのミームを作成し投稿するのも、みな有志が自発的にやっていることで、自然発生的に自由な交流が三つの地域間で起こっているのだろう。

黄之鋒「タイと香港、台湾の人々の親密さ、仲の良さが、ミルクティー同盟の盟友としての“誇り”なんだと思います」

オンライン署名活動にアパレルブランドも誕生

 #ミルクティー同盟の強靭さは、オンラインだけの“確かめ合い”のみに止まっていないところにある。今年、タイ・バンコクでおこなわれた大規模な反政府デモでは、参加者によって先述の3者の旗を並べた“#MilkTeaAllianceプラカード”が掲げられていた。さらにデモの地元参加者は、ミルクティー同盟の仲間たちによって支援を受けたとのこと。また今夏、台湾・台北では、香港とタイの民主化運動を支援する大きなラリーが開催された。

 デモでの助け合いだけではない。ミルクティー同盟は、オンラインでの署名活動にも一役を買っている。署名活動の内容は「中国のメコン川ダム建設」。中国から東南アジア各国を流れるメコン川上流に中国が相次いでダムを建設したのちに川が低水位を記録、下流にあるタイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオスなどの地域の農業や漁業に悪影響を及ぼしていた。これに対し、米国はこれは中国のダム建設が原因だと主張、中国は自分たちのせいではないとして、米中対立が勃発している。ミルクティー同盟は、中国のダム建設を止めるよう米国のホワイトハウスに訴える署名活動をし、10万の署名を集めた。

 このように、SNS上でのミームを飛び出した活動がタイ、香港、台湾という3つの土地で同時多発的に起こった。これを受けてミルクティー同盟ムーブメントの浸透と拡大が進んでいるが、こんな取り組み(?)も見つけた。香港では「ミルク・ティー・アライアンス」という名のローカルファッションブランドが誕生したのだ。お決まりのミルクティーのほんわかイラストに「We Just Really F**king Love Hong Kong.(私たちは香港のことをマジで愛しています)」といったメッセージがプリントされたTシャツなどを販売している。

「社会についての話も、退屈なナラティブではなく。たのしくかわいく」

 海を越えて、オンラインでおこるアジア諸国の“最も思想的に見えない、思想的な繋がり”。そのほとんどは、とてもゆるく、まるで政治的、社会的な思想の元に集まるグループではないようなやりとりだ。たとえば、ミルクティーのほんわかイラストの投稿に対して、リプライには「超かわいい」「絵、うまいね」「力を合わせて頑張ろう」などの、無害で非攻撃的なコメントがついている。

黄之鋒「このゆるい感じが、連帯を強くしている気がしています」

 政治的な主張や社会についての意見交換ならいままで通り、SNSや動画チャンネル、フォーラムなどでできる。が、このゆるゆるミルクティー同盟はなぜ大きなムーブメントになったのか。

黄之鋒「退屈な分析やナラティブに比べ、(ミルクティー同盟での繋がりは)もっとたのしいし、かわいい。社会で起こっている問題についてなぜ耳を傾けるべきか、どう傾けるべきかを可視化しています」

 そのほかにもミルクティー同盟に関わるアクティビストたちの声には、「シリアスなトピックに対してのたのしい感じや、カジュアルなアプローチが、さまざまな地域のSNSに慣れている若い世代にウケたんだと思う」「ユーモアはとてもパワフルな道具。脅威に対しても笑いで返せるから」というものも。

 その読みはするどく、つい最近ではタイ、香港、台湾に、中国と国境紛争を繰り広げているインドもくわわったことをミームで知った(乾杯の絵に、インドの「チャイティー」がくわわっていたから)。ツイッター上では「フィリピンミルクティー同盟」も一時期結成されていたという(現在は削除されている模様)。

黄之鋒「僕自身、(ミルクティー同盟の)ミームやハッシュタグが、世界の活動家たちがさらなる協働を強めるきっかけになると思っています」

 このアジアの連盟は、ゆるく長く続きそうだ。

Interview with Joshua Wong(黄之鋒)

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Eyecatch Image by Midori Hongo
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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